第2章6話「顔合わせ」


「じゃあ、まだ実戦経験はないってことなんですね」


「そうなんだよね……だから君に教えることもないかも……」


「それで人事を任されたんですか? 一番威厳が必要そうですけど」


「それ一番気にしてることなんだよね…………皆年上なのにこっちは功績がないし……」


「でもそれだけ期待されているってことなんですね。すごいです」


 意外と話せる。

 流河から大翔が引きこもっていたから、迷惑かけるかもしれないと言われたのだが

 何にもないのではないだろうか。


 通りかかった人を歩き回って挨拶をかわしている。

 誰かを無視したりせず、顔を合わせてちゃんと挨拶をしている。


「そう思うと魔人側の人が多いです……よね」


「敗者側としてジャマニ……魔人側の国の人たちが冷遇されている。特に国王は魔人側にいる人たち全員を嫌っている。魔人側の人たちは肩身が狭くて、働くことすら出来ない。君の母さんを助けて魔人側の人たちも魔人も平等しないとってする人が多いかな」


 戦いに勝った王国はジャマニアを併合した。

 そして当然のように土地を回収して魔人やそこに住んでいた人たちを断罪するかのようにひどい行いをした。


 職をつこうとしても断られ、家族を失ったジャマニアの子供の救済もない。

 度々戻っているジェイドは、苦しい思いも今も続いていると、そういわれた。


「魔人側の国の人たちが冷遇する流れになっているからですか?」


「そうだね。被害にあった人たちに救済も出来ない状態で魔人側の人たちを平等に扱うことは難しかった。10年以上は立ったけど多分それは残っている」


「王様がそれに乗っかったということですか」


「アドラメイクが生き返ってしまったことで、魔人側の人たちがこれ以上力を蓄えないようにしたのが大きかったね。僕たちも逆らえなかったし、結果的に求心力は高まってしまった」


「でも10年以上この世界にいたんですよね? どうやって士気を保っていたんですか?」


「ここにいる人たちはほとんどが家族のいる魔人側の人たち。そして王様が信用できない騎士が多いかな」


 此方の構成としてはやはり中年の人が多い。

 家族や国の為に命を燃やそうとしている人たちしかいない。

 それが10年たってしまったのだ。


 身体魔力が高ければ、例え体に衰えが来てもさほど変わらないとはいえ、体力の低下は確実に響いている。


 例えここで死んだとしても残された家族が食っていけるだけのお金を用意することで、大勢の魔人側の人たちがこの世界に来てくれた。


「この世界は娯楽が多いし、素性を隠さなければむしろこっちの方が安全だからね。この世界に住み続けるとか言い出す人もいたからそっちが大変だったね」


 この世界なら隠れて生活できるなら、こっちに家族を居住すればいいんじゃないかという人が出てきて大変だった。


 王国の未来を憂いている人たちはそういうことはなかったが、今度は逆に速くフラガリアを救出したいと声が大きい。


 今は逆の状態だ。


「そうなると王様を倒したいってわかるはずなのに、王様はこんなに人員を許可したんですか? それにアドラメイクが来るかもしれないのにこれだけの人を……」


「あ~神級の人が二人いるからね。一応アドラメイクが来ても対応は出来るはずだよ」


 二人ともフラガリアに従っていたので来てくれれば大きな戦力となったが残念だ。

 だが国を捨ててまでフラガリアを助けることを本人は望まないだろう

 仕方がないとはいえ二人とも悔しがっていた。


「それに国王はアドラメイクの戦いで減ってくれるのを望んだ。扱いに不満を持った魔人が少しでも数が減ってほしい。ジェイドさん達のように反逆の目を潰しておきたい。多分助からないことを願っているはずだよ」


「そうなんですか……」


 大翔は消えいりそうな声だった。まずい。少し暗い話になってしまった。

 大翔に余計に重荷になってしまうかもしれない話をしてしまった。

 今さっき負担をかけないように頑張ろうと思ったはずなのに。


 何か気分の明るい話をもってこようかと思っていたところ、

 ちょうど都合のいい人がいてくれた。


「ハルバートさん」


 後ろから見えた姿にパケットは、思わず近づいた。


 空色の髪に灰色のつり目。

 目なのか、印象なのか、立ち振る舞いなのか。

 初対面の人にだいたい悪そうな人だと言われるような顔をしている。

 

 ハルバートは基本どんな時も明るい。

 それだけ聞くと嫌味に聞こえるかもしれないが、ジェイドがハルバートをパケットと同じく人事を任せた理由もその一つだ。


 その人望や心の強さなどから皆を指揮することが出来るからだ。

 魔人側の人たちを纏めるのにハルバートは大いに役に立ったとジェイドは言っていた。


 パケットが落ち込んだ時、傍にハルバートがいてくれたおかげで何度も気分を元に戻せたことがある。


「よぉ、パケット。それに大翔か!」


「あら、またかっこいいお兄さん」


「え?」


「この子がパケットっていうの?」


「うわ、若い~~。ハルバートがおじさんに見える」


「言いやがったな……ちょっと気にしていることに!!」


 その叫び声に女の人はキャーとわざとらしい声を出す


「……何しているんですか?」


 ハルバートの周りに女の人が沢山いた。

 どう見ても絵面が女遊びをしているようにしか見えない。


「明るくなっているだろ。こうやって人と仲良くしていって、こちら側に敵意はないってすりこませんだよ」


「人と仲良く…?」


 周りにいるのは女性ばっかりだ。それもこちらの世界の。


 パケット達はフラガリアを助けるために、戦いに生き残るために、毎日体を鍛えて引き締めている。

 だからだろうか、男性も女性も、皆好意的な目で見ることが多い。

 

