第2章32話「異なる力」
何故だ。
リリィという女性はメフェスの魔法を簡単にかわす。
速度もかなり速い魔法を撃っている。
それに魔石によって多くの数の魔法を放っている。
下から来る岩の柱。上からの光線。
空間魔法による多方向からの攻撃。
だが相手は一度も当たらなかった。
ただリリィの反射神経にメフェスの目を見張る。
相手は攻撃をかわしてこちらに近づいてきた。
そして剣を持っている
殴りを入れてきた。二発、三発と。剣を振ろうにもその腕を止められ、続けざまに蹴りを入れられた。
「悪魔ってこんなものなのか?」
そういって笑った。
嫌、相手は誘っている。
さっきからそうだ。
その釣り竿のようなものも、それにさっきの大きな音が鳴るものも全て此方を欺くためだ。
どれもこざかしい物ばかりで、メフェスは怒りが湧いてくる。
メフェスはあまりこちらの世界の兵器の知識を入れていない。
嫌必要ないとそう思っていたからだ。
どれも防御魔法をしっかり張れば、防げるものだし特に銃に関しては身体に入った後でも防げないことはないからだ。
相手はそれらを駆使してまるでおちょくるかのようにこちらの攻撃を全てかわすのだ。
自分の反射神経を試すかのように。
怒りが抑えきれない。
だが冷静に考えるべきだ。
「お前は誰だ?」
メフェスは先ほどと同じ質問をする。
打撃はかなり強かった。
そしてそれなりの魔力量がある。
だが見たところ天使や悪魔といった血は入っていないようだ。
何となくそう思う。
もしこの女が天使や悪魔ならこんな戦いをしないはずだ。
こんな魔法を使わない戦い方など。
異国の人なのだろうか。
天使たちとの戦いに集中していて、他の国がどれだけあるのかなどと気にすることはなかった。
だが地球に来て、その広さについて知ると、元の世界にもたくさんの国があるのではないかと思う。その国からこの世界に来たのか。
これだけの魔力量ならもし自分たちの国にいたのなら知れ渡っているはずだ。
だが気になるところはいくつかある。
それは魔法を使ってこないという事。。
相手は防御魔法を使ってこない。
相手をけん制に光魔法を撃つ。
相手は防御を選んだ時魔力障壁を使う。
何より攻撃魔法を使わないのだ。
戦いの才能だけで渡り合っている。
此方の攻撃をかわすときに全く隙が無く、まるで経験を積み重ねたことで技術が伸びた老練兵と戦っているみたいだ。
だがこんな戦いの最中、魔法を使わないなどとあるのだろうか。
大技を繰り広げようとしている感じでもない。
剣士や闘士でも防御魔法は使うのに、リリィは使ってこない。
異国の人はこちらの国と別の戦い方をしているのか。
魔法というのを発展させなかったのか。
まさかそこまで魔法を使わないとなると、魔法を知らないなど言うのか。
魔力詰まりなどないのだろうか。
余りにも戦い方が歪だ。
此方の攻撃をかわすほどの反射神経と体があるのに、それが魔法のない世界で鍛え上げられたものなのかと懐疑心が深まる。
何か裏があるが、それを警戒しながら戦うよりも相手の騙し手に意識するべきだろう。
相手は予想していない攻撃を仕掛けてくる。
それで致命傷を食らってしまったら元もない。
相手が何か仕掛ける前に攻撃して殺すしかない。
メフェスは大きな光のかまいたちを作り、それを放出する。
リリィは死体から剣を取り出し、最初から身体魔力で攻撃力を高め、そのかまいたちをはじいていく。
相手は剣を投げつけてきた。
それをメフェスは防御魔法で受け止める。その前に相手は跳んでその剣を回収し、横になぎる。
も同じく剣で受け止め、火花が散った。
二撃、三撃と剣の打ち合いが始まる。
やはり剣術もうまい。
メフェスはわざと後ろに下がって爆発魔法を放ち、リリィの体勢が崩れるようにした。
メフェスは素早く剣を振ったがリリィは、全て剣でさばききった。
そして相手は蹴りを入れてきた。
というよりも上に跳び離れるためだろうか。
相手は銃を取り出し、の頭を狙う。
防御魔法を張り、その銃を防ぐ。防いていたのだが別の音が聞こえる。
下を見ると煙が炊かれていた。
すごい煙の量だ。弾が飛んでくるが、その弾が通り過ぎると直ぐに煙がその空間を覆うため、弾が飛んだ先は煙しか見えない。
風魔法で煙を吹き飛ばそうとする。だがそこで一度止まる。
また剣を投げてくるかもしれない。
着地の瞬間狙おうとするが、既に相手は地面に降り立っていた。
体に突然痛みが走った。
