第21話 お得意先のアイテム屋

「よいしょっと」

「大変そうだな」


 ファインは大量の荷物を両手に抱えていた。

 大きな木箱を同時に三つも抱え、中には大量の回復ポーションが収まっている。

 昨日作ったものを如何やら納品するらしく、コージーは一切手を貸さずに見守っていた。


「ううっ、コージー君。手伝ってよ」

「手伝うのは構わないけど、またインベントリに入れて急に出したら、変な顔されるだろ?」

「それはそうだけど……って言っても仕方ないよね。あと少し、よいしょっと!」


 ファインは再び木箱を持ち直すと、テクテクと歩いて行く。

 一体何処に向かっているのか。

 コージーはファインの体の向きを追うと、こじんまりとした店を見つけた。


「ここは?」

「私がよく利用してる、お得意先のアイテム屋」

「アイテム屋、フウリン」


 目の前のアイテム屋はフウリンと言う名前らしい。

 看板にそう書いてあり、隣には風鈴が描かれている。

 「分かりやすいな」と内心思いながら、フウリンの扉を開けた。


「リンさん、いますか! 回復ポーションを納品しに来ました」

「リンさん? フウ、リンさん?」


 あまりにもダジャレが効いていた。

 げんなりとした表情を密かに浮かべるコージーは、ふと背後から視線を感じる。

 【気配察知】が何かを捉え、自然と〈蛇腹鋼刃〉に手を掛けていた。


「おっと、私の店で店主の私を攻撃するなんて真似、ただで済むと思うのかな?」

「私の店? 店主の私? ってことは貴女が……」

「リンさん!」


 ファインは叫んだ。

 如何やら目の前のNPCこそが、フウリンの店主リンらしい。


 それが分かっていても、コージーはジッと睨みつけてしまった。

 急にフッと現れたのが怖い。

 背筋がゾッとし、殺気を放とうとしてしまう。


「おっとっと、ちょっと怖いね。それにしてもファイン、君が誰かを連れて来るなんて珍しい。剣の勇者のパーティーを抜けたぶりかな?」

「えっと、はい……」

「そう落ち込まなくてもいいよ。ファインはなにも悪く無いからね」


 リンはファインのことを良く知っていた。

 コージーには分からない深い話を、短い言葉のやり取りだけで可能にする。

 一体どんな目を持っているのか。どんな思考回路をしているのか。高度なAIを搭載していると理解し、コージーは興味深く覗き見る。


「ジッと見つめられると困るんだけどね」

「それより、リンさん! 回復ポーションを納品しに来ました」

「うん。今回もお疲れ様。ファインの作るポーションは効能も高いし、よく売れる」


 リンの目が商売人の目に変わった。

 木箱を受け取り、中に入っていた回復ポーションを取り出す。

 瓶の表面を舐めるように見つめ、指先でなぞると、ニヤリと笑みを浮かべる。


「今回の回復ポーションもいいね」

「ありがとうございます」

「ファインは謙虚だね……ん?」


 リンはスッと手が止まった。

 木箱の端、いつもとは違う瓶の形。

 これは誰が用意したものなのかと取り出すと、リンはハッとなる。


「これはなに?」

「えっと、それはコージー君が作った」

「うん。俺が作ったやつ」


 木箱の中には、コージーが作った回復ポーションも混じっていた。

 リンは取り出してみると、何故か凝視してしまう。


 もしかすると問題があったのか?

 ファインの信用を蔑ろにしてしまったのか。

 様々な思考が巡る中、リンはコージーをニヤリと見る。


「な、なんです?」

「君、いいね。コージーだっけ?」

「は、はい」

「良かったら、うちで働かないかい? それなりに弾むよ」


 リンは何故か回復ポーションの一つで、コージーのことを高く買った。

 それだけ良いものだったのか。コージーには分からない。

 それなりに品質にはこだわったつもりだが、自分の手で作ってないから、政党評価されていない気がしてならず、表情が訝しんだ。


「嫌ですけど」

「そうか、残念だよ。君程の腕があれば、面倒な客の相手も・・・・・・・・楽になる・・・・と思ったのにね」

「面倒な客の相手?」

「それってまさか……」


 リンの言葉にコージーは首を捻る。

 何の話なのか、全く分からないからだ。


 けれどファインは何か察してしまう。

 嫌な予感と言うべきか、全身に鳥肌が覆う。


「とは言え、どんな結果であろうと追い返すけどね。あのいけすかない勇者は、この店からは出禁だよ」

「出禁って、重くないか?」

「こんなに可愛いファインを切るような勇者だよ。それはもう、私の敵だね」


 リンの言葉は辛辣そのもの。完全に敵意の塊だった。

 それと同時に、誰のことを嫌っているのかも理解できた。

 コージーはどんな勇者なのか、会っては見たくないものの、嫌気が差してしまう。


「そうだな、ファインは可愛いからな」

「ほえっ!?」

「君も分かっているね、コージー。うん、気に入った。また来るといいよ」

「今日なにも無いのか?」

「無いね。でも、私の眼鏡には適ったから、次は期待していいよ」


 そう言うと、リンはコージーとファインを送り出した。

 一体何だったのか、リンと言うNPCの凄みを受ける。

 まるで本物の人間のような奇妙な感覚に苛まれると、コージーはゾッとするのだった。

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