 真っ昼間に大勢の女性の真ん中にハルバートはゲラ笑いをしている。

 戦いによって空気が悪くなるよりはこうやって乗せられて、乗って笑っている方が全然ましなのかもしれないが。


 こんなの大翔に見せれない。


「この人はハルバートさん。見ての通り騎士じゃないよ。得意なのは槍。分かった?」


「えっと何にも話してないんですけど……」


「分かった?」


「え、はい」


 圧に屈して大翔はそう頷いた。

 パケットは大翔を連れて別の場所に行こうとすると


「君、名前なんて言うの?」


「お姉さんたちと話さない?」


 女性たちは大翔に目を向けて囲んできた。


 大翔は基本的に誰に対しても好意的に接している。

 だからその目にどんな意味が在るのか分からないのに大翔は話し続けようとするだろう。


 大翔を女性たちから引きはがすのにパケットは時間がかかってしまった。


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 結局ハルバートは女好きだと知られてだけで親交を深めることが出来なかった。

 だがあのままあの場にいても女性の親睦を深めるだけで大翔のためにはならなかった。


 気を取り直して次に行けばいい。

 そう思って医療班であるチェリアの元に来たのだが


「ケロべロスだ。ケロバケット…」


「何で朝っぱらから飲んでいるですか……チェリアさん」


 チェリアはそう言って自分の言ったことに笑い出した。

 茶髪で緑色の目は全身から明るい印象をもたらしている。


 それもそのはず、チェリアはまたお酒を飲んでいたからだ。


 どうして朝から酒飲みに会ってしまうのだ。

 確かに急に決まったことなので何も言う筋合いはないのだが、

 頼れる大人の二人が女遊びと酒におぼれていてほしくなかった。


「やっと治療の終わりが見えたの!! 最後の踏ん張りだから頑張るためにお酒を飲んでいたの」


 服もよれよれで、髪をぼさぼさだと考えると夜勤が終わった後だろうか。。

 近くには酒の瓶や缶や散在している。


 本当に大丈夫なのだろうか。

 大翔に負担をかけないようにするつもりなのに、だんだんと大翔のやるべきことが増えてしまっている気がする。

 女遊びに、酒癖の悪い人に会ってしまった。


 大翔が出来ることをかなり見つけてしまったのではないだろうか。


「この前ももうひと踏ん張りって飲んでたじゃないですか」


 そういって大翔はチェリアの前に立つ。

 大翔は瓶を横に向けようとするチェリアの腕を止めた。


 チェリアは一瞬不機嫌になるも大翔をじっと見ると顔をにんまりして


「可愛い!!」


 そう大翔をぎゅっと抱きしめた。

 大翔はそれに特に抵抗させず、チェリアの手にある酒に目を向けた。

 これで変に抵抗すれば、チェリアの機嫌が悪くなってまたお酒を飲んでしまうと思ったのだろう。


 お酒を飲ませないように他の事に意識をそらせるようにしている。


「それも前も言って抱きしめてきたんですけど」


「前はフラガリアの子供だからだっこしただけ~。今は~フラガリアに似て可愛いなってだけ!!」


 そうやって大翔は強く抱きしめられる。

 大翔はそれに対して反応がない。もう慣れているように見えた。

 かなり交流が進んでいるのだろうか。


「あぁ異能か」


「はい、病原菌とか体の事は見ることができるのでよく見るので。チェリアさん、これ以上は体壊しますよ」


 そういってチェリアから酒を取り出す。

 そして空間魔法でどこか送り込んだ。


「あ!! 可愛くない…治癒魔法あるから平気よ!!」


「それ治せるのは頭痛だけで判断を遅れが出ますよ」


 そういって大翔はチェリアの背中と膝に腕をかける。

 大翔はチェリアを抱き上げた。


「きゃ」


「チェリアさん。今日は僕が代わりにやるので休んでください」


 そういってチェリアをベットに寝かせてあげる。

 そういって布団をかけてあげることにチェリアは顔を赤くした。


「本当? 本当にやってくれるの?」


「はい。今日は僕に任せて安心して寝てください」


 そう笑顔をチェリアを向けるとチェリアは更に「キャーーーーー!! かっこいい!!!!」と言って、ベットの柔らかさからか直ぐにチェリアは寝てしまった。


 そこに恥じらいなど一つもなかった。


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 今度はフーパとタンドレスの元にいった。

 この二人は最低限大翔を信頼させてくれて安心させてくれるとそう信じて。


 そう信じていた。


 フーパとタンドレスは戦いを教えて役割を任されたのでよくいる。

 パケットの予想通り黒髪と赤髪の女性がテーブルに座っていた。

 何か一緒にこれからの事を話しているのだろうと。

 だから二人とも一緒にいるのだろうとパケットは思ったが…


「全部そろった……」


「どうした?」

oa


 フーパのそのパケットはトは一瞬イラつきを覚える。


 賭け事だ。

 たまにたしなむ程度にやっているのは知っている。


 でもこのタイミングでやっているとは思っていなかった。

 

