第18話 ゴブリンライダーの襲撃

「うえっ」

「コージー君、大丈夫?」


 コージーは嫌悪感から吐き気を催す。

 ファインはコージーのことを心配するも、スッと手を伸ばす。


「大丈夫。きっと大丈夫」

「それは絶対大丈夫じゃないよ!」

「大丈夫は魔法の言葉で」

「それは時と場合だよ。とにかくもう無理はしないで、一旦戻ろう。グレーウルフの素材は回収しなくていいからね」


 ファインはコージーを気遣い、肩を貸して帰ろうとする。

 後ろから回り込み、首に腕を回すと、ファインはコージーを連れて帰ろうとした。

 しかしファインとコージーの頭には嫌な感触が残る。

 またしても敵の気配。一体何処にいるのか、草むらの中を凝視する。


「コージー君。もう少しだけ、頑張って」

「分かってる。それに戦うなら、話は別だ」


 コージーはファインの手を離した。

 回されていた腕から解放され、コージーは〈蛇腹鋼刃〉を再び手にする。

 草むらの中の敵は見えないが、ガサガサと激しく動いていて、コージーは〈蛇腹鋼刃〉を振り抜こうとした瞬間、敵は殺気に気が付いて動き出す。


 プシュン!


「鉄の矢か。ってことは、潜んでいるのは弓が引けるモンスター」

「しかもこの射線、かなり低いよ?」

「脚を狙いに来た時点で、人間じゃないのは確定。二足歩行のモンスター、グレーウルフ、まさか!」


 嫌な予感がしてしまい、コージーは先手を打つ。

 鉄の矢を弾き、〈蛇腹鋼刃〉を振り抜いて弾く。


 ガキン!


 鉄の矢は草の上に弾かれて落ちた。

 楔のように打ち込まれてしまい、動きを完全に止めると、続けざまに鉄の矢が射られる。


「また来たよ!」

「分かってる。ファインは前に出て、敵モンスターを叩いて」

「わ、分かった。はぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」


 ファインがコージーの背中から回り込み、草むらの方に向かう。

 その間、コージーは射られた鉄の矢を弾くことに徹する。

 もちろんコージーはファインに当たらないように配慮をし、鉄の矢を無駄だと思い知らせる。


「今だ!」

「そりゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」


 蠢く草の中に剣を叩き付けた。

 ドスン! 鋭い一撃を加えると、「グギャァ!」と言う奇声が上がる。

 この耳障りな悲鳴、何となくの想像が現実味を帯びた。


「とりあえず倒したけど……」

「ファイン、今すぐそこから離れろ!」

「急にどうしたの? 怒るなんてコージー君らしく、キャッ!」


 コージーはファインの身を案じて叫ぶ。

 しかしファインが聞き入れる前に、草の中から血まみれの腕が伸び、黄ばんだ爪が柔肌の腕を強く握り刺した。


「な、なにこれ!? まさかゴブリン」

「そのまさかだ。おまけにグレーウルフと来た以上、ゴブリンライダーで間違いない。すぐに振り解け」

「振り解けって言われても、えいっ!」

「グギャラァァァァァ!?」


 ファインは剣を振り上げて、ゴブリンの腕を切断した。

 ゴブリンは絶叫を上げ、ドロドロした血を垂らす。

 ファインは弾けた血液を被るも、コージーの目にはシステムで見えない。

 けれども怪訝な表情から想像を掻き立てられ、気持ち悪い思いをした。


「ううっ、最悪だよ」

「最悪とか言っている場合じゃない。相手はゴブリンと言えど、数が多いんだぞ」

「か、数が多い?」

「ゴブリンライダーはグレーウルフに乗って偵察をしていたんだ。とは言え、ここまでグレーウルフしか姿を現していない。つまり、何処かに歩兵が……そこかっ!」


 コージーは振り返りざまに〈蛇腹鋼刃〉を叩き付けた。

 いつの間にか後ろに回り込み、奇襲を仕掛けようとしていた一匹のゴブリンが居た。

 けれどもコージーの前では無力で、即座に切られて地面に伏せると、回りから殺気を帯びた視線を感じ取る。


「コージー君、結構数がいるけど」

「みたいだな。でも、倒せない数じゃない」

「全部倒すの? スタミナ、持つ?」

「それは要相談。最悪ポーションがぶ飲み、ゾンビ戦法で数を減らそう」


 コージーの作戦はとにかく極端だった。

 ファインは瞬きをすると、信じられない物を見た目をする。


「それ、本気で言ってるの?」

「言ってる。それじゃあ、やろっか」

「やろっかじゃない。笑顔で言うなんて……」


 ファインが喋っている途中でゴブリンが後ろに回り込んだ。

 背後を取られたファインだったけど、一度も見ることなく、感覚だけでゴブリンを倒す。

 振り上げていたボロのナイフが成す術なく落ちると、コージーもゴブリン達が攻撃する前に射程距離の長さを活かして一掃する。


「ちょっと怖いよ?」

「そう言うファインも怖いけど?」

「それは言わないでよ! 本当はこんな荒々しいことしたくないんだよ」


 ファインは可愛く怒っていた。

 けれど周りにはゴブリンが転がり、あまり良い雰囲気ではない。


「だけど戦うしかないんだよね?」

「とりあえず数は減らした方がいいかも」

「うーん、乗り気じゃないけど、私も頑張るよ」

「俺も一応やってみるから。それじゃあ行こうか」


 そんな状況下でも関係なく、コージーとファインは敵意剥き出しのゴブリン達を畏怖すると、攻撃される前に叩きに走っていた。

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