第16話 薬草を採りに行こう

 コージーは森にやって来た。

 草原から程近い所にある、名も知れない森だ。

 如何やらこの森には様々な植物が生きており、モンスターの影もチラホラ。

 自然豊かなで、陽射しが降り注ぎ、豊かな木漏れ日を与えてくれていた。

 一言で言えば、マイナスイオンが集まるいい場所だ。


「とりあえず資金としては上々。問題は時間と情報か」


 如何してコージーがこの森にやって来たのか。

 理由は超が付く程単純で、その世界の自然を確かめるためだ。


「とりあえず、欲しい情報は足で探す……古臭いけど、ゲームらしい」


 コージーは軽くストレッチをすると、森の中へ向かう。

 万が一に備え、スキルはほぼ常にONにはしておき、モンスターの感知を怠らなかった。


「うーん、とりあえず草木は生い茂ってないけど、気持ちが良い」

「そうだね」

「……ん?」


 ふと視線を横にスライドさせる。

 左の耳元から少女の、しかもつい最近聞いた声が聞こえたのだ。


「ファイン、なんでこんな所に?」

「えっ? 私は練習しに来たんだよ?」

「練習? 意味分からん」


 そこに居たのはファインで、何故かコージーと一緒になって自然を満喫していた。

 とは言え、不思議だ。

 コージーはスキル、【気配察知】を発動中だ。このスキルは、自分よりも実力が高い相手は殺気として感知できるが、レベルの低い相手は意識すれば感知できる。

でも殺気も無ければ感ともすり抜けられる仕様のようで、コージーは新しく知れた。


「それは仕様の話であって、練習とは?」

「私、剣の練習をしに来たんだよ?」

「剣の練習? どうして森の中で」

「ここなら誰にも見られないからだよ。私、勇者なのに弱いから、少しでも練習しないと……って思ってたんだけど、まさか先客がいるなんて」

「悪かったな」


 今日はコージーの方が先に来てしまったせいで、ファインの場所を奪ってしまったらしい。

 けれどそれはファインの思い込みだ。コージーが気に病むことではない。

 そうは分かっているのに、国による悪い癖が出始める。


「……帰るか」

「か、帰らなくてもいいよ。私、剣の練習は恥ずかしいから誰にも見せたくなかったけど」

「追い打ち止めろ」

「ご、ごめんなさい。でもね、コージー君が気にすることないから。そ、そうだ!」


 コージーは自分から身を引こうとする。

 この場を後にし、他の場所を調査対象に使おうとした。

 

けれどそんなコージーの腕をファインは力強く握る。

握り手が強すぎて腕が痛い。

少女とは思えない力強さに驚くのも束の間、ファインはコージーが要る理由を伝える。


「コージー君、あの草分かる?」

「草?」

「ほら、そこに生えている草だよ。近くに紫色の花が咲いているでしょ?」

「そうだな……毒々しい色合いだ」


 ファインが指を指すと、そこには確かに草が生えている。

 否、草は何処にでも生えているのだが、特徴的な形をしていた。

 おまけに隣には濃い毒々しい紫色の花が咲いていて、より一層分かりやすくなる。


「ふふっ、そう思うよね? でもあの花、毒じゃないんだよ?」

「そうだろうな」

「そうだろうなって、もしかして一般常識から言ってる?」

「大体綺麗なものには棘がある。そう言うことだろ?」


 世の中、綺麗なものには何かしらの裏がある。

 棘はあくまで例えで、少し触れれば恐ろしい毒牙に掛かる可能性もあるのだ。

 けれどもファインの口ぶりから、そんな気がしてならない。


「それじゃああの草を採取してみてよ」

「採取? 雑草かなにかじゃ……」

「いいからやってみて」


 ファインはそう言うと、コージーの背中を押す。

 如何やら逃げられない状況で、採取するくらいならやぶさかでもない。

 そう思ったコージーは草を指で摘まむと、危険が無いのを確認し、スッと引き抜く。


「とりあえず抜いてはみたけど……はっ!?」

「その顔を待ってたよ」


 ファインは如何やら分かっていたらしい。

 コージーが驚くのも無理はない。

 今抜いた草、ただの雑草ではなく、回復ポーションの材料で、貴重なムラサキ草だった。


「ムラサキ草。どうして?」

「どうしてもなにも、隣に咲いているのが、毒紫モドキって花だからね」

「毒紫……モドキ?」

「そう、モドキ。毒紫を真似して食べられないようにする無害な植物だよ。ねっ、凄いでしょ?」


 コージーは返す言葉もなかった。

 一部のプレイヤーしか知らない情報を完全に熟知している知識。

 ファインに搭載されているAIは、謎プログラムの中のせいか、かなり極まっていると思った。


「ファイン、お前は……」

「私は勇者だよ? 一応ね」

「そう言うことじゃなくてだな……まあ、いっか」


 コージーはNPCの言うことだと思い、現実に持ち帰るのを止める。

 けれどもここに居る限り、頼もしい相棒ではある。

 コージーはファインの振りかざす笑みを面と喰らうと、眩しすぎて目を直視できなかった。

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