第34話 剣の勇者の敗北

「シャープさん!」


 急いで冒険者ギルドまで戻って来たコージーとファインは、受付カウンターに立っていたシャープの前にやって来る。

 肩で呼吸をし、走ってきたことを伝える。

 するとシャープは焦りを見せるファインに驚きつつ、瞬きを交えながらも冷静に対応した。


「どうしましたか、ファインさん?」

「シャープさん、訊いてください。今、凄く大変なことがあったんです!」


 ファインは息遣いが荒いまま、シャープに話しをする。

 けれどシャープは冷静だった。

 焦るファインを諫めると、まず初めにするべきことを見定めさせる。


「それよりファインさん、依頼は?」

「あっ、そうでした! 忘れてました」

「忘れるなよ」


 コージーはファインの後ろに付くと、ついついボヤいてしまった。

 頬をポリポリ掻くと、ファインは苦笑いを浮かべる。

 「黙ってて」と言いたいのか、それとも「味方をして」とお願いしているのか、正直コージーには分からないが、それでもコージーはファインの味方をした。


「カナリア……メルメームちゃんだっけ?」

「はい、そうです。メルメームちゃんですよ」

「一応怪我はしていない筈。極力人目も避けてきたから、人間不信にはなってないと思うけど」


 コージーとファインはここまで配慮をしてきた。

 インベントリの中に生物を入れることはできない仕様のため、ファインが用意していた籠の中にカナリアを入れていた。

 視界を奪い、できるだけ安心させて挙げられるように配慮をし、飼い主と対面した時に危害を加えないように細心の注意を払って来たのだ。


「まぁ、それは凄いですね!」

「コージー君の案なんですよ。ありがとう、コージー君」

「いや、捕まえた後に俺達が原因で被害が出たら申し訳が立たないだろ」


 コージーは決して褒められることはしていない。自分ではそう思っていた。

 けれどファインもシャープもコージーのやったことを讃える。

 少しの配慮ができるのは優秀な冒険者の証のようで、にこやかな笑みと拍手が密かに送られる。


「止めろ止めろ、拍手は恥ずかしい」

「そうかな? 私は嬉しいけど」

「俺をファインと一緒にするな。はぁ、それよりファイン、もう一つの本題」


 コージーはバツが悪くなり、ファインに話をすり替えるように促す。

 するとファインも先行していた気持ちが爆発する。

 捕まえて籠に入れられたカナリアをシャープに預けると、即座に本題を伝えた。


「シャープさん、実は大変なことがあったんです!」

「大変なことですか? 冒険者同士のいざこざ?」

「そうじゃないです。いや、それはこの間……」

「そう言えばファインさんはこの間ブレインさんと決闘をして勝ったと訊きましたよ。凄いですね、ファインさん!」

「え、えへへ、決闘じゃないですよ。って、そうじゃなくて!」


 話が紆余曲折して脱線の方向へと進んでいた。

 ファインは何とか話を下に戻そうと必死になる。

 けれどその度に話が少しずつズレると、コージーは溜息を吐いた。


「メルメームちゃん? を捕まえに行った時、怪しいモンスターに遭遇したんだ。噂になっているっていう、例の黒い塊だったな」

「えっ!? 黒い塊に出遭ったんですか」

「は、はい、そうなんです! しかも黒い塊は形を変えて襲い掛かってきて、でもコージー君が一人で倒しちゃったんです。バグモンって言うみたいで、凄く強かったんですよ。それから……」


 ファインは口がスラスラ動いていた。

 頭の中から溢れて来た言葉が喉を鳴らして次から次へと出て来る。

 圧倒的な情報量。シャープは茫然となりながらファインの言葉を聞き終えると、蟀谷を押さえてしまった。


「なるほど、黒い塊の噂。あれはどうやら本当だったみたいですね」

「あ、あのシャープさん。分かってないですよね?」

「そうですね。実際に倒されたということはなにか証拠になる素材はございますか?」

「いや、バグモンは倒すと基本消滅する。その世界に本来あるべき形を与えるんだ」


 コージーはシャープに淡々と話した。

 しかし肝心なことは何も言わない。

 大まかには黙ったまま話を進めようとするが、シャープは冒険者ギルドの職員として、にわかには信じがたい様子で訝しむ。


「バグモン……世界に本来あるべき形を与える……コージーさん、貴方はなにを知っているんですか?」

「さぁ? それよりこれからどうするんだ」

「どうすると言われましてもね、今の所は被害は出ていないみたいですから、なんとも……」


 シャープがそこまで言うと、急に冒険者ギルドの扉が徐に開けられた。

 激しく軋む音を立て、ズッシリとした重たい音を響かせると、冒険者ギルドの中に居たほぼ全ての人が視線を釘付けにされる。

 当然コージーやファインも例外ではなく、扉に視線を預けると、そこにはボロボロになった少年少女の姿があった。


「あれは、ブレイン君達!?」

「全員集合みたいだな……にしても、全員ボロボロ、なにがあったんだ?」


 ファインはボロボロになって帰って来たのが剣の勇者のパーティーだと判ると、同じ勇者で仲間だったからか、すぐさま傍へと駆け寄る。

 コージーはそんなファインを止めたりしない。

 むしろ剣の勇者がボロボロにやられている現状に嫌な予感がすると、ファインと一緒に傍に駆け寄った。






ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 いよいよコージーの本題に移ります。

 しかし剣の勇者が先にやられてしまいました。


 ざまがの対象だった剣の勇者も、打ち負かされてしまう。

 そんな相手にコージー達は勝てるのか?

 少しグダリますが、良ければ最後までご拝読ください。


 これからも投稿を続けていきます。

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