第21話 魔剣【ルクス・ヒストリア】②
あの日の主様は、ただひたすらに可哀想でした。
街の人に見放され、ギルドの冒険者には冷たく接されて……。
挙句ロブタとか言うゴミ野郎……あぁ今でも思い出すだけで腸が煮えくり返って仕方ないです。
私はご主人様に話す口が震えた。手から汗が滲み出る。何とか自分を律しようとするけれど、ロブタとか言うゴミくず野郎に対する怒りから、しばらく言葉を紡げなかった。
「──ルクス?だ、大丈夫?無理しなくても」
ああ、ご主人様。貴方はお優しい、けれど私は大丈夫です、私は強いので。
ただ、ご主人様をあんなに瀕死の重症に追いやったあのロブタとか行くクソゴミくず馬糞以下のゲロ野郎に私の怒りが収まらないだけなのですから。
私はゆっくりと深呼吸をして、ネルラ様の吐いた息をじっくりと味わってから再び話し始める。
◇
あの日、ネルラ様は破滅の魔剣による破滅の運命を押し付けられてしまいました。
あの炎のような闇はディアゴスティードというロブタ(クソゴミゲロ以下の雑草、救いのない哀れなボケナス風情)の魔剣でしょう。それの攻撃を受けてご主人様はその身体を完全に……とまでは行きませんでしたが、殆ど破壊されてしまったのです。
そしてそのままはるか彼方まで吹き飛ばされ、そして滝つぼに落下したのです。
……それでも、ネルラ様は私を決して離さなかったのです。あれば愛によるものだと、私は思っています!──エヘヘ。
その後ご主人様は地下水脈を通って、岩に何度も当たりながらやがて地下の地下。この世界の中で最も美しく冷たい源水の中を流されていきました。
……最終的に、何処かの洞窟にご主人様は流れ着きました。そしてそのままずっと眠っていたのです。
……ただひとつだけ。私を貴方様は決して離さなかったのです。
その時、私は自分がどれだけご主人様に愛されているのかを深く感じました。そしてその瞬間、私に魔神としての権能、女神の力が宿ったのです。
私はすぐに自分の身体を作りました。そしてネルラ様の優しく、逞しい腕に手を絡めて何日も私は傍にい続けました。
そしたらある日、神聖剣であるケイオスさんが追いかけてきて、こう言ったのです。
「早くしないと、この子死ぬわよ?……今から言う素材を取りに行って、ご飯を食べさせてあげなければ人間は死んじゃうのよ?」
と。私はすぐにネルラ様の為にご飯を作り、ゆっくりと食べさせました。その時の反応はとっても、とっっっっっても可愛らしくて、私はネルラ様をより深く感じることが出来ました!!
ああ、こうして私は貴方様をお世話するために生まれてきたのだなぁと。思ったのです。
「そして先程、ネルラ様は目を覚ましました。……あの瞬間に私がどれだけ嬉しかったか、ネルラ様に直接その感情をぶつけられなかったのは、残念ではあります。けれど私はそれでも、貴方様が幸せに生きていてくれるだけで……幸せなのですから!!」
「……」
「そういうことで、私はネルラ様の魔剣であるルクス・ヒストリアとしてここにいるわけです!!ご清聴ありがとうございます、私の愛しのご主人様!!」
◇◇◇◇◇
「…………そ、そっかぁ。助けてくれたんだね、う、うん。あ、ありがとう……でいいのかな?これって……」
そう言いながら、俺は内心でものすごく叫んだ。
「(愛が重い重すぎるッッッッッだろッ!!!!何、俺知らないうちに魔剣にそんな感情抱かれてたの?!え、嘘待って俺の対応が全部裏目に出てないこれ?魔剣にこんな感情抱かれるの怖すぎるって、いや別に可愛い子にそんな感情抱かれるのもそこまで悪くは無いよ?むしろご褒美ですありがとうございます!って感じだよ?でもさ?魔剣だよ、魔剣!!……言っとくけどここまでの一年間、魔剣をフルシカトし続けてた理由ってあれだからね?魔剣を握ったらその瞬間、破滅フラグが建つ可能性があったからだよ?それを避けるための行動だったのに、何、新たな魔剣を生み出すきっかけになっちゃったってコト?!……しかもなんかこの子、めっちゃ俺の事好き好きラブラブって感じだから余計になんか捨てるとか出来ねぇし!!あ終わった終わったよ俺は。どうやらここまでだよ全く早かったねぇ俺の破滅フラグ。まさか全てが裏目に出て最後に総決算してくるとは思わなかったよ?……ん、俺なんか前世で悪いことした?ねぇ、誰か教えてついでに助けて!!!)」
そんな俺の必死な心の感情に、ルクスは気がつくことなく抱きつく。
「お似合いね、やっぱり。……あ、でも私もせっかくだから腕に巻きついちゃおっかしら?」
「それは是非っ!……じゃなくて!……あの、貴方はちなみに何なのでしょうか?神聖剣?って事しか……」
「あら?私はあれよ?……貴方が魔剣365本フル無視したから、枠が余ったのでせっかくだし〜って感じで興味を持って着いていくことにしただけのただの神聖剣よ?……まあちなみに神聖剣ってのは、神剣と聖剣の合体した姿だからね」
「……魔剣じゃないのか」
「えぇ、だからといって貴方私を使おうなどと思わない事ね。私をもしあなたが抜いたのならば……」
「ならば……?」
「肉体は爆散、魂は木っ端微塵、そして輪廻転生の輪からの永久追放ってところかしらね?……まあ今はの話だけどね」
今は、か。俺はそれが何を意味しているのかはよく分からなかったが、それでも。
……どう考えてもこっちの剣も破滅フラグビンビンじゃないですか終わりましたね、俺。
◇◇◇◇
「……で、そういえばここって何処なんですかね?」
俺はふと、二人、いや二本?に尋ねる。すると帰ってきた答えは……。
「「イングリシア大陸の端っこ、そしてホルグレイシア大陸との交易をしている港町の洞窟」」
との事だった。
その時俺は知らなかった。ネルラという少年の物語は、魔剣の国では無く聖剣の国でこそ輝くという事に。
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