第1章12話「無知」

 大翔は流河達と別れ、悪魔相手に戦いを続けていた。


 相手は強い。まるで漫画やアニメの世界相手に戦っているようだった。

 でもついていける。

 

 悪魔は空中に飛び、空から岩や光をこちらに向けて放ってくる。それをかわしてあらじっくりと観察していた。360度から相手は攻撃をしてくる。そのおかげで空を飛ぶことが出来た。機動力が段違いだ。


 相手の飛ぶ方向を確認し、そこに魔法を撃つ。相手は軌道変更をして回避するもの、それによって軌道変更の仕方は理解出来た。

 観察によって今では悪魔と空中戦を行うことが出来た。


 今大翔は悪魔の攻撃をしのいで、逃げて回っている状況だ。

 ビルの合間を飛び魔法を避け、ビルを壁にして攻撃をいなしていく。


「お前はいったい何者だ!?」


「何者って、戦闘経験もないただの一般人だけど………武人と一般人の見分けもつかないの?」


 自分の服を見る。どこからどう見ても黒一辺倒のパーカーとバスケットパンツだ。マントも金の装飾品もついてない。剣もなければ、鍛え上げられた体もない。


「でも便衣兵とか怖いか……殊勝な心掛けだね」


「ふざけるなぁ!!!」


 相手は様々な魔法を撃つがそれを全て対応する。

 右、左、風魔法、前進、薙ぎ払い。氷魔法。そして雷魔法。

 見えている。相手の動き、相手の電気信号、筋肉の収縮、魔力の流れ、そして、周りの状況。すべて見える。


 この緑色に光る目は、全てを教えてくれた。

 魔法の使い方。相手の動き。出力を上げ下げすれば魔法はどのように働くのか。


 魔法について無知な自分でも、この目があるから今悪魔と渡り合えている。


 だが例え見えていたとしても結局体が反応できなければこの目は役に立たない。


 だからこそ大翔は異世界の人間なのだと知覚出来た。


 子どもの時から少し周りが遅いなと思っていた。

 でもそれはアスリート能力が高いだけで、もしかしたら日本領一のスポーツ選手に

 なれるのかなと子供ながらに思ったくらいだ。


 そして大翔は引き籠りになってあまり知覚出来なかった感覚。


 外に出て悪魔と戦って自分は悪魔と同じ世界の人間だと知覚した。


 不思議と怖くはない。

 悪魔は攻撃しながら接近してくる。今までなら怖いと思っていただろう。


 でも今少し発見ともっと確かめてみたいという探求心、それらが少し恐怖を薄れさせていた。

 ビルの間を括りぬけて攻撃を回避することで、相手の空中を移動する魔法に制御をかける。


 ―――面白い。


 そうこんな状況で思ってしまった。

 初めて敵だとそう認めることが出来る。壁にぶち当たり、その壁を乗り越えてみたいとその楽しさに体の熱が上がる。


 初めて競い合える、負けるかもしれないとそう思わせてくれる。

 戦いの恐怖から逃れるためか分からないが、怖気つかずにいられるだけまだましだ。

 体に震えは思った以上になかった。


 反撃をしかける。使うのは相手が使っていた魔法。

 大翔は雷魔法を放つ。相手は大翔から出てきた雷をかわし、今度は風魔法を唱えてきた。

 かまいたちが大翔に向かって飛んでくるが、それを解析して同じように、かまいたちを撃って相殺する。


 目の前の人物がまさに教科書のようなものだ。

 モレクが動き魔法を使うたびに、その魔法がこちらも使える。


 悪魔は複数のかまいたちを作って切り倒そうとしてきた。

 大翔は回転し、建物を利用して更に相手に詰める。

 方向。加速するタイミング。速さ。角度。大きさ。


 そして回避するだけの機動力と反射神経があるのに当たる人などいないだろう。


「何なんだお前は!!」


 加速して正拳で悪魔の胸に向かって腕を振ろうとした。

 悪魔は防御の姿勢をとって拳を受け止めようとするが、その体勢になるということはわかっていた。

 

