第31話 ファインは魔法の天才
コージーとファインは遠回りをして楓の木を探して歩いていた。
しかし森の中に一本しか生えていない楓の木を探すのは非常に困難。
コージーもファインも朝にもかかわらず、額に汗を溜め込みながら、ひたすらに歩き回っていた。
「なかなか見つからないな」
「そうだよね。でもこの先の筈だよ?」
「この先の筈、ねっ……まあ、そんな気はするけどさ」
実際、コージーはファインの言うことに一理も二理もあった。
コージーとファインが遠回りを選択した木々の密集地帯。
その中央に楓の木は生えていると、システムを使ったことで把握済みだった。
けれど密集地帯の木々は生い茂り方が尋常ではない。
少しでも踏み入れば、トゲトゲとした木々にやられるのは間違いない。
無駄な怪我は避けたいとコージーは思っていた。
その感情をファインも読み取ってくれている。
しかしここまで二十分。同じ所をグルグルと回る作業になると話は別で、流石に小言も多くなる。
「コージー君、怪我なら私が魔法で治せるよ?」
「それはそうだけど、痛いだろ?」
「それなら痛みを消す魔法を掛けるよ?」
「痛みを消すって、【痛覚遮断】スキルかよ」
「つうかくしゃだんすきる? ってなに。そんな魔法、私知らないよ」
「……そっか。でもそれはあれじゃない? 痛覚が戻った時の反動ありそうじゃね?」
「もちろんあるけど、ちょっとだけだよ? ほんのちょーっとだけ痛いだけで……ああ、待ってよコージー君。それじゃあ別の案、別の案出すから!」
コージーはファインの話を無視することにした。
如何してもファインはこの木々の密集地帯を進みたい。
その気持ちは汲み取れるのだが、コージーとしてみれば、隅々まで歩き回ってバグの調査を優先したかった。けれどそんなコージーの意図を汲んだわけではなく、ファインは別の案を提案した。
「それじゃあ私は魔法で木々の間に道を作るよ」
「なんだ。それができるなら最初からすればよかったんじゃないのか?」
「うっ……魔法は得意不得意があるんだよ。道を作る魔法は、私あまり得意じゃないから」
ファインは恥ずかしそうに頬を掻いた。
如何やら魔法学校首席のファインでも苦手な魔法はあるらしい。
しかしそんなのは当たり前で、苦手なことを少しでもできるファインのことを凄いと思い、コージーは讃えた。
「凄いだろ、それって」
「凄い? 何処が凄いの?」
「全部だ。ファインは苦手がはっきりしているけど、得意分野の中の苦手を自分なりの解釈で“少しできる”にしたのは、普通に凄いと思う。うん、ファインは凄い」
「え、えへへ。そんなに褒めないでよ」
「いや、そんなには褒めて無いけど……浮かれすぎだろ」
ファインは少し褒めただけで浮かれて顔を赤らめる。
その様子にげんなりとしたコージーは引き気味になった。
しかし煽てたことでやる気が出たのか、ファインはガッツポーズと作ると、密集地帯に魔法を放つ。
「我が道を生み出すは未来への
ファインは右手を木々の密集地帯に向けたまま謎の詠唱を行った。
カッコ付けた短い詠唱で終えると、すぐさま魔法が発動。
—メイク・ア・ロード……直訳で“道を作る”。
コージーは頭の中で理解すると、同時に群生していた木々達が捻じ曲げられるように、なにも無い真っ平らな土の道を作り出した。
「おおぅ、凄いな」
「どうどう、コージー君。ちょっとだけ頑張ったよ」
「ちょっとだけ? これをちょっとだけ……楓の木までの直線ルートなんだけどな」
「えっ、なにか言った?」
「別になにも言ってないけど? それよりファイン、さっきまでは詠唱なんて言ってなかったよな? なんで急に詠唱なんて読み上げたんだ。そもそも詠唱が必要だったんじゃないのか?」
コージーはファインが作り上げた土の道に感激していた。
けれどコージーは不思議なことに気が付く。
先程まで一切魔法を詠唱無しで発動していた。
しかし突然詠唱有りで魔法を発動し、ファインは顔を赤らめている。
「えっと、私は詠唱無しで魔法を使えるんだ」
「詠唱無しで魔法が使える? 【高速詠唱】か【短縮詠唱】持ちってことか?」
「えっと、頭の中でイメージするから魔法の詠唱が短縮できるんだ。でもね、苦手な魔法は詠唱有りじゃないと使えなくて……ううっ、私も頑張ったんだよ!」
「なんで逆ギレ? 俺は別になにも言ってないけど……まあいっか。それじゃあ行こうか」
如何やらファインは本当に凄い魔法使いらしい。
これはもしかしなくても勇者よりも魔法使いの方が向いているんじゃないだろうか。
コージーはふとそう思うが、ファインもきっと分かっているからこそ悩んでいると察し、あえて何も言わないことにする。
無言のままファインが作ってくれた土の道を進んで行くと、楓の木まで最短距離で向かうのだった。
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