第2章36話「醜態」

 ガーベラはプルプラスに向けて構える。


 ここで死ぬことになるとそう確信して。


 相手は悪魔の中で4位だ。

 逃げることも出来ない。

 戦えば瞬殺される。


 ただの悪あがきにしかなれない。

 悪あがきにもなれないかもしれない。

 だが流河を助けるためには役目を果たすためには命を賭けるしかない。


 流河は何をしたのか分からないが、時間を稼いだ。

 プルプラスから一度逃れてそして今プルプラスから殺意を感じる。

 流河は何かしらで一度逃れることが出来たのだろう。

 ならやりようはあるのだ。


 相手はやる気だ。多分殺す気なのだろう。

 悪魔の動きは確認されているはずだ。

 連絡も入れた。


 5分もかからないうちに救援部隊が来るはずだ。

 今はどんなに犠牲者を出したとしても流河を捕まえさせるわけにはいかない。


 それまでの時間を稼ぐしかない。

 流河は魔石を向け、相手に狙う。


 プルプラスの狙いは確実に流河だ。


 ガーベラなど一度も見ていない。

 相手はただ流河しか見ていない。


 これだけの魔力量だ。

 小細工なんて通用しない。


 おそらく相手は流河を捕まえる気だ。

 なら殴ったり魔法を使ったりなど相手を傷つけるようなことはしないはずだ。


 ガーベラはプルプラスに突っ込む。

 とにかくまずは距離を……


 ガーベラは何もされなかった。

 ガーベラの前からプルプラスが姿が消えた。


 後ろを振り返ると

 いきなり流河はプルプラスに顔を掴まれた。

 流河は叫び声も上げるもすぐに雄たけびを上げて魔法を使う。


 首から手を離すと流河の腹に向かって蹴りを入れた。

 流河は奇跡的に足を入れることに成功した。そう奇跡的なのだ。


 骨と肉が千切れる音がした。

 足が不自然な方向に曲がりもう動かすことが出来ない。


「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!!!!!!! ああああああああ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!!!!」


 流河は叫び続んだ。

 足を抑えてただ耐えることしか出来なかった。


 骨は身から飛び出して血がどくどくと流れる。

 足は下にだらんと落ちて、その手は動くことがない。

 流河は立てなくなる。


「あああああ!!!!!!」


 流河はそれでも雄たけびをあげて戦い続けた。

 氷魔法で何とか自分を動かしそして炎魔法で相手を近づけさせないようにと。


 だが威力のない攻撃など意味をなさない。

 分かっていたのに何も出来なかった。


 流河も。そしてガーベラも。

 足も動けずただガーベラは眺めていた。


 その姿は隙だらけだった。

 その腹にプルプラスは膝蹴りを入れた。


 流河はプルプラスの前にして吐しゃ物を吐いた。

 吐きながら動くことなど流河には出来なかった


 プルプラスはその頭にかかとを入れた。

 流河の顔面は吐しゃ物に突っ込み、胃液とそして土に顔は汚れた。

 

 流河は怒りもせずプルプラスを見る。


「ご、ごめん…ごめんなさい……」


 そんな謝罪をプルプラスは許してくれなかった。


 剣で切られた。

 肉をえぐられ、神経を引っ張りだされた。


 過剰攻撃だった。拷問だった。

 肉をぶちまかれ、骨を引っ張り出され、そして。


 回復魔法をかけられる。

 神級回復魔法によって体を完全に修復されたところをまた攻撃されて抉られていく。


 爆発魔法を持った手で腹を貫かれる。


「まてまてまてまてまてまてまってまってまってま!!!!! ああああああぁぁああ!!!!」


 小さな爆発魔法は内臓を損傷させた。

 流河は痛みによって気絶させる。

 どれだけ気絶しようが水魔法によって起こされる。


 流河は攻撃することも防御することも出来ずただ叫び声を上げられた。

 回復魔法をまた当てられ体は修復される、


 流河はプルプラスの膝を掴んだ。


「やめて……ください…」


 プルプラスはそうやって乞う流河を笑って足で蹴った。


 気分を貼らすための攻撃をしている。

 義息子なのかどうかなんて関係ない。


 ただ気分がいいからと攻撃を続ける。


 プルプラスは流河に回復魔法をまた当てる。

 足も体も全て治されている。内臓も神経も全て。

 ガーベラは動けなかった。


 また流河は攻撃を受けた。


「立てよ」


 流河の目が恐怖と絶望に染まる。

 つま先が流河の頬にめり込んだ。


 歯が口からなくなって、口から血が溢れる。

 流河は涙を流し鼻水も出しながら、


「許してください…許してください!! 大翔!! 大翔!!