 タンドレスは煙草を吸っていたのだろう。

 煙草を机においていて、煙を出していた。

 イラつきを抑えるのに煙草を吸うはずなのに、イラついていた。


 でもタンドレスはイラつきを抑えるかのように黒い髪の中を乱暴に搔いた。

 そしてこちらを見る。


 大翔は笑顔になって挨拶をかわそうとしたが、


「お前はフラガリアの子供か?」


「えっと……そうですけど……」


「どうやら本当になっていないな」


「えっと?」


「引きこもりだが、不登校なのか知らんが……もうちょっと早くきたらどうだ?」


 その赤い目はがんをつけるかのように大翔を睨みつける。

 大翔は顔は笑いながらも鼻が動いていない。

 おそらく煙草の匂いがするから。


 大翔は笑顔のまま疑問で頭がいっぱいのような顔をしている。


「ちょっと待ってください!! 大翔はまだ休養中ですし、それなのに昨日だって……」


「お前、子どもだからって甘やかすのか……鍛え直してやる」


 その声にひゅっと声が出てしまった。

 

 完全な八つ当たりで、完全な戦る気だ。

 タンドレスはパケットに向けて手を伸ばしてきた。

  

 避けられない。


 でもタンドレスの後ろからフーパがしっかり捕まえた。

 タンドレスは暴れるが何とかフーパが抑えていた。 


 「パケット。今日の所はかえっておけ。またゆっくり話をしよう」


 フーパはそうパケットに言うと今度は大翔に顔を向ける。


「すまんな。昨日からずっと働き詰めでいら立ってんだ、こいつ」


 大翔はその声に幾分か冷静を取り戻したのか、顔を取り繕う。


「いえ、全然大丈夫ですよ」


「そうか。今色々事態が動き回って皆気が立っている。だから……」


 申し訳ないが許してくれ。そう言うとパケットは思っていた。


「落ち着いたら戦ってほしい。お前の力を確かめてみたい」


 そういったフーパの目は、まるで炎のように橙色に染めていた。


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「おい、お前。なんで私を見て笑った」


「僕ですか? あの……挨拶をしようと……」


「お前、私を取り入れようとしただろ?」


そうタンドレスは理不尽な怒りを大翔に向けた。


「ーーお前がフラガリアの子供か知らんが私はお前を信用しないからな」


 そういって最後にタンドレスは大翔に向かって言ってきた。


 

 大翔は少し悩んでいるように見えた。

 おそらくそれはタンドレスの事だろう。

 タンドレスは何故か大翔に反抗的だった。


 失敗した。

 大翔はこれで頼ってもいいと思えたのだろうか。


「どうして落ち込んでいるんですか?」


 思えば自衛隊のある場所に連れていくことも出来なかった。

 お互いの話し合いも出来ず、それぞれの強みも大翔には分からずじまいになってしまった。


 何もかも駄目駄目だ。


 大翔は純朴な目でこちらを見てくる。

 パケットに非など一個もないとそんな目で。


「ごめんね。その……いざとなったら頼んでも大丈夫だからね?」


 声はなよなよして少し震えているのではないかと自分で思うくらい弱弱しい声になってしまった。

 結局皆の悪い所を見せただけになってしまった。

 失望してしまったのではないだろうか。


 後悔と反省で頭がいっぱいで声に頼りがいが出てこなかった。

 

 大翔は「……ああ」とそういって


「僕は見れて良かったと思いますよ。皆僕たちと同じように色んな事に楽しんでいる普通の人なんだなって。母さんを助けるために根を詰めなくてもいいのかなって思えましたから」


 母さんには悪いことなんでしょうけどね、と大翔はそう小さく笑う。

 これだけ醜態をさらして、そんな感想を持てるとは思えなかった。

 パケットの顔を立たせてくれたのだろうか。

 パケットに気負わないようにしてくれたのだろうか。


 でも大翔の顔はどこかすっきりした顔になっている。

 そのように見えた。


「僕、気になっている本があったんです。 空いている時間があれば読んでいてもいいですよね?」


「……ああ、もちろん。 好きなようにしたらいい」

 

 大翔は戦いが初めてで。もっと気を張らないと、娯楽に手を出してはいけないと思っていたのだろうか。

 それなら。大翔が気負わなくて済むのなら良かったのだろうか。

 そう思ってくれるのなら一応成功ということでいいのだろうか。


「頑張りましょう」


 そう言ってくれる大翔の言葉にどこか頼りのある人だとそうパケットは思ってしまった。

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