第43話 Ⅻ柱の竜頭:鋼竜
どんなゲーマーでも一度は聞いたことがあるだろう。
スキル。それは時に名前を変え、何らかの形でゲーム内で一度は登場する名称。
通常スキルを例えばコモンスキルと呼び、レア度の高いスキルをレアスキル、通常プレイでは得られない物をエクストラスキルなど、様々な呼び方で唱える中、【竜化:(鋼)】はタイトル、
このスキルを得た時から、コージーが如何するかは決まっていた。
その中でもドラゴン系は欲しい。
居るだけでカッコよく、同時に強い。間違いなく、種族のみのカテゴリーならば上位だろう。
けれどドラゴン系には共通してある欠点が備わっている。
それは扱いが難しいこと。基本的にソロで完結すること。
他のプレイヤーとの共存はそれこそ難しく、故に孤立してしまう。
協力型のMMORPGとして見れば、あまり嬉しくはないものだった。
「はぁ、なんで俺が……」
コージーも最初は悩んでいた。
せっかく楽しんでやろうと思っていたゲームが、種族で迫害はされなかったが、なかなか上手く行かなかった。
これなら変身スキルを使わない方が得なのではないかと思い、通常時でのプレイスタイルを極めてさえいた。
そんな時だった。コージーは姉がこのゲームの運営に携わっていることを知ったのだ。
なんでも親会社にあたる少数精鋭の一流企業で爆心的な人気ゲームがあるらしく、そのゲームでは運営とAIが管理をしているそうだ。
けれど同じエンジンを使っているこのゲームではそれを可能にするエンジニアが不足している。
そのせいもあり、信頼のおけるプレイヤーにとある役割を与えることで、治安を維持していた。
それこそがコージーであり、同じような役目を果たすために雇われたバイトが複数人居る。
全部で十二人。おまけに全員がドラゴンに変身できる。
そこから付けられた名称こそが、コージー達〈【Ⅻ柱の竜頭】〉。
十二人のドラゴン達で作られた一つの組織のようなものだった。
「ふぅ……ドラゴン系か、制限時間、厳しいんだよな」
そうして今に至るコージーは空高く、夜空の中で一人翼をはためかせていた。
頭にはゴーグル。それから武器。それ以外の物は装飾品のみで、裸状態に近い。
けれどドラゴンの姿になっているとはいえ、竜化はあくまでもスキルだ。
コージーは眼下に浮かぶ黒馬騎士を睨み付けると、いつものことながら、先制攻撃を繰り出した。
「それじゃあ、行くぞ」
コージーは〈蛇腹鋼刃〉を叩き付ける。
鞭のようにしなると、鋼の剣身が黒馬騎士に向かって飛んで行く。
夜空の中、まるで溶け込むように視認性最悪で攻撃すると、黒馬騎士は如何すればよいのか分からず立ち尽くしていた。
「立ち尽くしている時間は無いぞ」
コージーの低い声が黒馬騎士を引き戻す。
しかし時既に遅く、左腕に激痛が走ったのか、振り上げて痛みに苦しんでいる。
バシュン! と音さえ置き去りにした攻撃が、黒馬騎士の左腕を直撃した挙句、肘関節から下を惨いことにもいでしまっていた。
「ギシッギシッギシッギシッギシッィィィィィィィィィィィィィィィ!!」
黒馬騎士は突然のことに動揺しパニックを起こしている。
もがれた左腕が地面に落ち、下半身が震えてバタバタ暴れる。
のたうち回ろうとするが、地団駄だけを踏み荒らし、コージーのことを睨みつける。
右腕の黒い剣をブンブン振り回すと、怒りを露わにしたのか、突き付けて威嚇をする。
「その程度か?」
けれどコージーは挑発にさえ乗らない。
苦しむ様子を見せる黒馬騎士を眼下に眺めたまま、次へと鞭ようにしならせた〈蛇腹鋼刃〉で攻撃を仕掛ける。
もはや目で追うことは不可能。コージーの体が影となり、何処から来るのか分からない、不可視の攻撃へと変わっていた。
「おいおい、この程度で狼狽えるなよ。俺はまだ本気の一割も出していないんだ」
余裕な立ち回りを見せるコージーは黒馬騎士を何度も挑発する。
上空から攻撃をし、安全圏からいたぶっている。
その姿はバグモンである黒馬騎士よりも非情に思えてしまい、自分でも確実な方法ではあるがつまらなかった。
「ギシシッ!」
「下りて来いとでも言っているのか?」
「ギシシィ!」
「悪いが、そのつもりは今の所ない。ここから攻撃を続けるだけだ」
コージーはつまらなくなる道を選んだ。
黒馬騎士の体を痛めつけるように幾度となく〈蛇腹鋼刃を叩き付ける。
黒馬騎士は避けることに必死になり、コージーに攻撃を仕掛ける余裕さえない。
もはや絶体絶命。完全に状況が逆転していた。
「ううっ……あれ、私は……うるさい」
あまりに地響きにファインは霞む目でコージーのことを見つめた。
如何やらあれがコージーであることは確実。
しかしあまりにも短絡的で確実な手段を取るコージーに、何故だか悲しみを覚えてしまった。
「コージー君、楽しく無さそう。だけど……」
ファインはコージーのことを見つめていた。
鋼色の竜と化したコージーはまさに支配者。
何人たりとも触れられそうになく、圧倒的な迫力で、黒馬騎士を畏怖していた。
その光景を間近で眺めていたファインは、徐々に悔しくなる中、黒馬騎士の右腕が伸びていることに気が付くのだった。
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