第11話 姉からのメッセージ

「まさか冒険者になるなんてな」


 コージーは不服そうに溜息を吐く。

如何してこんなことになったのか。

正直、納得が上手くできないまま、硬いベッドの上に横になっていた。


「とは言え、宿に泊まれてよかった」


コージーは今のところ、安宿に泊まっていた。

この宿は冒険者ギルドが管理・運営をしているらしい。

そのおかげか、部屋数はかなり多く、シンプルな部屋構造をしているけれど、その分かなり安い。冒険者として活動する限り、超絶格安で泊まれるのだ。


「超絶格安とは言ってもさー……はぁ、まあいっか」


 コージーは仰向けのまま足を組み、ベッドの上を転がった。

 その状態で不意にインベントリを開くと、中から冒険者カードを取り出す。

 まさかの現物。コージーは冒険者になった自分を噛み締めた。


「冒険者ってなにするんだよ……ああ、逆に考えるしかないか」


 冒険者とは自由業だ。その代わり、命を失う危険性も伴う危険な仕事だ。

 代わりに一発当てれば食べるには困らない。

 ましてや冒険と言う探求心を追求するワードがゾクリと背筋を感化させると、コージーは自分の役目を考える。


「冒険者は危険が伴う。けれど成功すれば報酬もアップして、知名度も高まる。知名度があれば、それだけ実力が証明されて、より良い援助も受けられる。そうなれば、根幹に位置するバグにも手が届くはず……うん。俺らしい」


 コージーは体のバネを活かしてベッドから起き上がる。

 そうと決まれば明日から冒険者活動だ。

 一体何処にバグが潜んでいるのか、流石にプログラムのコードから推測するのは、広大過ぎて骨が折れる。それならNPC達に介入して、探すのが断然速かった。


「そうと決まれば武器の手入れだ。今ここにあるのは、〈蛇腹鋼刃〉と〈炙り鳥〉。この二つを活かすなら流石に戦闘は必須で……ん?」


 ふと腕を組んで考え毎に耽っていた。

 するとコージーはメッセージが届いていることに気が付いた。

 かなり一方的なメッセージらしく、ダイレクトに届いていた。


「この方式……まさか!?」


 コージーは身を引き締める思いになった。

 背筋を伸ばして直立すると、怖くなりながらメッセージを開く。

 するとそこにはコージーの想像通りの光景が広がっていた。


「姉ちゃんからだ。うわぁ、なにドヤされるんだろ」


 コージーは怪訝な顔を浮かべ、青白くなってしまった。

 ゴクリと喉を鳴らして重たい唾液が流れる。

 しかし見ない訳には行かない。そう思って、指先でそっと空を撫でた。



[コージー、そっちの様子はどう? なにか変わったことはあった?

 とか言わなくても、そろそろバグを見つけたんでしょ?

 きっと数は多いわよね。その対処に今から全部当たるのは無理だから、一つ一つ日を改めて潰す。きっと今日の所は一つって所よね? ……]



 まずはストレートパンチが一発。

 コージーはグサリとノックアウトしそうになるも、何とか仰け反りながら踏ん張る。

 正直、まだその段階にも入っていないとは言いだせず、苦悶の表情に支配された。



[とは言いつつも、まだ何にも掴めて無いんでしょ?

 なんとなく想像は付くけど、その世界の人達に絡まれて、上手いこと情報を当たろうとしているんでしょ?

 容易く想像が付くわね……]



 完全に見破られていた。

 コージーは空から見られているんじゃないかと錯覚するほどで、全身がヒヤリとしてならない。


 けれどそんな悪い想像は軽く打ち消して流してしまうと、首をブンブン横に振る。

 大まかには当たっている。確かに情報は無い。

 せめてヒントが欲しいと思いつつ、視線をさらに下げてみる。



[そう思って、こっちでも少し洗ってみたから。

 とりあえず全部で百近くはバグが揃っていて、コージーがいる近くにもバグの発生源があるみたいね。

 今日の所はそれを潰すこと。私からできることはこのくらいよ。

 なにかあったらすぐに強制ログアウトを使って戻って来なさい。

 バイト代のために命の危険に晒されるのは間違っているからね。

 ——心配性の姉より]



 メッセージはやはり一方的。

 しかもコージーの思惑など全てが見透かされている。

 いつものことに呆れると、コージーはヒヤヒヤした面持ちで仰向けに寝転がると、「はぁ」と溜息が大きく零れる。


「心配性の姉って、そんなに心配してないだろ、これってさ」


 コージーは悪態を付いてしまった。

 もちろん後で怒られるのは確定。

 恐怖心が苛む中、コージーはメッセージを改めて確認した。


「にしてもバグが百近くって……どんだけ凄いプログラムなんだよ。これ、本当に素人とか他企業が介入のために造ったのか? にわかには信じられないんだけどさ」


 とは言え今は信じるしかない。

 それ以上にこの状況を受け入れる術は無く、コージーは呆れてしまう。

 言葉を失うと、メッセージを消して目を閉じた。


「とりあえず姉ちゃんの言葉を信じるなら、近くにバグがあるってことで。後五日。連続ログインの限界まで潜って、そのバグを取り除くしかないか」


 コージーは目標が一つ定まった。

 自分が今できること。それを全うするため、心身を縛り上げると、疲れたので無理にでも眠ってしまうことにする。とりあえずこの世界の明日を見よう。話はそれからだと言わんばかりに、コージーは寝付いていた。

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