第8話 冒険者ギルドだって
冒険者ギルド。
如何やらここがファインの仕事先らしい。
見た目は巨大で堅牢な建物。
街の中央付近に建てられているのは、それだけ重要な施設である証拠。
鳥が剣を咥えたような特徴的なシンボルがプレートとして掲げられている。
これだけで少し仰々しいのだが、コージーはあまり気にしない。
むしろ心境はその逆で、少し昂っている。
それもそのはず、非常に“らしい”設定にワクワクしていた。
「ここが冒険者ギルド……うちのギルド会館とは少し違うな」
「なにか言った?」
「なんでもない。それよりファイン、俺も入っていいのかな?」
正直、コージーは冒険者じゃない。
あくまでもプレイヤーで、NPCがメインに働く、ここ冒険者ギルドに介入するのは御法度だ。
情報収集のため、今回はファインの手伝いでやって来たのだが、勝手にNPC達の仕事を取るのは、プレイヤーでもあり運営から役目を任されている身であることに板挟みになっていた。
「全然いいと思うよ」
「そうなんだ。じゃあ入ろう」
コージーはファインにそう言われると、特に気取ることもない。
警戒の裏側に何も存在しておらず、堂々としている。
その姿にファインは少し驚くが、笑みを薄ら浮かべる。何だか好感が持てたらしい。
「うおー」
コージーは冒険者ギルドの中に入る。
そこに広がる光景。
何を言おうか、ゲーム内でよく見る光景だった。
「なぁなぁ、そろそろいいだろ?」
「冒険者さん、セクハラはダメですよ」
「あー? 俺はCランク冒険者だぜ? セクハラなんて真似……」
「うふふ」
「ま、マジでしませんから!」
視線を飛ばすと、受付嬢相手に尻に敷かれる冒険者の姿。
コージーは怪訝な表情を浮かべてしまう。
「どうすんだよ。武器を無くしたら」
「そんなの知らないわよ」
「知らないって……一応、俺は前衛で」
「とにかく、武器を取り返すしかないでしょ?」
反対には少年冒険者と少女冒険者の口論。
如何やら前衛役の少年の方が、大切な武器を無くしてしまったらしい。
そのことに少女の方は怒っている。
無視と言うべきか、貶しているのか、頭を抱えたい痛い話だ。
「とりあえず今回はお疲れ!」
「「「お疲れー!」」」
「一応依頼は達成だ。とりあえず、いつもの店で祝勝会だ!」
「「「全部は使うなよ!」」」
「分かってるって。それじゃあ行くぞ!」
方や冒険者パーティーが楽しげに祝勝会を開くらしい。
しかしことの顛末が簡単に読みきれそうで、コージーは顔を顰める。
「冒険者ギルドって感じ」
「どんな感じなの? あっ、コージー君」
ファインはコージーの感想をスルリと流す。
すると視線をあえて泳がせ、誰かを探していた。
目線を追いかけると、受付嬢に目が止まる。
ペコリとお辞儀をする、茶髪でボブカットの丁寧な女性で、ファインは迷わず寄った。
受付嬢の女性も足音で何かを察する。
まるで普段から慣れ親しんだ関係のようだ。
顔を上げ、笑みを浮かべてファインと触れ合う。
「あっ、ファインさん」
「シャープさん!」
「シャープさん?」
如何やら知り合いの受付嬢らしい。
好感が持てる発言で、ファインは笑顔を浮かべていた。
「ファインさん、無事に依頼をこなされたんですね」
「もちろんです。私、弱いですけど負けませんよ!」
“弱いけど負けない”
誰にも言えない強い言葉だ。
コージーはファインから出た威勢に感化されると、胸が高鳴ってしまう。
「良い心がけですね。ところでファインさん、隣の方は?」
「えっと、この人は……」
「もしかして彼氏さん?」
「「違います」」
シャープはちょっとお茶目。
あしらうように揶揄うと、ファインはムキになってしまう。
しかしコージーも被せる形で否定すると、ファインの見開いた目が痛々しかった。
「コージー君」
「ってことで、俺はコージーです。たまたま草原でファインと出会って、ここまで付いてきたって感じです。あっ、ストーカーじゃないですよ」
コージーは先手を打ってシャープの言葉を封じた。
するとシャープは瞬きをすると、「面白い方ですね」と唱えた。
「それでは冒険者の?」
「でもないです」
「で、では、何故草原に?」
「たまたまです」
「た、たまたま?」
「はい。たまたまです」
シャープの疑問には極力答えない。
NPC相手だとしても、面倒ごとは避ける。
余計な言葉が面倒ごとにグルグル掻き混ぜさせられると分かっていたからで、コージーはファインに顎で返事をする。
「そ、それよりシャープさん。買取ってして貰えますか?」
「買取ですか?」
「はい。黒毛和バイソンの討伐と、その素材の買取です。できますよね?」
「それでしたらもちろんです。ところで、黒毛和バイソンの姿はどちらに?」
キョロキョロと視線を動かすシャープ。
確かにここに黒毛和バイソンは無い。
だけどコージーは預かっていて、買取用に取り出す。
「それたらここに。ほいっ」
コージーは指でメニューを開いた。
アイテムの入ったインベントリをタッチし、中に入っていた大量のアイテムの中から、黒毛和バイソンを飛び出すと、ボトンと机に置いた。
「ってな感じです。あれ?」
シャープとファイン。
二人の視線が固まってしまい、何故かコージーに向けられる。
しかしそれも致し方ない。そのことに気が付いていないコージーはしばしの間思考を飛ばすのだった。
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