第22話 嫌な勇者との再会

 コージーとファインはフウリンを追い出されてしまった。

 納品をし、代金を貰うとすぐだった。

 あまりにも締め出しがきつく、コージーは初めてのことで驚く時間すらなかった。

 けれどファインはケロッとした顔をしていて、リンの考えが分からないままになる。


「あの人、なんなんだ?」

「うーん、リンさんはいつもああだから」

「付き合いが長いのか?」

「そこまで長い訳でもないけど、リンさんは人を見る目が圧倒的に高いから。私達が想像する以上のことを、常に考えているのかもしれないよ?」


 コージーもそれには納得だった。

 リンと言うNPCがただのNPCのようには思えず、不快感はないものの、疑心が浮かんでしまった。


「本当に何者なんだ」

「もしかしたら、凄い人かも?」

「凄い人? 例えば、裏社会のボスとかか?」

「まさか。リンさんの雰囲気的に……ありそう」

「そうだな」


 自分で言っておきながら、あまりにも綺麗に嵌ってしまい、コージーもファインも恥じることになった。

 リンがどんなNPCなのかなんて関係が無い。

 この世界に生きている一人の人間で、これ以上の深入りはする必要が無いのだ。


「考えても仕方ないよな」

「そうだね。今までも考えて来たけど、答えなんて見えなかったもん」

「そうよな。ファインが分からないもんな……ふぅ、これからどうする?」


 ここは一旦話を切り替えることにした。

 コージーはファインに訊ねると、まだまだ時間があることに気が付く。

 午後から依頼を受けて、冒険者活動が吉。

 そんな気もしたが、バグ調査もしたくて仕方がない。


「ファイン、頼みがあるんだけど、いいか?」

「えっ、た、頼み!? コージー君が、私に?」

「どうしてそんなに驚く。俺も所詮は人間だ。人間は、誰かを頼らないと決して生きていけない集団と言う群れを個として捉える生き物なんだぞ」


 コージーは少し哲学を混ぜながら、ファインに頼んだ。

 流石に時間が足りない。情報もない。

 となれば、その世界の住人に手を貸してもらうのが、集団を個にする唯一の方法だった。


「ちょっと難しいね」

「そ、そうか? ごめんなさい」

「如何してそこだけ可愛いのかなぁ。もう……手伝うよ」

「いいのか?」

「もちろん。だって私達、パーティーでコンビでしょ?」


 ファインは本当に勇者だった。

 可愛らしい溌溂とした笑みを浮かべる。

 コージーのことを優しく受け入れると、そのまま手を差し出したので、コージーは握ってあげようかと思った。だがしかし、それは叶わなかった。


「剣の勇者様だ!」

「剣の勇者様のパーティーが帰って来たぞ!」

「マジかよ。ってことは魔王軍との激戦を繰り広げて、帰って来たって訳かよ!」


 街中に不思議な言葉が群像する。

 群れを成し、巨大な塊に変わるのが分かる。

 これこそが大観衆。コージーは不気味な感覚に襲われる中、ファインの指先が震えていることに気が付く。


「あっ、あああっ、ああっ、あああああ……」

「ファイン?」


 コージーはファインの顔色が悪いことに気が付く。

 固まってしまい、今にも倒れてしまいそうだ。

 コージーはファインの顔の前に手を仰ぐが反応が無く、肩を掴んで揺すって意識を戻す。


「ファイン!」

「ああ、コージー君? わ、私、今どうして……」

「意識が飛んでたぞ。それより今、剣の勇者って。お前のことを追放した、いけ好かない勇者ってことだろ?」

「うっ……そんなことは」

「事実だ。……こんな所にいても始まらない。離れるぞ」


 コージーはファインの手を握る。

 指と指を絡め合わせると、急いでこの場を離れようと画策する。

 しかしファインの足は重りにでもなっているのか、全然動いてくれない。

 困るもので、コージーはファインを睨むと、嫌悪感が背中を刺していた。


「この感覚……」


 コージーはファインの姿を自分に重ねる。

 姉の前では尻込みをして、尻に敷かれることを選ぶ自分とそっくりだ。

 それだけ強烈なストレスが付き纏っている。

 背中を包み込むような、鋭い爪を生やした形の無い影が存在しているようにさえ感じる。


「チッ、こうなったら」


 コージーはファインのことを第一に考える。

 ストレス社会は経験済みだ。

 その過程で、逃げることを学んできた。戦うことだけが正義じゃないと分かっている。

 だからこそ、ファインのことをここまで陥れるブレインが嫌々でたまらない。きっと相いれないのだろうと容易く想像すると、喧騒が聞こえて来た。


「おっ、そこにいるのはファインか?」

「うっ!」


 ファインの背筋が凍り付いてしまった。

 嫌な予感がした。振り返るのが億劫で、コージーは苛立ちを覚える。


「おいおい、挨拶ぐらいしたらどうだ? 同じ勇者だろ?」


 腹立たしくなる口ぶりだった。

 人混みを掻き分けて見つけたファインに近付いて来るのが分かる。

 ブーツで地面を擦り上げる音。ふと耳障りに聞こえ、ファインの背中に向けてブレインは口走る。


「って言っても、最低最弱の勇者だけどな。あーはっはっはっはっ!」


 コージーは剣の勇者=ブレインの言葉を聞いて頭を悩ませる。

 ここまでの威圧的な雰囲気。傲慢さの塊のような態度。

 それら全部が噛み合った。こいつは、ただのバカな奴だと逆に憐れみさえ覚えてしまうのだった。

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