 空中移動を少し半身にして上昇。膝で耳のある部分を蹴り、そのまま足で頭を強く蹴る。


 そのまま更に手に力を入れる。

 自分の中にある魔力が動き始め、そしてかまいたちが現れた。

 それを悪魔に投げつける。空気を切る音をしたかまいたちは防御魔法で防がれた。


 モレクは黒い光をした壁でかまいたちを防いだ。


 ―――意外と冷静だ。


 悪魔は大翔の想定より早く体勢を立て直した。

 この目がなければそのまま突っ込んでいたのだろう。


 さっき相手がこちらの蹴りに防御魔法を使わなかったのはおそらくカウンターをするつもりだったのだろうか。


 大翔はその場を動かず、相手の攻撃を待ち構えた。

 

 悪魔は何故かこちらを不気味そうに見てくる。


「お前は俺が怖くないのか? 俺はお前を殺そうと………」


「……? なんで怖がらないといけないの?」


「……殺してやる!!!」


 成功した。相手はこちらに向かってくる。

 

 悪魔はまた突っ込んできた。

 その目は大翔、ただ一人を見ている。周りに意識を割くことなど一ミリも見てなかった。


 作戦通りだ。そうやっては上を見続けてもらわないと困る。上に上昇しながら悪魔とそして地上を見る。


 下ではまさに戦場、嫌惨殺といえる悲惨な光景だった。

 

 死がものすごい速さで起きている。

 子供が泣くこともせず、銃を撃たれて死んでいる。その撃った軍人からは涙が流れている。子供を亡くした親が子供の骸を抱いて、泣き叫んでいる。腹に瓦礫が突き刺さり、声が出ないまま、まさに息絶えようとしている人もいる。


 目の前に広がるビルの奥側にも死体はある。


 頭に穴を空けた死体が道端で転がり回っている。

 転がっているという言葉ではないと言い表すことが出来ないほどの異常な状況だ。


 相手が他の人を巻き込むのが怖かった。

 大翔はこの相手を抑えることが出来ている。でももし相手が標的を変えてしまったら。この戦場はもっと悲惨なことになってしまう。


 今は悪魔を煽ってでも自分に的を絞り続けないといけない。人を傷つけるのは気が引けるが、やるしかない。


 魔法の世界も、この目も何もかもが未知数だ。相手に気を遣う余裕が今ない。

 大勢の人を助けるために悪魔を直ぐに仕留めなければならないのだ。


「よそ見までするか!!」


「してないし」


 この目のおかげで、視界は360度広がっている。

 頭の中で目に広がる景色と自分を中心とした3dゲームのような映像その二つがある。

 そしてその映像から相手がどこにいるのか。

 攻撃が届く時間とその通るラインと時間が認識できるようになっていた。


 防御魔法を体の前に貼る。爆発音を数秒続く。おそらく相手は次の手をするための時間稼ぎをしているのだろう。


「だから……無駄だよ」


「……な!!」


 悪魔は後ろから襲ってきた。それに対する反撃は成功する。

 

