第4話 草原は若葉色

 あれだけどれだけの時間が経ったのだろうか。

 コージーは光に飲み込まれた。否、受け入れたのだ。


 しかしながら、時間の流れというのは釈然としない。

 呆気に取られるくらい時間が経ってしまっているのかも。

 そんな錯覚にさえ踊らされる。


「ううっ」


 そんな中、コージーは体をくねらせる。

 如何やら仰向けの状態らしい。

 だけどモジモジさせる程度で、それ以上に体を起こしたくない。


 もしかするとこれこそがバグの正体。

 もしくはバグの一部かも。

 そんな気の迷いに苛まれつつも、ゆっくり瞼を押し上げることに必死になる。


「流石に起きないとマズいかな」


 コージーは眩しい陽射しを捉えた。

 目の奥がジンジンする。

 突然の直射日光に体がビックリすると、嫌悪するように手の甲で覆った。


「うわぉ、眩しい! くぅー、この直射日光、マジのやつじゃん」


 コージーの顰めっ面を誰も見てはいない。

 周囲にチラチラ視線を飛ばすも、そこに影も形もない。

 如何にもここは外。屋外フィールドのようで、場所は草原らしい。


「ここは草原エリア……まあ、初心者向けってことかな」


 草原エリアは何処にだって存在する。

 しかしながら、草原エリアは基本的には初歩的。

 RPGなら近くには街があるはずで、正直ラッキーだった。


「草原の色合いが若葉色……ってことは、まだ春先ってこと? いやいや、もしかすると」


 コージーはそう言うと、体をグッと起こした。

 上半身を起こし、胡坐を掻いて草原の草の上に座る。

 周囲を改めて見回すと、何処からともなくメニューバーを開いた。


「流石にゲームの中だから開けるってことか」


 コージーはメニューバーを開くと、システムに軽く干渉する。

 きっとできるはずだ。特殊なコードを打ち込むと、プログラムが開示される。

 如何やらコマンド自体は複雑……だった。


「なんだこのプログラム。見たことない……っていうか読めない」


 コージーは苦悶の表情を浮かべた。

 それもそのはず、コージーの視界に広がるのは見たこともない文字の羅列。

 もちろんほとんどはアルファベットなのだが、所々がまるで読めなかった。

 これは骨が折れる。一々ゲーム内でプログラムをいじる時間は無さそうだった。


「仕方ないか。って、バグを一つずつ潰せってこと? 流石に調査にそこまでは……いや、ゲーム全体に癌が広がったら大事って考えると、俺の役目結構重要じゃね?」


 コージーは自分が負った責任に重圧を感じる。

 これは一体如何するべきなのか。上手く正しい選択が取れるのか。

 正直悩みに埋もれてしまいそうになるも、コージーは「まあいっか」と呆れる。


「とりあえず街に行ってみるしかないか」


 スッと立ち上がると、やけにリアルな感触にコージーは怪訝な表情を見せる。

 とりあえず自分の容姿とステータスは如何なっているのか。

 行動を起こす前に、ちゃんと最低限が反映されているのか確認を取った。



■コージー

性別:男

LV:45

HP:450/450

MP:420/420


STR(筋力):151

INT(知力):148

VIT(生命力):143

MEN(精神力):160

AGI(敏捷性):185

DEX(器用さ):173

LUK(運):154


装備(武具)

メイン1:〈蛇腹鋼刃〉 ATK:X

メイン2:〈炙り鳥〉 ATK:80


装備:(防具)

頭:〈鋼竜のゴーグル〉

体:〈鋼竜のベスト〉 DEF:X

腕:〈鋼竜の手袋〉

足:〈鋼竜のレギンス〉DEF:X

靴:〈鋼竜の長靴〉DEF:X

装飾品:〈鋼竜のロケット〉敏捷性:X


スキル(魔法を含む)

【炎属性魔法(中)】【加速】【遠望】【気配察知】【状態異常耐性(万能:中)】【ヒールターン】


ユニークスキル

【竜化(鋼)】



「うん、なにも変わってない」


 自分のステータスを確認し、コージーはある程度満足した。

 流石にゲームに入ったことで、ステータスまで変化をしていたら嫌だった。

 そんな不要な心配が一つ消えると、コージーは街に向かって歩き出そうとする。

 しかしその瞬間、コージーはピキンと頭の中に響いた。


「この感覚……【気配察知】!」


 コージーは周囲に気配を飛ばす。何か嫌な予感がしたのだ。

 この草原の何処かにバグではない何かがある。

 そんな気がしてならず、コージーは役目を果たそうと真面目になる。


「ピリピリとした感覚。嫌な気配だな……【遠望】!」


 コージーは次に【遠望】のスキルを発動させた。

 視界が広がり、あらゆる光景が近くに見える。

 これこそが【遠望】。欲しい情報を見出すには、見ることが大事だ。


「このスキルで見つけられればいいんだけど……最悪な結果を生み出す前に止める」


 コージーは視線を飛ばす。

 このモヤモヤとした感触、感覚、それを辿ろうと必死になると、遠くの方に浮かび上がるものがあった。


「アレは……はっ!?」


 コージーは気が付かされた。

 このモヤモヤとした感触の正体。それは目の前にある。

 草原の上、大き目のモンスターとその前で立ち向かう小さな影。

 煌めいている剣が鈍りながらモンスターに追い詰められ、今にもやられてしまいそうだった。


「流石にあの対比は無理……はぁ、誰かは分からないけど、助けるか」


 コージーは肝心なことを忘れていた。

 けれどそんなことは関係ない。

 体が勝手に動き出し、コージーはモンスターを倒しに向かった。

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