第15話 初めの依頼は上々

 コージーとファインは無事に依頼をこなした。

 スライムを大量討伐し、大量の素材を獲得。

 ドロップアイテムは無数のスライムの残骸で、ネトネトした粘液が大量に用意されていた空き瓶の中に放り込まれていた。


「こんなものか」

「こんなものか? この量を見て、その一言で済ませられるなんて、コージー君って大物だね」

「大物? あはは、俺は小心者」


 コージーはファインにドヤされてしまった。

 けれどコージーはスルリと身を翻すと、ファインの言葉に合わせてわざとのように韻を踏む。


「小心者?」

「そうそう、小心者……あれ?」


 ファインは首を捻る始末。

 如何やら小心者と言う言葉が伝わっていないらしい。

 勇者なんだからハチャメチャなAIが積まれていると思ったのだが、如何にも難しい日本語の反応には、少々難を得るらしい。


「まあいいか」


 しかしコージーはこれも味だと思った。

 だから下手に修正はせず、コージーは気を取り直すと、大量のアイテムをインベントリの中に放り込むと、ファインを連れて早々に街まで戻る。


「とりあえずアメリアに戻ろう」

「ふーん、今日はもうお終い?」

「お終いお終い。無駄な労働はしない。日本人がバカみたいにやって来たことは全力否定。じゃないと、グローバルな社会には置いて行かれるよ?」


 コージーはファインには絶対に伝わらない例えを放った。

 頭の上にはてなマークを浮かべると、ファインは百で伝わらない。

 首を捻ったまま「ねぇ」と質問を質問で返そうとするので、コージーは腕を掴むと、黙って街まで戻るのだった。



 それで今に至るのだが、コージーとファインはギルド会館に居た。

 朝早い時間のためか、依頼を受けて今から出発の冒険者が多い。

 身支度を整え、再度確認を取る程度に済ませると、そそくさとギルド会館を出て行く影がある中、早々にギルド会館に戻って来たコージーとファインはいわば腫れ物だった。


「あれ、コージーさんとファインさん?」

「シャープ、戻ったよ」

「シャープさん、ただいまです」


 あまりにも早い帰還。に加えて清々しい程の笑み。

 あまりにも逸脱した瞬間に、シャープは時間を切り取られる。

 そんな印象を強く受け、軽く口をポカンと開けると、インベントリからコージーはアイテムを取り出す。


「討伐したスライムの群れ。その素材を集めて来たから買い取って欲しいんだけど、この量って行ける?」

「えっ、この量とは?」


 コージーは手始めにスライムの粘液が入った瓶を一つだけ取り出す。

 言葉の矛盾に気が付いたシャープは即座に否定。

 コージーに訊ね返すと、申し訳なさそうに視線を落とした。


「いや、多分こんなに要らないんだけどさ、こっちも有り余ってて……ほいっ」


 ドサッ、ドカッ、ドササッァ!


 インベントリから大量のスライム入り瓶が登場。

 受付を埋め尽くしてしまい、瞬く間にシャープの顔色が変わる。


「ひやっ!?」


 顔色が芳しくない。若干と言うよりも結構青い。

 他の冒険者達も受付嬢達も顔色が変わる。

 気色悪い物を見たようで、今にも吐き出してしまいそうだった。


「まあ、流石にな」

「そうだよね。私は慣れているけど、この量は……ねっ?」


 スライムの粘液が生き物のように瓶の中を這い回る。

 あまりにも気色の悪い光景が広がり、ウネウネとした集合体に恐怖さえ覚える。

 この量のスライムを一堂に会するとなると、精神が極まってしまい、気分を悪くするらしい。


「な、な、な、なんですか、この量!? しかも動いてないですか!」

「ああ、動いているのは多分あれ。生き物が死んだ後って、数時間は動くから、その仕様」

「はいいっ!?」

「あ、後は、その……水分だからですかね? ほ、ほら、水粘土みたいな」

「それとこれとは話が別です。すぐに片づけてください!」


 シャープは怒号を上げた。

 この量のスライムの残骸を見たことで、狂喜乱舞している。

 精神が侵され始め、これはマズいとコージーは追い打ちを掛ける。


「それじゃあ買い取ってよ」

「はいいっ!?」

「いや、こっちも要らないんだよね。使い道も限られるし、その分はもう持っているから、正直いらない。スライムの粘液なら、内臓も含まれていて、調合とか錬金術にも使えるでしょ? 買い手はいると思うから、一度ギルドの方で請け負ってよ。じゃないと、正直困るから、不法投棄確定だけど……」

「それは、他の強いモンスターを呼び寄せることになっちゃうよ? 絶対ダメだよ!」

「ってことらしいから、お願いします」

「お願いします!」


 コージーは何かと理由を付けて買い取って貰う運びに進める。

 しかしシャープは唇を噤むと、コージーを詰めたい眼差しで襲う。

 けれども、コージーの言うことには一理がある。ここは冷静になるべきだと悟り、一度目を閉じると、シャープは伝えた。


「分かりました。とは言えそこまで買取価格には反映されませんよ」

「いいよ、要らないから」

「必要な人に行き渡ってくれたら嬉しいです」


 コージーもファインも楽観的。

 その振る舞いに呆れるシャープは吐露する。


「その優しさがあれば、嫌悪感なんて抱かなくてもよかったのに」

「えっ、シャープさん抱いていたんですか!? ご、ごめんなさい」

「謝らなくてもいいわよ。これも仕事の内、なにも悪いことはしていないんだから……精神的にはね」


 シャープの棘のある言葉が槍の様に襲う。

 大量に並べられたスライム入りの瓶。

 その場に居たほぼ全ての人の心に傷を残すと、それから数日間、スライムを討伐しようとする冒険者も、スライムを見たがる受付嬢も居なかったらしい。

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