 相手は回り込んだわけではない。

 瞬間移動魔法でいきなり後ろを取ってきたのだ。

 異世界にどんな魔法があるか全てを知らない。でも空間魔法があるなんてかなり恐ろしい世界だ。


 どんな原理で空間が割かれているのか、物理法則はどうなっているのか。


 正直かなり気になるが、今はそんなことを考えている暇がない。


 悪魔は鈍器を作り、大翔に向かって横に振ってきた。

 その鈍器を後ろに躱した瞬間、モレクの鈍器が変形し、無数の針が襲ってくる。


 だが大翔は幅跳びのようにうしろ向きに一回転して横振りを回避。

 襲ってくる針を、防御魔法を体の横に展開することで悪魔に近づいて頭を肘うちする。そのまま動けなくなったモレクを腕を掴んでビルに向かって投げた。


「ガァァ!!」


 悪魔は後ろに吹っ飛ばされて、肺に衝撃が来たのか、唾を吐いた。

 変形した鈍器は空中の舞い、粒子となって消え去っている。


 黒い光が通って、ビルに穴が空いていた。あれはおそらく闇光魔法なのだろう。

 さっきの黒い炎もそうだ。おそらく闇魔法は炎魔法や光魔法などの威力や速度を底上げするために使ったのだ。


 悪魔は最初から時間差攻撃で挟み撃ちをするつもりだったのだろう。

 だが大翔のカウンターによって悪魔が作った鈍器を消し炭にしたのだ。

 

 金属の棒は崩れながら、粒子として完全に姿を消した。どうやら魔法で作ったものは残らない仕組みらしい。


「あんま大きい声出してると疲れちゃうよ? 一度力抜いたほうがいいんじゃない?」


「クソォォォ!! そんな目で視るな!!!」


 悪魔は接近してきた。

 これでいい。

 怒りで完全冷静さを失っている。攻撃が近接主体になってくる。

 

 遠距離戦では決定打がない。瞬間移動魔法、そして魔力を使った魔力防壁と魔法を使った防御魔法など相手は固い。魔法を知らないこちらにとっては近接戦のほうが相手を制しやすい。  

 

 かといってこっちもあまり余裕がない。早く決着をつけなれば。


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 モレクは攻撃を当てられないことに、相手の攻撃を貰い続けていることにいら立ちが増していた。


 何故だ。何故当たらない。モレクは一度距離を取り、目の前の子供の動きを注視しつつもそんなことを考えていた。


 モレクは悪魔の中で12番目に強い悪魔だ。だからこそ親衛隊に選ばれた。アドラメイク直属の部下として認められた。今まで多くの騎士や戦士を殺してきた。


 それがどうしてこのようなガキに手玉を取られている。


「ねえ。こんなに魔法使って街を破壊しているけど、魔王様のものなんでしょ? 怒られないの?」


「黙れぇ!!」


 しかもこの子供の性格が更に怒りを煮えたぎる。


 いちいち勘に触ること、言われたくないことを言ってくる。

 どうなったら、そのように育ったのか疑問点でしかない。


 戦いながら、煽りを考えているのなら、もっと腹立つ。

 それに加えて相手に攻撃も当てることが出来ない事が苛立ちを加速させる


 モレクは接近戦を挑んだ。

 でもこのガキは体をそらし、手や腕でこちらの攻撃の勢いを殺したりいなしたりなど、こちらの攻撃を回避して、攻撃してくるのだ。


 このまま体力が消費して少し落ち着こうと思ったタイミングに、近づいてすれ違いざまに魔法を撃ってくる。

 

 防御魔法を体につけ、振動は最小限に抑えたが、衝撃が体に響く。


 どんな魔法を使ったとしてもあの子供を殺すことを、ましてや攻撃することさえ出来ていない。

 ただ魔力の損失と体力を消費しているだけになっている。


 魔法を使おうとするタイミングで子供は後ろに下がった。直ぐに追いかけ、魔法を放つもかすりもしない。こちらもまた魔力を無駄に消費させられることに気づいてやめた。


「……もうちょっと冷静に考えた方がいいんじゃない?」


「うるさい!! うるさい!!」


 さっきまであった余裕が全くない。

 本気でやらないと勝てないということがもはや腹が立つ。

 こんなことを考えてしまう弱さに怒りが湧いてくる。


 何より相手に殺意を感じない。こっちは全力になって殺すつもりでいるのに、相手は力を抜き、情けをかけているのだ。

 

 そして攻撃を全てかわす。

 防御魔法を使わなくても攻撃を捌くことが出来るのだとそう痛感させられる。


 あの目だ。あの片方緑に光った目。あれが子供に攻撃が当たらない理由なのだろう。

 攻撃が全て読まれている。それで逆襲を食らうのだ。

 

