第3話 BRAVE QUEST-ユウシャ・クエスト-

「さてと、そろそろ行くか」


 ベッドの上で横になっていた鋼仁は体を起こす。

 目元を擦って気合いを入れ直し、頬をパチンと叩く。


 VRドライブにはUSBメモリが挿さっていた。

 ゲームのプログラムが組み込まれている。

 VRドライブを通すことで、ようやくバグだらけの世界に行けるのだ。


「正直、行きたくはない。マジで怖い……行くと言った手前行くしかないんだよなー。はぁ」


 鋼仁は溜息をついた。

 頭を悩ませると、吐息のように溢れる。

 だけど行くしかない。行かざるを得なくなると、VRドライブを装着し、鋼仁は向こうの世界へと消える。


「どんな世界か、どんなゲームか、警戒だけしてても仕方ない。行くぞ!」


 鋼仁の意識は暗闇の中へと消えて行く。

 一瞬の内に眠気が襲い、VRドライブを介して、鋼仁は謎のプログラムの世界へと向かうのだった。




(さてと、この感覚は……俺か)


 鋼仁は頭の中、心の中で言葉を口にする。

 不思議な感覚だ。

 まるで自分が自分ではないようで、それでいてここに居るのは確実に自分。


(しかもこの感覚は、コージーってこと?)


 そこに居るのは大神鋼仁ではない。

 普段遊んでいる……訳ではないが、ゲームで鋼仁の肉体としているアバターだ。


(じゃあここはやっぱりゲームの中。ってことは、どれだけやってもここはゲームってことなんだ)


 鋼仁はある程度の確信を持っていた。

 USBメモリに入っていたのは所詮はプログラム。

 ならばここはゲームの中で確定で、それ以上でもそれ以下でもないのなら、鋼仁にとってもコージーにとっても対処できた。


「とりあえず、設定だけはちゃんとしてと。はいはい、これでよし」


 コージーになった鋼仁は、何処からともなくメニューを開く。

 特殊なコードを打ち込むと、コージーは最低限のことをした。

 設定をある程度調整し直すと、コージーは自分の身を守るための非常口を構築し、時間の経過、肉体の設定をある程度再確認した。


「最低限できることはしておいたから、後はこのプログラムが開くのを……って、道が全然」


 コージーは周囲を見回す。

 しかしおかしな点がある。

 何故だろう、いつになってもゲームの中に入れない。


「なんで、なんでなん?」


 コージーはツッコミを入れる。

 しかし次の瞬間だった。

 コージーは腕を組んだまま振り返ると、急に視界に稲妻が落ちた。


 ピッカーン!


「うわぁ、ま、眩しい!」


 コージーは当然暗闇の中に光が落ちたので、目を瞑ってしまう。

 しかし稲妻は何故か意思を持っている。

 そんな気が来てならず、コージーは稲妻をジッと見つめる。


「もしかして、この光は……」


 コージーは稲妻を睨み付ける。

 すると視界の先に広がる景色が、眩しくてコージーの視界と体を飲み込む。


「くっ! そう言うことか……」


 コージーは稲妻から発生された光を全身で受け止める。

 まるで体を飲み込むようで、コージーは手を伸ばす。


「それがゲート。だったらここからが俺のゲームのスタートだ」


 コージーはこの光を掴み取ると、全身が粒子に変わる。

 ようやくゲームの始まり。その高揚感の裏には不思議と恐怖心も生まれる。

 だけどそんなことを言っている暇はない。それが分かっているからか、コージーは眩し過ぎる光を受け入れるのだった。


「さてと、どんなゲーム……うっ!」


 頭の中に浮かび上がる文字列。

 これはどんなゲームなのか。

 名前を表示すると、そこにはこう書かれていた。



[ようこそ、BRAVE QUEST-ユウシャ・クエスト-の世界へ]

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