第6話 美少女勇者を助けたら
「改めて……ふぅ。こんなもんか」
コージーは無事に黒毛和バイソンを倒した。
急所を的確に突くと、黒毛和バイソンはその命を擦り減らしてしまう。
バタンと倒れ、両脚を大の字に開くと、動かなくなってしまった。
(にしてもこんな簡単に倒せるなんて……まあそんなことよりも)
コージーは〈蛇腹鋼刃〉を鞘に納めると、背後でしゃがみ込んでいる人影に視線を落とす。
そこに居たのは可愛らしい顔立ちをした美少女。
ぺたんと座り込むと、コージーのことをマジマジと見つめる。
(ううっ、気まずい……)
コージーは少女を助けることはできた。
けれど突然見ず知らずの自分が割り込んでしまったことを恥じる。
もしかすると、お呼びではなかったかもしれない。
コージーは自分の勝手な偽善を後悔すると、少女から目を逸らした。
「あ、あの!」
すると少女はコージーに声を掛ける。
潤んだ瞳を露わにすると、今にも泣き出してしまいそう。
コージーはやらかした? かと思って内心ビビッていると、少女はそんなコージーの気持ちを知らず言葉を加える。
「助けてくれてありがとう。わ、私、あのままじゃ……」
「お礼なんていいよ。俺は俺のしたいことをしただけだから」
「えっ!?」
マズい、調子に乗ってかもしれない。
これは引かれてしまっただろうか? それは流石に第一印象的に最悪だ。
自分のやった行いに視線を逸らして無かったことにしたくなると、コージーは少女のことを更に凝視する。
少女の見た目は何と言おうか。可愛らしさの中に、カッコ良さがある。
色白の肌、大きな瞳、薄い唇。血色はかなり良く、元気な印象がある。
髪の色はややピンク色。瞳の色も酷似している。まるで桃だ。
格好は額には宝石があしらわれた額当てがされている。
服装は白をベースに、マントを羽織っている。
動きやすさ特化の装備で、腰には剣。何よりも目を惹く武器で、先程まではくすんで鈍っていたが、今では本来の輝きを取り戻していた。
そう評して言えるのは、少女の格好から見てある種の役目が見えて来る。
百パーセントNPCだと改めて気が付かされると、何となく頭の中に浮かび上がった。
「まるで勇者みたい」
「ううっ……」
「どうしたの? 急に顔色が悪くなって……ごめん」
少女が目を伏せ始めると、何だか顔色も悪くなる。
だけど耳の先は真っ赤で、何か恥じているようにさえ感じた。
コージーは瞬きをして唇を尖らせると、頬を掻いた後に答えた。
「もしかして、勇者とか言ったのがダメだった?」
「ううん。そんなことないけど……私が勇者なんておかしな話だよね?」
「どうしてそう思うだよ?」
「だ、だって私は弱いから……」
弱い? 弱いだって? そんなバカな話は無い。
コージーはシステムを介入させることで、少女のステータスを覗き込んでいた。
けれどもステータスを全て把握はできない。あくまでも判るのは少女のレベルだけだ。
(レベル92。そんなNPCが弱いはずない。とは言え、黒毛和バイソン相手に苦戦って……変な話だ)
正直黒毛和バイソンの方が圧倒的にレベルは低い。
少女の実力とレベル差なら即死判定を使わない限り、負けるとはなかなか思えない。
けれどあれだけ苦戦を強いられていた。きっと何か呪いが絡んでいるに違いない。
「もしかして、呪い?」
「そ、そんなのはないよ! だけど私は……」
「弱い……あっ、
「どういうこと?」
何故か少女の方がコージーを憐れんでいた。
絶対立場的には逆なのだが、コージーは勘違いだと感じる。
そう簡単には負けない。その事実を明確にすると、コージーは少女に手を差し伸べる。
「とりあえずさ、ここにいても仕方なくない?」
「そ、そうだね! もう黒毛和バイソンは倒せたんだから……あっ!」
「今度はなに?」
少女はコージーの手を取り立ち上がると、目の前のことに意識を配る。
黒毛和バイソンが倒されていること。
その事実を受け入れると、少女は声を荒げた。
「黒毛和バイソンを倒したのは私じゃなくて、貴方だから……」
「ん? ああ、報酬的なやつ?」
「う、うん。だからこの黒毛和バイソンの買取は貴方が……」
「律義だな。いいよいいよ、俺が勝手に介入しただけだから。それにお前、負けなかったでしょ? 確かにジリ貧だったけど、正直最後は勝ってた。だからこの黒毛和バイソンの素材は、持って行ってもいいよ」
コージーは気前が良かった。
もちろん倒したのはコージーだが、自分はあくまでもバイト。
バグを取り除くためにここに来ただけで、調査の合間を縫ってNPCを手伝っただけ。
それ以上でもそれ以下でもなく、コージーは少女に譲った。
「いいの? 本当にいいの?」
「全然いいよ。それよりさ、ちょっとお願いがあるんだけど」
「お願い? も、もしかして私の体……」
少女は顔を赤くして、体をモジモジし始める。
正直そんな真似は望んでいない。
コンプラ的にも引っ掛かりそうなので、目に見えないところでやって欲しいと思い、コージーは即座に否定する。
「あっ、そんなんじゃなから。この近くに街ってあるでしょ? そこまで連れてってよ。正直地図が役に立たなくて困ってるから」
コージーはこれも何かの縁だと思った。
女勇者らしき少女を助けたことで、街まで連れて行ってもらえるのなら安いもの。
最悪なことに地図が無い。表示もされない。一瞬のうちに困った出来事に直面すると、コージーは少女を頼ったのだ。
「ま、街? う、うん。それくらいのことは当たり前だよ」
「当り前って、お前親切だな」
「お前じゃないよ。私はファイン、ファイン・ピーチフル。こう見えて、永久の勇者だから。困った人を助けるのは当たり前でしょ? ねっ」
少女は笑顔で答える。先程までの暗い表情が瞬く間に一変していた。
突然の笑顔にコージーは驚くが、少女=ファインはそんなコージーの手を取る。
またしても立場が逆転した。そんなことを想いつつ、コージーはこのゲームで初めてのNPCと交流をするのだった。
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