第51話 剣の勇者をざまぁしようのコーナー

 フウリンを後にしたコージーとファイン。

 とりあえず、一番お礼を言いたかった人には言えた。

 ホッと一安心したのも束の間。

 ファインはまだ会いに行かないといけない人がいるらしい。


「とりあえず、これで報告は終わりだな」

「まだだよ、コージー君」

「はっ? 他に誰がいるんだ」

「ブレイン君だよ!」


 その名前を聞いて、コージーは首を捻る。

 ブレイン、つまりは剣の勇者の下に向かうのだ。


「お人好しにも程があるだろ」


 コージーはついつい本音が漏れた。

 それもそのはず、今回の一件、確かにブレインには感謝がある。

 ブレインが居なければ、黒馬騎士を発見できなかった。

 おまけに、ブレインが居なければ、少なくとも死人が出ていた筈だ。


(その点を加味すれば、ブレインの活躍はあったんだろうが……な)


 流石にファインはお人好し過ぎだ。

 自分のことを散々苔にした挙句、追放し、ましてや負けたにもかかわらず懲りずに食って掛かる。

 その態度はあまりにも敗北勇者には似合わず、コージーはあまり心地よく思っていなかった。


(まあ、それを決めるのは俺じゃない)


 とは言え、決めるのはファインだ。

 ファインが行くというのなら、それを止めたりはしない。

 けれどコージーが行くのは筋違いだった。


「そうか、なら会って来ればいい」

「えっ、コージー君は行かないの?」

「俺が言っても嫌悪されるだけだろ」

「大丈夫だよ、コージー君がいなかったら、あのバグモンは倒せなかったんだよ!」

「それは結果論だ」


 コージーは一人で事態を収拾したわけじゃない。

 その事実を受け入れているからこそ、今回はたまたま上手く行っただけ。

 毎度のこと、そう思うことにし、無事だったと安堵する。


「もう、ブレイン君にはお世話になったでしょ!」

「尾鷲輪になった訳じゃないが……」

「硬いこと言わないの。ほら、行こ」

「……仕方ないか」


 コージーはファインに腕を掴まれた。

 そのまま絡まれ、逃げられないようにされる。

 そもそも逃げる気はないし、行かないとは言っていない。

 そのことを上手く伝えられない中、コージーはファインの先導で向かった。



「ここか?」

「そうだよ。ここにブレイン君は入院しているみたい」


 やって来たのはアメリアにある病院だった。

 それなりに立派なもので、この町では最大規模を誇るらしい。

 それにそぐう形で、設備も最先端。

 一般的に使われる治癒魔法と薬による先進的な治療が主体となっているらしい。


「ブレイン君は最上階の個室だって」

「あいつ、本当に勇者なんだな」

「勇者の特権ってことだよ」

「職権乱用か?」

「違うよ、ブレイン君はコージー君が想像してないくらい、優秀で強い勇者なんだよ。それだけ多くの敵を薙ぎ倒してきたから、貢献しているんだ。私と違って……」


 何故だろう。コージーは茫然としてしまったが、ファインは自分を貶した。

 ポカンとしてしまうのだが、ファインは気が付いていない。

 一瞬だけ目を伏せると、すぐにやせ我慢の笑みを浮かべ、病院の中に入った。

 ここからは静かにしないといけない。無駄なボヤきは止め、コージーも病院内に立ち入った。



 コージーとファインは階段を上った。

 すると最上階の奥から二番目の部屋。

 そこから声が上がった。


「痛てぇなぁ! おい、グレッフ、包帯のとこ触んなよ!」

「悪かったよ、ブレイン。にしてもお前の怪我は酷いな」

「そりゃ俺が庇ったからだろ。……サンラとスルタスは?」

「あの二人は無事だ。お前が庇ってくれたからな……ありがと。それと面目ない」

「気にすんなよ、これは俺のミスだ。それにもう終わった話だろ?」


 コージーとファインが病室の中を確認すると、大柄の男性が居た。

 完全におじさんだったが、ブレインと親しげに話している。

 あの他人のことを蔑んで見るブレインがだ。

 意外な一面にコージーは唖然とするが、トーテムポール状態で見ているファインは呟いた。


「グレッフ君だ。相変わらずだね」

「そうなのか?」

「うん。グレッフ君は、ブレイン君と対等に話せるから……」

「それならお前がパーティーを追放されることも……」

「グレッフ君は分かってたんだよ。私があのパーティーに相応しく無い人だって……」


 ファインはブレインとグレッフの会話を見聞きしてそう思ってしまった。

 その寂しそうな顔が浮かぶが、コージーは何となく理解できた。

 ファインにはあの空気は似合わない。

 パーティーを抜けて正解だったろうが、追放は流石にやりすぎだった。


「俺には分からいし、分かりたくも無いが、ファインが罵倒されるのは違うと思うぞ」

「コージー君は優しいね」

「そう思うならそれでいい」


 コージーはファインに感謝されるも、スルリと引き剥がす。

 代わりに病室の中を覗き込むと、如何やらグレッフは帰るらしい。

 座っていた異様に小さな椅子から立ち上がると、病室の扉に近付くので、コージーとファインは死角になっている折角に身を隠した。


「どうして隠れるんだ?」

「どうしてだろ、怖いからかな?」

「フィアンが怖がるのか?」

「私にだって怖いものはあるよ。……あっ、グレッフ君、帰って行ったよ」


 視線を前に向けると、グレッフは丁度帰って行った。

 それを見計らい、今度はコージーとファインが面会だ。

 ササッと姿を現すと、ブレインが入院している病室に向かう。


(それにしてもファインは……)


 先導を切るファインの手。

 真っ赤に染まり、汗を掻いている。

 非常に緊張しているようで、コージーは声を掛けようとしたが、それより先にファインは病室に入って行った。

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