第53話 ファインの告白

 病院を後にすると、コージーとファインはようやく解放された気がした。

 腕を天高く伸ばすと、ファインは吐露する。


「コージー君、疲れちゃったよね」

「そんなことはない」

「我慢しなくてもいいよ。あのね、コージー君、もう少しだけ付き合ってくれるかな?」

「ん?」


 コージーは別に構わなかった。

 どのみちこれが終われば帰るのだ。

 ログアウトする時間が数分ズレても困らなかった。


「別に構わないが?」

「そっか。それじゃあ、あそこ行こ!」

「あそこ? あの高台か?」


 ファインが指を指したのは、アメリア端にある高台。

 病院から出たらすぐに見えるので、パッと見で何処か分かる。


「なにかあるのか?」

「なにも無いけど、ちょっとだけね」

「……怪しいな」

「怪しくないよ。ちょっとだけ、ねっ?」


 フィアンはよほどコージーと一緒に行きたいらしい。

 理由はもちろん定かではない。

 コージーは神妙な顔をするが了承すると、ファインは薄っすらとした笑みを浮かべる。


「分かった、それならとっとと行くぞ」

「あっ、ちょっと待ってよ、コージー君」


 コージーはファインの先導を切った。

 するとファインは慌てて追いかけ隣を歩くと、スキップするみたいに歩き始めた。



「うーん、やっぱりこの場所は気持ちいいね!」

「そうか? 寒いだろ」


 高台の上は寒かった。

 それもそのはず、ビュービュー風が吹いているせいだ。

 全身を包み込んでくれるはずの優しい風は、体温を奪っていく。

 まるで、去り際を確認するかのようで、コージーはファインに呟こうとした。


「ファイン、俺はそろそろ……」

「私ね、嬉しかったんだ」

「はっ?」


 なんだこの雰囲気は、とコージーは思った。

 あまりにも出来過ぎたシチュエーション。

 まるで今から自分語りしますと言いたげで、コージーは表情を訝しめた。


「おい、ファイン、俺は……」

「前にも話したと思うけど、私はブレイン君とパーティーを組んでいて……」

「追放されたんだろ? 理不尽な理由で」

「ううん、それは違うと思うけど……でもそうだよね。私は追放されちゃった」


 何を今更な話しだった。

 コージーは更に表情を訝しめると、ファインは関係無く話しを進める。


「でも、追放された時、私泣いてたの。こんな理不尽は無いって感じで」

「ファインが愚痴ったのか?」

「私だって愚痴くらい言うよ。でもね、それでよかったと思うんだ」

「どういう意味だ?」

「世界は広いってことだよ」


 そう言うとファインは振り返る。

 にこやかな笑みをコージーにだけ見せると、腕を後ろで組んだ。


「私、コージー君とパーティーを組めてよかった」

「死亡フラグか?」

「私は死なないよ! そういう意味じゃなくて、コージー君みたいなことパーティーを組めてよかったって思ったの。私をちゃんと指摘して、軽蔑して、それでも付いて来てくれる子。私、嫌われたくないけど、コージー君は、ブレイン君達と違う意味で私を嫌うでしょ? だからみるべきところが違うんだなって思ったんだ」


 本当に今更な話をし始めた。

 コージーはそんなこと如何だって良かった。

 けれどファインがMなのかドMなのか、その論争には持ち込めそうだ。


「ファイン、お前ってM……」

「そんな話じゃないよ。私は真剣なんだよ。だからね、これだけ言わせて」

「ん?」

「コージー君、私とパーティーを組んでくれてありがとう。私、もっと強くなって、いつかコージー君に認めて貰えるようになるから」


 ファインは何故だかコージーにそう言った。

 全く理解ができない。

 そもそもが話、コージーはファインのことを、そんなフィルターに通してもおらず、ましてやベクトルで測ってもいなかった。


「馬鹿だな。強さなんて人によって違うだろ」

「それもそうだけど……」

「後、くだらない覚悟を取るな。バカを見るだけだ」

「コージー君、ズバリと言うね」


 今更咎めても仕方がない。

 コージーはファインのことをジト目で見ると、ファインはしょんぼりした顔をする。

 如何やら刺さったようで、コージーは申し訳なく思う。


「だが、ファインの強さは俺とは違う。それに、俺はお前のことを既に認めている」

「えっ!?」

「むしろ認める・認めないなどありはしないだろ」

「ど、どういうこと?」


 ファインは困惑した表情を見せた。

 するとコージーはファインに近付くと、高台の展望台に設置された木の柵に腕を預けた。


「ファインは強い。だけど俺の強さとは違う。ファインの本当の強さは、自分が弱いことを認めた上で、それでも誰かを守るために強くなろうと言う意思そのものだろ」

「!?」

「まあ、あくまでも俺個人の意見だ。どう捉えるかはファイン次第。まあ、捉え方の問題だな」


 コージーはファインのことを称える。

 もちろんそれだけファインが優れているからだ。

 諦めない姿勢、何処までも貪欲に強さを見出す振る舞い。

 どちらも素晴らしく、コージーはファインのことを見ていた。


「どうした?」

「……えっ、その、まさか、そんなに褒められるなんて、嬉しくて」

「当然だ。だが、その力も使い様だ。俺以外の奴とパーティーを組んでも頑張れよ」

「えっ? どういうこと」

「どうもなにも、俺はもうすぐここからいなくなる」

「ええっ!?」

「あれ、言ってなかったか?」

「聞いてないよ!」


 コージーは言ったつもりでいた。

 しかし言っても言わなくても変わりはしない。

 どのみち今日帰るのだ。今日帰る以上、この世界は変わる。

 記憶も、なにも、全ては歴史が修正することをコージーは知っているだけだった。

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