身体魔力が銃を握って撃っていたのだ。
「こんな小賢しいことを……」
相手は近づき、防御魔法を出す前に殴り飛ばしてきた。
メフェスは後ろの建物に衝撃を分散しながらなんとか止まることが出来るも肺に空気が入らなくなり、呼吸が苦しくなる。
相手が魔法を使っていたのなら魔力の流れから位置が何となくわかるのだが、相手が魔法を使わない以上とらえきれない。
そう思わせているからこそ、こんな無意味な魔力操作に引っかかってしまった。
相手はメフェスの視界から消えた。
メフェスは直ぐに立ち上がり相手を警戒する。
相手のポケットに何が入っているのか気を付けなければならない。
来る。身構える。
相手はナイフを取り出して投げてきた。
身体魔力で強化され銃よりも速く近づいてくる。
ナイフを防御魔法ではじこうとしたその時、
目の前で小さく光った。
目に衝撃が入り思わず目を閉じる。
目を開けた瞬間既に遅かった。
リリィは距離を縮めた。
だが事前に出力を上げた防御魔法を張った。前方に氷の壁が出来る
発動こそは精神魔力を引っ張る必要があり、普通の防御魔法と違って術式が必要となるため少し遅くなるし、隙が出来てしまうが相手は一度仕掛けてから本命の攻撃をするのではないかとそう予想したら見事に当たった。
相手の攻撃は届くことはなかった。
相手は下がりながら棒を取り出してきた。
槍や斧でではなく棒。しかもその棒は後ろのバックの中に入っていたものだ。
何かある。
相手の棒術もかなり上の方だ。
棒が伸びる。鎖が棒と棒を繋いでいたのだ。
見たことのない武器だが、その原理は遠心力と自分の腕の力を合わせた武器なのだろう。
受け止めることが出来ている。
対応が出来ている。
「魔石があるのにずいぶんと心配性だな。全然仕掛けてこないが恐れているのか?」
言葉を返せば相手の言葉を聞いてしまうことになる。
無視すれば相手の言っていることを無視できる。
「防御魔法を張らないとこっちの攻撃が当たってしまうのか?」
煽ってきている。
我慢しろ。相手は決定打はない。
どれだけ戦闘技術があっても所詮身体強化魔法しか致命傷を与えられない。
耐えて、冷静になって相手を仕留めるのだ。
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メフェスはだんだんと相手の戦い方に慣れてきた。
相手はこちらが万全な状態ではあまり攻撃を仕掛けてこない。
かなり慎重に立ち回っている。
だがそのせいで一度こちらが体勢を整えるとあまり有効打を食らうことはなかった。
逆にメフェスは反撃することも出来ている。
相手の魔力量が分からないが、その威力の底は見えてきた。
魔石一個で相手の攻撃は全て防ぐことが出来る。
そして相手は視覚や聴覚など感覚器官を奪っていく。
そこから攻撃を入れてくるのだ。
ならば目や耳を保護すればいい。
目や耳に魔力障壁の膜を張る。
視界が少し青がかり少し音は聞きにくくなるが、問題はないはずだ。
相手は再三攻撃を仕掛けてくるが対処することが出来ている。
慣らしを含めて攻撃の回避を専念していたが、相手がまたあの音と煙が出るものが目の前で起動されたが、痛みもなかった。
相手は食らったと勘違いしたのか、すぐさま近づいてくる。
メフィスは反撃した。
相手は直前に気づき回避したが、腕を削ることとなった。
流れが変わった。今度はこちらの番だ。
相手遠距離攻撃をかわしてくる以上狙うのは近距離戦だ。
圧倒的な魔力量で相手をかわすことが出来ないくらいに攻撃を仕掛ける。
だが近距離戦ばかりだと相手の土俵に立つことになる。
相手は遠距離魔法も空間魔法も使ってこなかった。というよりも使えないというべきだろう。
どの攻撃も重みもなく簡単にいなすことが出来る。
だが近距離戦に関しては読み合いに負け、致命傷にはならないものも攻撃を当てられてしまう。
ならば攻撃を仕掛けて空間魔法で相手の攻撃が仕掛けてくる前に距離を取る。
魔石は沢山ある。攻撃を止めることなく仕掛けていけば相手に隙が生まれるはずだ。
剣を振るが相手に受け止められてしまう。
光魔法を撃って、相手を足止めし、再び距離を取って相手に接近する。
闇断裂魔法。
空間断裂魔法よりも少し威力が落ちるものもその魔法に落ちないくらいの威力を兼ね備えている。
それを剣にまとわせ横に薙ぎる。
相手は魔力障壁を作り、しかもこちらの攻撃に合わせてちゃんと部位を絞って厚みを作った。
