第50話 リンの紹介は何?

 ファインがシクシク涙を浮かべながら、商品を買い込んでいた。

 たくさんのアイテムを買い込まされ、せっかく稼いだ金が減って行く。

 コージーは遠目で眺めていると、不意にでもなく気になった。


「毎度有り」

「ううっ……コージー君」

「ファイン、諦めろ。きっといつか使うはずだ」

「ううっ、うん」


 コージーはファインを精一杯でもなく励ました。

 涙を浮かべ、トボトボ歩く。

壁際に寄り掛かり項垂れると、コージーは頃合いだと思った。


「リン」

「なんだい? コージーも買ってくれるのかな?」

「そうじゃない。俺が訊きたいのはお前のことだ」

「ん? 私は秘密主義なんだよ。だかえら答えることはしないかな」


 リンは早速はぐらかす口実を付けた。

 コージーはそんなリンに食らい付くと、表情一つ変えない。


「リン、お前は一体何者だ」

「ん? どういうことだい?」


 リンはカウンター越しに背中を預ける。

 ニヤリと笑みを浮かべ、まるでコージーを試すようだ。

 気持ち悪い。そう思ったのは、まるで見透かすようだったからだ。


「とぼけるな。リンはどうしてこれを渡した」

「ん? それは私が渡した霧瓶だね」

「霧瓶? そんなピンポイントなものをどうして」


 コージーが手にしてるのは空になったガラス瓶。

 仲には霧が入っていて、黒馬騎士戦ではお世話になった。


 しかしお世話になったはなったものの、怪しすぎる。

 あまりにもピンポイント過ぎるアイテムだった。

 それが災いして、リンのことを疑ってしまう。


(リンは明らかに他のNPCとは違う。明らかに、高次元のAIだ)


 コージーは気持ち悪いくらいリンのことを睨む。

 もしかすると勘違いかもしれない。

 けれどそれを払拭するにはあまりにも情報ソースが無い。


「どうなんだ?」

「はぁ、そんなことかい」

「そんなことだと? リン、悪いが、答え次第では……」

「どうするつもりだい? もしかして、私に勝つ気?」

「当り前だ。俺の方が強いからな」


 コージーは好戦的な姿勢を見せる。

 リンもコージーの目をジッと見ると、一切目を逸らさない。

 「ふん」と嗜めるような含み持ちの鼻息を上げると、コージーは〈蛇腹鋼刃〉に手を掛けた。


「霧瓶の答えなら教えてあげるよ。正体はこれだ」


 そう言うと、リンは諦めた様子で腕を振り上げた。

 するとリンの腕から何か離れる。

 黒い羽根が床に落ちると、宙を飛び回っていた。


「わっ、な、なんだ!?」

「ん!? それって、八咫の鳥ですか」

「や、八咫の鳥? 八咫烏ってことか?」


 確かに飛び回っているのは烏だった。

 しかしその脚は三本もある。

 日本神話に出て来る導き手の烏、八咫烏だ。

 

(夜回り鳥とが違うのか?)


 コージーは首を捻ると、飛び回る八咫の烏はリンの腕に戻る。

 キョロキョロと頭を動かすと、嘴で突っつく。

 しかし痛がる様子は無く、単にじゃれているだけだった。


「凄い、リンさんって、八咫の烏を連れていたんですか!?」

「うん、本当は見せたくなかったんだけどね」

「ん? ファイン、八咫の烏ってなんだ」

「あっ、知らなくても無理ないよね。八咫の烏はこっちじゃ珍しいけど、遠い遠い島国では神の導って呼ばれている貴重な鳥で、何万年も生きるって言われている、見守り鳥なんだよ」

「おお、知らない単語が増えるな」


 コージーはファインの口から飛び出す知らない単語の処理に追われる。

 とは言え、一つ言えることがあった。

 この世界には日本のような場所がある。そこには八咫烏をモチーフにした鳥がいる。しかも見回り鳥と呼ばれる種類で、リンが貸し出していた夜回り鳥と似た酒類らしい。

 が、恐らく文言の重ね方にも、上位種であることは間違いなかった。


「その鳥がなんなんだ?」

「この子は未来を見通せるんだよ」

「み、未来を見通す!? つまり、未来視ってことか」

「厳密には少し違うけど、そうだね」


 リンは八咫の烏を撫でながら答える。

 確かに、リンが八咫の烏の能力を借りられるのなら、それもできなくはない。

 黒馬騎士が現れること、霧瓶が効果的であること。どちらにも合点が行くと、コージーは納得是ざるを得なかった。


「納得するべきなのか……いや、リンがどうして八咫の烏を連れているんだ……」

「ふん、もういいかな? これから私も仕事があるんだ」

「えっ!? 待った、ちょっと待った」

「待たないよ。ファイン、コージーを連れて行ってくれるかな?」

「はーい! コージー君、行くよ」

「えっ、ファイン、ちょっと待った」


 コージーは軽くいなされてしまい、ファインに連れられて店を出ることになった。

 その際、手を振って見送るリンの姿がある。

 何も分かっていない。まだ肝心な所が知れていない。

 必死に手繰り寄せた機会を失った気持ちになると、ふとあったリンの目が怖かった。


 まるで全て見透かした上で話しているみたい。

 常に未来を見続けているのか。そんな根拠のない虚像に悩まされると、コージーはファインと共にフウリンを後にした。




「全く、大した執念だよ」


 リンは相棒の顎を撫でる。

 撫でられた八咫の烏は嬉しそうに頬を擦り寄らせる。

 カウンター越しに、リンはふと並べられた瓶を覗き込んだ。


「私の正体を探るなんて真似、しなくていい。私は、君が思う程、表も裏も無いんだからさ」


 リンはコージーの疑問に勝手に答える。

 しかし誰も聞いてくれる人は居ない。

 否、訊かせるつもりは鼻かっら存在しておらず、そこに在るのは凛とした女性の姿だった。

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