第19話 ゴブリンの反撃
コージーとファインはゴブリンを叩きに向かった。
〈蛇腹鋼刃〉を使うと、草の中で蠢いている、ゴブリンを次から次へと刺していく。
ファインも剣を片手に草の中に叩き込むと、ゴブリンが撲殺された。
一瞬で何匹ものゴブリン達の命を刈り取ると、悲鳴が草の中から上がる。
「とりあえずこれで数は絞れたかな」
「そうだね。だけど、どうしてこんなゴブリンが……」
コージーは〈蛇腹鋼刃〉を肩に掛ける。
その傍らではファインが剣を地面に突き刺す。
そうして物思いに耽ると、ボーッと口走る。
「確かにこれだけゴブリンがいるとなると、なにか嫌な予感がする」
とは言え、ゴブリンは超メジャーなモンスターだ。
おまけに繁殖力も爆発的に高い。
けれどモンスターがリポップするのは仕様で、そこまでのリアリティはそこには無い。
「もしかして、誰か襲われて……」
「はっ?」
「その、ゴブリンの雌ってかなり貴重だから。繁殖のために……ねっ」
ファインは意味深なことを口走る。
考えれば考えるだけ、腸が煮え返りそうになった。
けれども、そんなR18な仕様を姉達のゲームに介入させるだろうか?
コージーは顎に手を当てると、唇を噛んで不安が過ってしまっていた。
「ファイン、助けに行くのか?」
「えっ!? ど、どうしよう。まだ確証が持てた訳じゃないから」
「だよなー。最悪、蜂の巣を突いただけになると、信用が無くなる」
「うっ、じゃあどうしよう?」
コージーもファインも最悪を想像してしまった。
自己肯定感が著しく下がる。
けれども、コージーとファインは二人では如何しようもないと悟る。
「よし、一旦戻ろう」
「そうだよね。戻って、冒険者ギルドに伝えないとね」
「ゴブリンの大量繁殖……ん!?」
「どうしたの、コージー君……はっ!」
コージーとファインはまたしても嫌な殺気を感じ取る。
今度ははっきり敵意では無く、殺気でしかない。
ゴクリと喉を鳴らすと、キョロキョロ視線を右往左往させることもしない。
周囲を囲まれている。
この滲んだ感触は、コージーとファインは即座に踵を返した。
「「逃げろ!」」
全速力、しかも互いに並走して走った。
自己最速記録を叩き出す勢いで、草の上を掻き分ける。
すると背後から奇声が大量に上がり、「ギャァッ!」と声が追ってくる。
「ファイン、振り返る暇は無いよ」
「分かってるよ。だから全速力で逃げてるの!」
「とは言え、このままじゃ追い付かれる」
「それなら……
ファインは振り返ることも無く、指先に眩い光を集める。
コージーは一瞬だけ視線を奪われるが、すぐさまファインは背後に光を放り投げる。
すると眩しい光がゴブリン達の視界を奪い、失明とまではいかないが、追って来れないようにした。
「ファイン、今の魔法は?」
「言ったでしょ、私は今年の魔法学校首席合格者だよ? こう見えて、剣よりも魔法の方が得意なんだよ!」
別に自慢する話でもなかった。
コージーは魔法学校首席だと訊かされていたので、目をキラキラ輝かせるファインが眩しく見えてしまう。
「眩しい……」
「眩しいってなに?」
「眩しいは眩しいよ。それより、この光が消える前に帰る。それっ!」
「あっ、待ってよコージー君」
コージーとファインは光を背にして街まで急いで戻る。
当分森には来れそうにない。
もう少し使えそうな野草を集めて置けば良かったと、コージーはちょっとした後悔を置き去りにした。
「ってなことがあったんです」
ギルド会館で、コージーとファインは事の顛末を話した。
正直、ゴブリンに追われていないことが救いで、あの後のことが如何なったのかは知らない。
けれども、ゴブリン達同士で殺し合いをしていてくれたら少しは楽。
そんな思いを引っ提げると、淀んだ気持ちを露わにする。
「そんなことが……うーん」
コージーとファインの話を聞いたシャープはにわかには信じがたい顔をする。
けれどファインの顔色を窺い、本当であると理解すると、腕を組んで考え込む。
相手はゴブリン。そんなに強くはない。ランクも低く、初心者冒険者でも油断しなければ相手にできる。
けれどそれは数が少ない場合だ。
増えれば例えゴブリンであれ危険極まりない。
如何やらこのプログラムの中で構築されたゴブリンは、危険性が高いらしく、舐めて掛かると死ぬ相手だった。
「そうですね、ファインさんは嘘を付いていないみたいですので」
「俺は信用されてないのか」
「……は、一旦置いておくとして」
「置いて行かれた。完全にいない扱いされた」
シャープはコージーから視線を外すと、ファインのことに集中する。
別に信頼関係ができていないのだから、コージーも納得はできる。
けれどこの態度はいかんせん許せない。後でNPCの脳をいじるべきかと思ったが、それよりも先にファインが仲裁に入る。
「シャープさん、コージー君も戦ってくれたんですよ。信用してあげてください」
「ファインさんがそう言うなら間違いないですね。コージーさん、申し訳ございませんでした」
「うっ、なんか許せない社会」
コージーは頭を抱えてしまった。
ダメな社会の縮図がそこに存在していて、死んだような嫌悪する目を向けた。
「とりあえず検討はしてみます。近いうちに冒険者さんを派遣するかもしれませんが、コージーさんとファインさんは」
「大丈夫です。適材適所、私なんかより強い冒険者さんを行かせてあげてください」
「ファインはそれでいいのか?」
「うん。私が行くよりも手っ取り早いでしょ?」
「それはそうだけど……まあいっか」
コージーは口出しすることを止めた。
ファインが選びとった選択に、わざわざ口を挟むのは野暮。
所詮自分はデバッカーで、NPCの暮らしを邪魔するのは違うと感じ、ここは何も言わずに留めることにした。
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