だがその努力の甲斐なく相手の腹から血が飛び散った。
相手は素早く後ろに下がり、魔力障壁で血を止める。だが痛いのか手で抑えていた。
だがなおも相手は攻撃を仕掛けてきた。
だが相手は煽ることすら出来なくなっていた。
口数がなくなり、呼吸が荒くなっていく。
警戒を緩めてはいけない。さっきも気を抜けたところで攻撃を取られた。
もうあんなへまはしない。この服には相手の返り血しか赤く染めることは許されない。
相手は近づいてきた。
距離が取られるのを嫌い、無理やりメフェスとの距離を縮めてきたのだ。
相手は物を投げた。また煙だ。
今度は変な臭いをするものだ。相手は例えその臭いを食らってでもメフェスを殺すつもりなのか。
焦った。
相手は力を入れて一気に近づいてきたのだ。そのせいで隙ができたのをは見逃さない。
相手が宙に浮き、制御をするには身体魔力でどこかにくっつくか空気を蹴るかだ。
魔力障壁を当て、防御した。
そのまま魔力障壁で足を、腹を掴み相手を身動きできないようにする。
そしてメフェスは両手で剣を持ち、その両手から力を込めた闇断裂魔法で首をねじ切った。
相手は、前に進む速さが落ちてそのまま下に落ちる。
その体の首から上は何もなかった。
何とか殺すことが出来た。ほっと息を吐く。
今までの鬱憤を晴らすかのように相手の首を蹴り飛ばした。
血で渦を巻きながらリリィの頭は川に音を立てて水の中に消える。
それを見届け終わった瞬間、
脳内が急激な痛みを訴えた。
咄嗟に頭を押さえ、回復魔法を当てようとする。
意識が混濁する。
まるで海の中に叩きつけられて息が出来ないような、お酒を飲みすぎて意識がないようなそんな感覚。
足元がおぼつかない。回復魔法もかけることも出来ない。
何があった。
ただわかるのは鼻に奇妙な香りがするだけだ。
「残念だったな」
その声の持ち主にやられたのだろう。
腕が切られた。それに心臓もだ。
回復魔法も出来ない。
力が入らなくなり体が倒れる。魔石も取ることが出来ない。
そういって意識が消えゆく瞬間、顔を上げる。
リリィが立っていたのだ。
首を切ったはずだ。
頭は川の中に消えていった。その首元には血がべっとりついている。何故生きているというのだ。
「視覚と聴覚ばかりで嗅覚は守らなかった、そして目に見えていることに意識を置いたのがお前の敗因だ」
そういってリリィは剣をメフェスの首に当てる。
意識がもうろうとしていたメフェスは防御魔法を引くことが出来ずに……
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どのくらい化学系の物質が悪魔に聞くか分からなかったが何とかなった。
ガスは風魔法で簡単に吹き飛ばすことが出来る。魔法の世界では発展のすることのないガスによる意識への阻害。
これがなければ例え死んだとしても勝てるかどうかわからなかった。
悪魔を殺し、リリィはほっと息を吐いた。
「やっぱり初めてだとこんなものか」
初めての悪魔の戦い。
からめ手、油断。初見技それらで相手を一気に仕留めないと勝てない。
まともにやり合えば勝機は間違えなくなかった。
今まで見たことの攻撃、その速さ、威力。
やはり勝手が違う。全て才能と努力が物を言う世界だ。
現代世界のように知略と経済力などあまたの人が築き上げてきたもので勝負する世界を簡単に破壊できる力がある。
ここはそんな世界になってしまった。
そして世界はそんな世界になってしまう。
ジェイド達の目的が達成させればはこの世界に混乱をもたらしてしまうものなのだ。
思わずため息がでてしまう。
先の憂いはあるがとにかく今は動き回るほかあるまい。
疑いの目。
その顛末までしっかり見られたらしい。
リリィと川を相手は交互に見ていた。
「大丈夫だ、私はお前たちに敵対する意思はない」
悪魔を殺したのだから、相手の警戒心は緩んだのだろう。
リリィを見ず、周りを見ながら指示をしていた。
だがもう言い訳はできない。
追求は避けられないだろう。
どのみち死体を確認するのに大翔の異能が使われリリィの首がすぐ見つかるだろう。
悪魔を倒したのだ。
ある程度使われるのもやむを得ない。
ならせめてその分の対価は貰わなければならない。
「だから死ぬなよ、大翔」
そういってリリィは足を曲げ大きな跳躍をして戦場を駆け回った。
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