 逆襲というところがまた腹が立つ。

 お前の攻撃なんか全て見切っていると言われているようなものだ。

 

 あれは異能だ。それを持っているということは捕獲対象になってしまう。


 アドラメイクが知れば恐らく捕えてこいというだろう。

 異能能力は例え外れ能力でも役に立つので、出来るだけ捕えてこいと何度も言われたことだ。

 

 だが殺してやりたい。体をぼろぼろにして助けを乞い、見逃すふりをして殺すのだ。

 そうでないと自尊心が、権威が占めることが出来ない。あれを使うのもなしだ。  

 

 自分の力だけでこのガキを殺さなければ。


「どうしても引かないというなら、僕も容赦しない。それでもいいの?」


 目の前のガキ、ハルトといったか。

 ハルトは腕を延ばし、足を延ばしていた。見たことのない動きに思わず口を開く。


「何をしている?」


「しっかり筋肉をほぐさないと体痛めるからね。そうだ、あなたもやったらどうです? そんなに体を大きく動かしているんだからやっといたほうがいいんじゃないですか? まずはお互いラジオ体操からやりませんか?」


「なめやがってええぇ!!」


 ハルトに近づくタイミングで、相手もまたモレクに向かって接近してきた。

 

 ハルトは今度純粋に攻めてきた。

 普通に攻撃をして、隙を作ろうとしてくる。

 さっきまで攻撃を誘発させて、体勢が崩れたのをいいことに反撃してきた時とは違う。

 

 それを見ているからか、下手に攻撃を撃つことができない。対応が遅れてしまう。


 戦いの勝敗には様々な要因があるが、その中の一つに手数というものがある。

 風や火、空間魔法といった魔法の知識、肉弾戦、武器を使った戦い方。


 魔法は基本的に手から撃つ。

 四肢と体に加えて左右の手から出る魔法。その7つを使う。 一対一なら14個を基本的に意識しながら戦わないといけない。

 

 それらを上手く組み合わせることで相手を崩すことができる。

 ただの蹴りに防御魔法を使ってしまえば、相手の二つの魔法に耐えられない。


 魔法の押し付けだけで、勝負が決まることがある世界だ。


 ハルトはそれがとても嫌らしく、組み合わせてくる。

 まるでこちらの動作を予測しているかのように。

 

 拳を出したと思えばすぐに下げて、足を出し、足を戻せば拳がやってくる。

 かといって少し強い攻撃を入れようとしたら強い一発が入る。


「何で当たらない!!」


 思わずそう叫んでしまった。相手の目の前で。

 そう叫んだことに更に怒りが溜まってハルトを殺しにかかる。


 その怒りは全く解消できなかった。

 

 ハルトはモレクの顔を殴ってこようとした。

 腕で防御しようとするが、構えた瞬間その腕を抑えてくる。

 

 そしてその懐に入ってきた。もう片方の手が腹に迫ってくる。

 

 防御魔法を使う時間すらなく、攻撃を食らってしまった。

 ハルトはそのまま後ろを取ろうとしてきた。逆の手には闇炎魔法で作った火の玉を作っていって、モレクに向けようとしている。


 これ以上追撃されたら体勢が崩れる。

 モレクは両手に集めた魔力で、水魔法と火魔法で作った蒸気を噴出した。

 

 ハルトはかなり密接していたのにかかわらず、蒸気を食らう前に反転して後ろに下がり、その火の玉を投げた。


 防御魔法を取る。

 火の玉は爆発して黒い煙だけがモレクを覆う。ハルトを視認できなくなっていた。

 

 モレクは目に魔力を流し込む。そして相手を視認した。

 ハルトは瞬間移動魔法で、背後を取ってきた。

 

 振り返って反撃しようとするが、それは出来なかった。


「な……」


 ハルトは同じ時計回りに移動したのだ。

 モレクと同じ速度、いや、同じ角度に曲がる以上、より速く外回りに移動したのだ。

 