 助けて、大翔!!」


 歯が無くなり、血が含まれながら流河はそう言葉だと聴き取れない叫び声でプルプラスに許しを乞い、大翔に助けを乞う。

 痛みをこらえて相手の不愉快にならないと小さくそう頼み込んだ。

 それでもプルプラスは殺さず、ただの痛みと回復を与える。


 攻撃されながら流河はガーベラに助けを求めるようにガーベラを見ていた。


 それはほとんど無意識に助けを求めていた。

 プルプラスはガーベラのことなど見ていない。

 見なくても大丈夫なのだとしたにみられている。


 どうしてガーベラは流河の事を守れていないのだ。

 どうしてガーベラは、動いていないのだ。


 時間は稼いでいる。

 流河が攻撃を受けているからだ。

 プルプラスの気分がどれだけいいか分からない。


 プルプラスの気分が下がればどうなるのだろうか。

 後どれだけ気分がいい状態をプルプラスは保つことが出来る。


 プルプラスを如何したら気を引き付ける。

 流河は何故あそこまでされているのだ。


 それが分かればすぐに行動できる。

 でもそれが出来ないのならたった数秒だけの時間稼ぎに移行しなければならない。


 攻撃できない。

 もし、流河を人質にされたらガーベラはどうしようもできない。

 流河を人質にされればガーベラは救う手立てを完全に失う。


 流河の事をガーベラと同じようにされるというなら。

 尊厳も奪われ、死んだ方がましだとそう思うような拷問をされる。


 その二つとそして無力さがガーベラを動かせなかった。


 流河の目とふと目が合った。


 ――どうして助けてくれないんだよ!!


