第48話 宴会には参加しない

「うえっ……辛かったな」


 コージーは宿に戻っていた。

 ベッドに上に横になると、グッタリして体が動かなくなる。

 と言うのも、アメリアに戻って来て早々、冒険者ギルドに連れ込まれ、事態の収拾を図った後、宴会騒ぎになっていた。


「酒臭……うわぁ、俺飲めないのにさ」


 コージーは未成年だ。

 それはゲームの中でも守らなくてはならず、NPCの宴会に巻き込まれるのは辛かった。

 上手く抜け出してはきたものの、全身に疲労が溜まると、項垂れる間もなく、倒れ込んでしまったのだ。


「ああ、とりあえず姉ちゃんには報告しとかないとな」


 コージーはメッセージウィンドウを開くと、姉へメッセージを送ることにした。

 もちろん黒馬騎士と言う強敵を討ち破ったからだ。

 その報告も兼ね、コージーはキーを打つ。



[姉ちゃん、バグモンは無事に倒したよ。

 一応この世界で起きていた問題は一つ消えたかな。

 正直疲れたから一旦戻るよ]



 俺は短めのメッセージを送ると、返信が返ることは無い。

 それもそのはず、すぐさまメッセージが返るなんてありえなかった。

 ベッドに仰向けになり、ボーッとしていると、アナウンスが聴こえた。


「嘘、もう来たの!?」


 俺はメッセージを再び確認すると、返信が返って来ていた。

 目を見開くと姉からで、俺は唖然とする。

 あまりにも早すぎるので逆に怖くなってしまった。



[そう、よくやったわ。

 コージーなら無事に解決できるとは思っていたけど、時間が掛かったわね]



 早速褒められると同時に貶されてしまった。

 グサリと突き刺さるものを感じると、俺は胸がキュッとなる。



[俺もかなり疲れたんだよ。

 正直相手はかなり強力なバグモンで、【竜化(鋼)】を使う程で、死ぬかと思った。

 もう少し褒めてくれてもいいよね?]



 コージーは姉に褒めて貰いたかった。

 そんなのは当たり前のことかもしれないが、姉はコージーよりも何倍も優秀だ。

 そのせいもあり、コージーは姉の尻に敷かれている。

 だからこそ、頑張ったのだから褒めて欲しい。


「とは言え、姉ちゃんが褒めてくれる訳……ないか」


 いつものことだから分かっていた。

 俺は落胆して肩を落とすと、すぐさま返信が返る。

 今日はやけに速い。そう思ったのも束の間、俺はメッセージを見て飛び起きた。



[よく頑張ったわね、鋼仁。流石私の弟ね]



「嘘だろ!? えっ、マジで……うわぁ」


 俺は口がぱっくり開いたまま閉じなくなってしまった。

 顎が外れたみたいな錯覚に陥ると、顔が固まって動かない。

 それだけ意外なことで、俺は冷静さを欠きそうになる。



[それと、出来るだけ早く戻って来て。

 今晩は揚げ物だから、時間の調整をしないとダメだからね。

 分かったなら、一旦離脱して。それじゃあ——親愛なる愚弟の姉より]



 姉からのメッセージは締めまで掛かれていた。

 もはやそれ以上メッセージが返ることは無い。

 コージーは上から下へと何度も読み重ね、再びベッドに横になる。


「ヤバいな、俺、相当な相手を倒したってことか……しゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」


 コージーは運動部が大会で優勝した張りに声を張り上げた。

 ガッツポーズを取ると、薄い壁にもかかわらずの大声量。

 しかし誰からも咎められることは無く、コージーは愉悦混じりになった。


「速く戻らないとダメだな。よし、今日中に切り上げるか」


 コージーはある程度の予定を決めた。

 本当はまだ時間はあるのだが、揚げ物となれば話は別だ。

 両親が帰ることは今日は無いので、姉の機嫌のためにも、出来ることなら早急だった。


「よし。そうと決まれば、今から外に出て……の前に、仮眠だな」


 コージーの体は疲れている。

 肉体的のも精神的のも限界で、瞼が重くなる。

 このまま眠ってしまうのが吉。コージーは深い眠りに意識が落ちる。


「お休み……な、さい」


 コージーは譫言のように呟くと、そのまま眠りに落ちてしまった。

 体がまるで動かない。

 相当バグモンとの戦闘で体が堪えているらしく、コージーはそれから昼過ぎまで眠りに付くのだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る