 これは予測しているのではない。此方の動きを先見している。


 体勢を変えようとそう考えた時には遅かった。

 ハルトはまた膝で顔を狙ってくる。腕で受け止めるしかなく、防御魔法の発動も間に合わない。


 腕に衝撃が走る。

 両手から光魔法が0距離で撃たれる。此方も同じく両手で防御魔法を張りそれを防ぐ。


 でもこの時点でモレクは負けていたのだと理解した。


 両手で魔法を使った。


 相手はモレクを正対していて、モレクはハルトを半身の状態で脚で正対すること出来ず、片方の腕が使えない。


 そしてハルトはモレクよりも少し上にいて、足でモレクの腕を抑えていた。


 ハルトは身体を縮めて拳で頭蓋骨をぶん殴った。


 モレクの首が倒れ、頭が揺れた。脳が揺れて何も考えることができない。


「がああああ」


 隙が大きくなってしまった。

 攻撃に来ると本能が察知し、魔力防壁を全身に張ろうとする。


 だがそれよりも早くハルトのかかとが腰に触れ、そして大きな衝撃が体に響き渡る。


 腰が砕けたかのように痛い。

 そしてその衝撃で下へ下へと落ちていく。


 感じたのは痛みより怒りだった。

 どうしてこんなガキに、なぶり殺しにされてしまったのだ。

 地面がだんだんと近づいてくる。

 腰の痛みでモレクは動くことはできず、顔から地面をぶつける。


 間違えなく気絶する。


「くそがあああああ!!!」


 地面は陥没して体が地面にのめりこむ。

 そこに砂が入ってきて口に砂が入ってきたのを最後に意識が消えていく。

 

 悔しさの言葉を意識が失うまで言い続けた。

 そうでないと痛みを軽減出来なかった。


 ただ痛みで叫ぶよりも悔しさを言葉にし続けることモレクが最後に残された矜持だった。


 ////////////////////////////////////////////////////////////////////////////////

 

 流河はペルシダにあの日、気を失っていた時に起きた出来事を話してもらった。


 大翔はだからあの白金の髪、魔法を撃てる体、そして目に気が付いたのだ。


「あいつ………」


 そう小さく声に出ていた。

 大翔は魔法とか異世界とか、世界が支配されている発想に思い立ったのも今ならわかる。

 

 誰よりも理性的な大翔がどうしてあんなに非現実的なことを言っている理由も。


 でも話を聞いても大翔の距離は縮まった気にならない。

 あの時、大翔ははいつも通りの様子だった。

 まさかそんなことがあったなんて気が付かなった。


 少なくとも流河と大翔は完璧な兄弟ではないと考えたはずだ。


 でも、それでも大翔は流河をお兄ちゃんと呼んでくれた。助けてくれた。頼ってくれたのだ。


 ならばそれに答えなければならない。


 紫花菜やアスハを守らなければ。


 だから、考えるのは後だ。今は生き残ることを優先しないといけない。


 しかし、余りにも設定、情報が増えすぎではないだろうか。

 ただでさえ異世界の設定すら固まっていないのに、そこに大翔の謎という新たな情報が入ってきた。

 

 世界観だけでも全てを把握していない。


 余りにも無知すぎる。


 弟や自分の設定まで手を加えられたらさすがに覚えきれないし、脳の許容量も心の許容量もぎりぎりだ。

 

 そんな流河を見越して大翔は何も話してくれなかったのかもしれない。

 でも自分の体のことくらい説明してくれても良かったのに。

 

 ただそれだけがしこりをうむ。


「…という事なんです」


 車花と地球連邦軍の人達の方を見る。魔法を見せたりして、今この場所で起きていることを説明していた。地球連邦軍の人たちは頭を抱えてしまうくらいに動揺している。


「まさか、世界が洗脳されているとはな………」


「あなたたちにも色々あると思います。それにこちらが信用できるかどうかも………でも義信さんも一般人を犠牲にしたくないという気持ちは同じはずです。どうか力を貸して下さい」