 そう聞こえた気がした。

 その目には恨みがあって、そして声は大翔の名を呼んでいた。

 ただそれだけしかなかった。


 ガーベラの事を友達と言ってくれて。

 命をかけたら駄目だと言ってくれて。  

 そしてガーベラの為に戦かってくれて。見捨てずチェリアが来るまで抱えて助けてくれた。


 そんな流河の目は失望の目に代わって、恨みと怨念がそこにあった。

 痛みによって余裕が無くなり棒立ちのガーベラに怒りを覚えるのは正しいだろう。


 こんな状況で怒りよりも恐怖を覚えて棒立ちしているガーベラに流河は再び大翔の名を叫んだ。

 ガーベラはその目に頭が真っ白になるも頭を振る。


 とにかく相手の気を引きつけないといけない。

 流河が相手に回復して万全の状態になったタイミングで攻撃を仕掛ける。


 それまで待つしかなかった。

 流河が攻撃を食らい終わるまで。


 再び流河がこちらに向く。

 回復され喋るくらいの肉体は回復されたのだろう。

 さっきまでの恨みを忘れ、回復を欠けられている途中だがこちらに涙ながら近づく。

 流河がガーベラを見る目が変わった。

 その目は助けを乞う目だった。


「車花ぁぁ!! 助け……」


 そうガーベラに近づいてガーベラに助けを乞う。

 だが流河は足を刺されて動けなくなった。

 回復魔法が終わって、二人の間に距離が出来たタイミング。


 ガーベラは二人の間に壁を生やした。


 流河を岩の壁で出来るだけ離す。

 岩をプルプラスに向けて放ち、四方からプルプラスから攻撃する。

 だが岩は相手にぶつかって砕けて消えた。


 ガーベラは魔力を送って、岩の形を変えて何度も何度も攻撃を仕掛けた。

 熱を加えた岩魔法もプルプラスにやけどを与えることが出来ない。

 表面に張っている身体魔力で防がれたのだ。


 これで流河をどこか隠すだけの時間を作れば、結果的に魔石を持った人たちがたどり着くかもしれない。


 それまでの時間を今ここで稼ぐしかない。

 例えガーベラが死ぬことになっても。


 ガーベラは何とかプルプラスに拳を入れた。

 だが手が痛くなっただけで相手にダメージが入っていない。


 ガーベラは直ぐに離れてプルプラスの障害になろうと流河の前に立とうとする。

 だがその障害は僅か一秒を持たなかった。


 力で腕を抑えられ、胸に一突き手刀が入る。呼吸が上手くできない。


 それでもなけなしの魔力を使って相手に攻撃し続ける。


 当てるのは爆発魔法だ。

 攻撃、音、光、煙。足止めで必要な役割を全て果たせる。

 相手はそれで止まってくれた。


「邪魔だ」


 魔力が尽きた。

 魔法が撃てない。何もすることが出来ない。


 そんなガーベラを

 プルプラスは剣を取り出しガーベラに向ける。


 死んでしまう。

 でも死ぬよりも流河の拷問の方がもっときつかった。

 これでもましだった。


 ガーベラは目を閉じた。


 今度こそ駄目だとそう思いながらその剣先を見ていると走馬灯が見えた。

 見えたのは家族との思い出や今まで戦った記憶が見える。

 でも何よりも長く走馬灯に来るものは


「あ、は………」


 大翔とジェイドの訓練の記憶。

 今まで思い返したこともないのに、繊細な戦いの内容まで思い起こされた。

 今魔法を放つことが出来ないガーベラは大翔のように剣を受け流すことしか今生き残るすべはない。


 大翔のようにすれば生き残ることが出来るかもしれないと。

 走馬灯とは死の間際に何とかして生き残ろうと記憶の中から何か答えが見つけようとする行為だと。


 車花が生き残るためには大翔の動きをまねるのが正解なのだとそう認識してしまったのだ。


 どれだけ心が否定しても体はそう解釈した。


 思わず乾いた声が出てしまった。

 あぁ、と声が出てしまった。


 心では認めなくなかった。

 でも認めてしまった。


 たった三カ月しか訓練していない大翔にガーベラは勝てないと。

 ガーベラは家の名を名乗る資格などないということを。


 天使の義子を守れなかった戦士の端くれすら慣れないことを。


「車花!!」


 肩が何かが押される。

 液体がガーベラの身体にかかった。


 ガーベラが目は開ける。

 そこにいたのは


「流河?」


 流河は胸が貫かれ、口から血を吐き出した。

 流河はそうして倒れた。


 焦りや絶望よりも先に出てきたのは諦め。

 ガーベラは流河を担ぎ上げることも出来なかった。

 プルプラスが舌打ちしながら流河を持とうとするが、その手を払う事すら出来ない。


 だが流河とプルプラスの間を目の前に知らない人が入ってきた。

 女性だ。


 確か流河がリリィと呼んでいた。

 ませている小5の子供がその胸を見て恐怖で下を向くより上を向いているほどのスタイルの持ち主。


「なんなんだ、お前は?」


 リリィは釣り竿を振る。

 だがプルプラスは防御魔法で全身を覆った。

 釣り竿にある小さな剣はその防御魔法にはじかれる


「……少し厳しいか」


 避難民にいた人だろうか。何故悪魔の攻撃を受け止められているのか、

 釣り竿を捨て、格闘戦に持ち込まれる。


 思い出した。防御魔法も一度ガーベラが教えようとしたが結局出来なかった人だ。。

 だが戦えている。


 身体魔力だけで、手りゅう弾や剣を使って戦えている。


「流河様!!」


 リリィが戦っている間にそう騎士や剣士が来た。

 服はぼろぼろで血だらけの流河が、そして何も守れず流河の血で染まったガーベラの醜態を見た。


 騎士は


「何をやっている」


 そうガーベラにぶつけた。


 騎士達はリリィの援護に回った。


 騎士も剣士も闘士も瞬間移動魔法も空間移動魔法を習得している。

 それを使ってリリィを補佐していた。


 流河を運ばないと。

 ガーベラはやるべきことが見つかったとその場から離脱した。


 この数分間稼いだのは流河だ。

 ガーベラはただ何もしなかった。


 そして守ってもらった。

 ガーベラにしか出来ないことは何もかも無くなってしまって。


 ガーベラは戦士の端くれに置くことが出来ない。置かれないと分かった。

 そしてオルリー家の端くれにも置かれないとそう分かってしまった。

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