第12話 パーティーを組もう
このゲームの世界に来てから二日目。
一日がリアル時間の大体三十分に相当する。
コージーは軽く装備を整え、安宿の自室から一旦外に出ると、腕を伸ばして軽く体操をする。
「うーん、とりあえず一日を迎えたけど……結構良い陽射しだな」
「そうだね、太陽の陽射しって温かいよね」
「そうだな」
コージーは宿の外に出ると、一番太陽の陽射しが当たる場所に立つ。
この心地よい陽射しが心身の疲れを強制的に吹き飛ばす。
そんなイメージを以って慎むと、不意に隣に立つ少女に目が行く。
「で、ファインはなんでこんな所にいるんだ?」
そこに居たのは永遠の勇者ファイン。
装備を着込んではいないけれど、その凛とした態度は健在。
桃のような淡いピンク色のパジャマを着たまま軽くストレッチを始めると、大きな欠伸をしながらもそれなりに鍛えている柔肌の体を露わにした。
「ファイン、もう少し異性の前だってことを理解したらどうだ?」
「えっ!? もしかして私のこと……」
「その格好で異性に近付いて来るお前が悪い」
コージーは全く悪く無い。自他共に認められるほどだ。
けれどファインはコージーに指摘されて、顔色を真っ赤にする。
如何やら恥ずかしさのあまり赤面してしまったらしく、プルプルと震え出す。
「は、恥ずかしいよ」
「恥ずかしいって、自分から……」
とりあえず追及をしようとする。
けれど弱い者いじめは可哀そうで、ここは大人になったコージーが額を摘まむ。
見ないふりをしてそっぽを向くと、コージーは何事も無かったかのように、ファインと言葉を交わす。
「ファイン、どうして俺の横にわざわざ立ったんだよ?」
「そ、それは……その」
「まさか俺をパーティーに誘いに来たとか?」
「な、なんで分かるの!?」
なんでもなにも無かった。コージーは見え見えな思考に嘆きそうになる。
素直な勇者は凄く嬉しい。
変に強情な勇者よりも扱いが容易く、好感が持てた。
けれど流石に無警戒過ぎてファインのことが怖い。
逆に一番恐ろしいのではないかと、錯覚してしまいそうになる。
コージーはそんな折、言葉を選びながら、ファインに向き直る。
「俺をパーティーに誘わなくても、ファインは強いだろ? いや、マジで強くね?」
「そ、そんなことないよ!」
「そんなことあるって。正直レベル高すぎ」
「レベル?」
何故か話が噛み合わない。
もしかしなくてもNPCはレベル概念を知らない。
如何やら自分の強さに気が付けていないようで、これはそれでお粗末だった。
「それじゃあ言い方変えるけど、ファインは潜在的な能力値は高いだろ? だから俺とパーティーを組む必要はない。以上」
「以上じゃないよ! 私はコージー君とパーティーが組みたいの」
「何故? その心は何処に?」
「何故も心も無いよ。私とシャープさんが冒険者に仕立てちゃったから、その責任もあるでしょ?」
「うおぅ、せ、責任感の重責……日本人じゃん」
ファインの思考回路が見た目の割にかなり日本人だった。
もちろん人種や容姿を否定している訳じゃない。
単純に、ファインの人間性が露わになっていて、凄く怖かった。
正直、生き辛い子だなと憐れんでしまった。
「そ、その目は止めてよ!」
「そうしたいのはやまやまなんだけどさ」
「そ、それに他にも理由はあるんだよ! 私、コージー君と一緒に戦ってみたいの。だからお願い、少しの間でいいから!」
ファインはコージーに丁寧にお辞儀をした。
今にも土下座をする勢いで、コージーはゴクリ喉を鳴らす。
流石に、この状況を見過ごせはしない。
現代を生きる日本人的に、この状況を見過ごしたら罪悪感の塊にされそうだった。
「わ、分かった。分かったから」
「ほ、本当に良いの?」
「いいけど、こっちにも譲れないところはある。パーティーは組むけど、俺が全ての依頼に付き合うわけじゃない。ファインが俺の依頼に付いてくるのは構わないけど、報酬は半分まで。それでいい?」
「うん、いいよ! コージー君の邪魔はしないから。一緒に頑張ろうね!」
コージーはファインの明るさに太陽よりも眩しく感じた。
しかしその眩しさに飲まれてはいけない。
見落としがちだった言葉の一筋。コージーはちゃんと読み切っていた。
(なんでファインは俺の邪魔をしないなんて意味深な言葉……不気味だな)
もしかしてNPCじゃない?
コージーは何となく外部から操られているんじゃないかとばかり考えてしまう。
(まあいっか……考えたって仕方ない)
コージーは諦めの境地に立つ。
目をソッと瞑ると、仮初の笑顔を貼り付けた。
「俺もできることはやるよ。とりあえず、無理せずに頑張ろう」
「無理せずに頑張るって?」
「七割だけ頑張るってこと。正直痛い目は最近見たからな」
「コージー君って、一体なにやってるの?」
「さぁ? それは関係無いよ」
コージーはリアルのことをNPCに伏せた。
太陽の陽射しが眩しくて眩しすぎる。
このまま感情の嵐も消えればいいのにとザッと想像すると、コージーはファインとパーティーを組んだことをここに受け止めた。
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