「あぁ、もちろんだ。まずは君たちを避難させないと………」


 どうやら、この体格のいい軍人の名前は義信というらしい。

 

 こちらの車にはアスハや大和、それと義信と何人かの軍人が乗っている。


 さっきの戦闘で分かった。異世界人は地球側の人間では止めることが出来ない。

 対抗できるのは同じ魔法を扱える人物だけだと。


 そしてそんな相手がまだいるかもしれない。

 自分達の安全性を確保するために車花達の傍に居させてもらっている。でもこれでいいのだろうか。


 ペルシダや車花の足を引っ張っただけでなく義信や大和のように、なにか自分に出来ることもしようともしなかった。


 こうして庇護の元に入ってもらえることに自分の不甲斐なさを感じている。 

 大翔は悪魔と戦っているのに。今ピンチなのかもしれないのに。

 死の狭間に立っているかもしれないのに。


 自分はこんな甘えた所にいていいのだろうか。

 何か出来ないことはないだろうか。


「俺が出来ることか…」


 兄としてこのままでいいのかという気持ちがいる。

 何か出来ることを探さなければならない。

 

 流河は周りを見回らそうとしたその時、車花が何かを察した。


 車花は車の後部ドアを開け、車の上に飛び乗った。


「何か来るわ!!しっかり捕まってて!!」


 車花の叫び声に全員が身構え、空気が張り詰める。


 体に緊張が走る。


 車花は車の上に飛び出した。

 扉が開き、外の景色が見える。

 

 またあのような事が起きるのだ。戦闘態勢が入ったことで体がこわばる。


「ペルシダ!! 外に出といて!!」


「分かった!!」


 そういってペルシダも外に出てしまった。

 またあのような悪魔が来るのか。また死の恐怖を味わうことになるのか。


「敵は…」


 みんなの為に何が出来るか分からない。


 でも何もしないと始まらない。

 何かをするためには相手を見なければならない。

 

 周りを窓から、そして空いたドアからどこから来るのか確認する。

 

 どこからか、大きなエンジンが動いている音が近づいてくる。

 上からだ。この近くの道路橋のどこかにいる。


 まさか、また義信達のように、現代人が来たのかと思っていた。

 

 トラックの後ろのドアは空いていて、ペルシダが待機している。

 皆が外を注視して、義信達は武器を構えていた。



 そしてそれは現れた。


 敵は自分の予想とは全く異なっていた。悪魔でも、魔法が使える人間でもなく、またヘリや戦車でもなかった。


 突然辺り暗くなった。太陽に隠れたのだ。

 でも、ジャンクションは抜けている。


 上に道もないのに何故と上を見る。


 それは頭上にいた。

 大きい。流河達の車はそれに完璧に隠れている。

 それの足にタイヤがついているのを見た。タイヤは少なくとも流河の身長以上はある。

 

 さっきのエンジンの音はこれだ。そしてタイヤがついた金属物は自分達の真上にある。ということは踏みつぶさ………

 

 突然景色が変わった。違う。空間魔法だ。黒い穴が目の前にある。

 その黒い穴はさっき流河達がいたところにあった。


 そしてその黒い穴が踏みつぶされ消えた。


 それの全体像が分かった。


 「ロボッ…ト?」


 二足で動く機械がそこにいた。全身10メートル以上はあるだろうか。


 人型のロボットが全身を白い装甲で覆われている。


 そんなロボットが道路を走り、手にはマシンガンと盾、そして背中には大剣があって肩にはミサイルがセットされている。


 そのロボットのカメラがこっちを向いた。

 あまりの衝撃さにほとんどが息を飲んでいる。沈黙の空気の中、流河の叫びがその空気を打ち破った。

 

 異世界。逆異世界転生。洗脳。悪魔。魔法。地球連邦軍。異能。魔道具。そこにロボット。

 

 この世界観に思わず文句を言ってしまった。


「設定多すぎだ、馬鹿!!!!!」

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