第48話 聖戦は幕開ける

 その日、人々は地上の星を見た。


 遠目から見ても輝くただ一つの光を。


 そして人々は祈った。何故なのか、理由は不明だがその光に希望をみいだして。


 星空から落ちたとされた一振の星光は、山脈の中で煌々と燦然と世界に光を届けていた。



 ◇◇◇



「……何故……だっ……何故見えぬ!!」


 妖姫モルガンは頭を掻きむしる。金色の褪せた髪の毛は、純然たる輝きを放っていた。しかしその瞳には既に絶望のようなものが蠢いていた。


「……アルトリウス無き今、この国の実権は我々のもの。なのに、何故消えないっ!……星の輝きが、この台地を照らす光がっ!」


 モルガンはひとつ計画を企てていた。この国をヴォーティガンが乗っ取った後、そこで蓄積した闇を振りまいてこの国の中心で聖剣エクスカリバーを闇に染め、そしてそれを用いてこの国の完全なる支配をすると言う。

 エクスカリバーは人々の心に宿った希望を利用する武器だ。それゆえ、その性質が完全に闇に染まることはほとんどない。


 そしてそれを闇に染めた時、一体何が起きるのか。絶対に闇に染まらぬ聖剣を闇に染めるという行為は、果たして何を巻き起こすのか。

 世界に飛び火するであろう混沌、秩序なき終わりの凱歌。


 それを心待ちにしているモルガンだった。しかしその計画はどうにも思うように行かなかったのだ。


 どれだけ人々に闇を押し付けても、のだ。

 そうしているうちに、自分の計画をヴォーティガンに知られてしまった。

 故に私は殺害をしたのだ。


 私は傍らで眠るように死ぬヴォーティガンの亡骸を見た。


「こいつに変わる王を早急に……っ!?」

「ははは……こりゃぁ面白いことになっているじゃぁないか?ン?──モルガンどの」

「……マーリンっ!なぜ貴様がここにいる!……お前は確か封印されていたはず」

「おいおい、私を誰だと思ってる?封印なんてちんけな物、さっさと解いていたさ。150年ほど前にね。……それよりも、人々の希望が消えないんだろう?」

「……ああ」


 苦い顔をすると、相対的にこの若々しくそして光り輝くマーリンと言う男の顔立ちが際立って閉まっている。

 ……チッ、やはり前の夫そっくりなのだけが許せんな。


「ならばぁ手を貸してやろう」

「ほぉ?何を手伝うと?」

「決まっているだろう?人々から希望を奪い去るのさ。……なぁにツテはあるんだよ、そう。!!」


 ◇◇◇◇



 飛びっきりのヤツ。そういったマーリンはとある猫に話しかけていた。


「……まぁそういうことだから、ぜひこの国を絶望に染め上げるのを手伝ってよね。キャスパリーグ?」

「なぜ我が手を貸すと思っているのだ?」

「はぁ?君が手を貸してくれない訳ないでしょ。だって君、?」


 沈黙が少しその空間に響く。


「──なるほど、分かった。であれば魔獣達を数千体ほど貸してやろう。まぁ楽しませろよ、我をな」


 そんなふうなやり取りが行われたあと、キャスパリーグの呼び出した魔獣はマーリンのものとなった。


 しかして。聖剣の国、その上空に巨大な魔法陣が展開された。

 そこには約9800体ほどの魔獣がひしめいている。

 雪崩るまであと少し。

 そんな状況に待ったをかけた存在がいた。


 それこそが、ネルラとアルトリウス達であった。

 その傍らには、たくさんの希望を抱いた民が武器を構えて付き従っている。


 一体なぜ、どのようにしてこれだけの人間を集めたのか。そう思う事もあったマーリンと、モルガン。


 そうして火蓋は切って落とされた。


 ◇◇◇



 わずか数日間で人々を集めたネルラ。どうやってそれだけの人々を従えたのか。そこには、ほんの僅かでありながら、途方もなく大きな冒険譚が隠されていたのであった。









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