第45話 永久の勇者の覚醒

 ファインはコージーの隣から前に出た。

 一人孤立し、黒い靄の中に包まれる。

 あまりにも危険。にもかかわらず、ファインは目を閉じたまま選定の剣に語り掛ける。


「私は永久の勇者。今まで永久の意味ってなにかって思ってたけど、永久は永遠。だけど限りのある時間の中に留まっているんだよね」


 ファインは自問自答を始めた。

 真理を解こうとしているみたいで、ファインは選定の剣に訊いてみる。

 何かを答えてくれることは無い。

 答えの無い世界に落ちると、頭の中にもう既に出た答えが出る。それこそが“結論”なのだ。


「私はもう決めてる。だから戦う。答えが出たならそのために突き進め……だから応えて、選定の剣!!」


 ファインは高らかに選定の剣を掲げると、眩い光に包まれた。

 剣身の部分が真っ白になり、黒い靄の中で際立つ。

 靄による障害を全て弾けさせ、ファイン自身を輝かせた。


「これがファインの意地なのか……それに選定の剣が応えて……ヤバいな」


 ファインは気が付いているのだろうか。

 コージーはファインの意地を見ていると、黒馬騎士に襲われるのが目に見える。

 すると案の状で、右腕の黒い剣を叩き付けに行くと、ファインの背中を切り裂こうとする。


「ファイン!?」

「これが永久の勇者の力。それなら……もう見えてるよ!」


 ファインは一切動かなかった。

 選定の剣を掲げ、自分が光になっていると、黒馬騎士の攻撃は避けられない。

 そのせいもあり、ファインを助けに向かおうとしたコージーだったが、黒い剣は・・・・ファインには何故か・・・・・・・・・届かなかった・・・・・・


 ギュィィィィィィィィィィィィィィィィン!!


「ギシシィ!?」


 黒い剣はファインに触れることさえできなかった。

 まるで壁でもあるみたいにそれ以上行くことは無く、押しても引いても無駄だった。

 何故かその場に留まったまま、ファインに手出しができなくなると、逆に黒馬騎士が危険に晒される。


「な、なにが起きているんだ!?」

「コージー君、これが私の、永久の勇者の力だよ。私に宿った能力、魔法を超えた偉大な特権。その名勇証だよ」

「ゆ、勇証?」


 コージーには全く分からなかった。

 これはきっとスキルじゃない。全身をゾワリとした寒気が押そうと、身動きが取れなくなる。

 もしかするとコージーも当てられてしまったのか。

 そう思ったのも束の間。ファインは叫んだ。


「コージー君、今だよ。今こそ終幕の鐘を鳴らして」

「……ポエムかよ。恥ずいな……けど、上々だ!」


 コージーは〈蛇腹鋼刃〉を叩き付けに向かう。

 動けない相手なら容易く葬れる。

 最後の瞬間、黒馬騎士はゾッとする。動けない、逃げられない、靄の中から姿を現したのが最後で、コージーの一撃が激しく叩き込まれた。


「そこだっ!」

「ギシィィィィィィィィィィィィィィィン!」


 コージーは一撃で葬った。

 頭の部分、丁度兜を奪い取るように〈蛇腹鋼刃〉が巻き付いた。

 まるで絞め殺すようだが、そうではなく、コージーの行動は悍ましかった。


「ギシシシシィ!」

「そうはさせないよ。ぐはっ!」


 黒馬騎士は全身を身震いさせ、何とか動こうとする。

 しかしそんな隙は与えないフェルノは、吐き気を催しながらも無理やり抑え込む。


「無理はするなよ、ファイン」

「う、うん。でも、ここが千載一遇のチャンスなんだよね」

「それはそうだが……分かった。できるだけ早く飛ばす」



 苦しみあぐねる黒馬騎士。何とかして〈蛇腹鋼刃〉を取り除こうとするが、それでも絞まって来る。

 どれだけ逃げようがコージーはもう逃がさない。

 ファインが力の限り動きを止めると、黒馬騎士は最後の瞬間を目の当たりにする。


「悪いな。これでデバック完了だ」

「ギシュアァァァァァァァァァァァァァァァッ!」


 それが追悼句になってしまった。

 黒馬騎士の頭がコトンと落ちると、流石にバグモンであろうが絶命する。

 動けなくなり、立ったまま最後の時を迎えると、黒い靄も出なくなる。


「終わったな……」

「終わったんだ。そっか、そうなんだぁ? ふぅ……」


 黒馬騎士を倒すと、コージーは安堵した。

 ファインも張り詰めていた糸が千切れたみたいに力が抜ける。

 草原の上にパタリと倒れ込もうとする中、コージーは側に駆け寄って、ファインのことを支えるのだった。


「お疲れ様、ファイン」

「コージー……くーん」


 ファインはそのまま意識を失ってしまった。

 目を閉じたままゆっくりと寝息を立てる。

 全身から汗が噴き出すと、コージーは茫然と力を抜いた。

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