第20話 魔剣【ルクス・ヒストリア】①
魔剣【ルクス・ヒストリア】は元々ただの剣であった。
ルクスは名も無きただの剣であり、ネルラの父親が自分で打って作ったただのただの凡夫な平凡な、普遍的なだけの剣である。
それをネルラの母親が鞘を作って柄を装飾して、我が子を思って優しく祝福を与えながら作っただけの、ただの剣でも有る。
そうして母親と父親からの愛をたっぷりと受けた剣は、売り飛ばされる予定だったネルラにこっそりと忍ばせられていた。
どう言った原理かは分からないが、この剣を拾った奴らは誰一人として疑問に思わず、むしろこれを何故かネルラに持たせたという。
構って貰うことが少なかったネルラは、この剣をおもちゃにして大きく成長を遂げて行ったのである。
そうしてある程度の月日が流れた。ネルラは6歳頃からこの剣を使って剣術を極め始めて、時折夜になると近くの森にこっそりと忍び込み、魔物をぶった斬りまくっていたと言う。
そうして魔物を斬り続けたただの剣は、少しづつその性質を魔剣に近ずけて行ったとの事。
だがただの剣であるルクスは魔物を何度も斬る度にひび割れ、一部分が欠けてしまうことがあった。
その時、ルクスが見たのはとてつもなく悲しそうに謝るネルラの姿だったという。
「──私が弱いから、私が魔物を斬った程度でボロボロになる弱い剣だったからこんなにこの人は悲しんでいるんだ」
ルクスはそう思った。そして何とかしてこの悲しそうなネルラという少年に笑顔になってもらいたい、そう思うようになった。
だから何とかして直した周囲の魔力、魔物を倒した時に発生する魔力を……必死に吸い込んだのだ。
それはルクスにとって過ぎたる事であり、それ故に何度も何度も余計にひび割れてしまった。
だがルクスは諦めなかった。絶対に主に笑っていて欲しい、その一心でルクスは自分に魔物や斬った魔力を取り込んで修復しようとし続けた。
やがていつからか、ルクスには【修復】の力が芽吹いていた。
それは紛れもなく魔剣として成った証拠である。
【修復】の持つ権能は凄まじく、壊れて欠けた場所は次々と修繕修復されて補強までされていく。それだけではなく、なんと持ち手であるネルラにすらその効力は及び始めていた。
ある日ネルラは巨大な鷹の魔物と戦っていた。何とか撃退したネルラだったが、既に両腕が使い物にならないほどに怪我していた。
その時のネルラの顔を見て、ルクスは。
「直さなければ。直して、もっと強く強く打ち直さなければ、継ぎ直さなければ、修複しなければ!!」
そう思った。そしてその日から、ルクスは【修復】と【強化】を同時に行うことができるようになった。
ルクスの効果により、ネルラは自分の肉体が壊れる度にその時よりより強く補強されて修復されるようになっていったのだ。
やがてしばらくして、魔剣降臨の儀が近ずいたある日。
ご主人様の中が変化した。なんとも不思議なことに、前までのご主人様とは全く事なる人物に変質してしまったのだ。
だがそのご主人様は、とても面白かった。
やがてすぐにわかった。彼はちゃんとネルラ様だと。
そんなご主人様は本来魔剣を貰う予定だったのだろう。魔剣降臨の儀式の際、そんな運命がずっとご主人様にこびりついていたから。
もしそうなれば、私という贋作の魔剣は捨てられてしまうだろう。
──嫌だ、ここまでずっと一緒にいたのに……こんな所で捨てられるなんて!
私はそう思った、けれど運命は絶対にご主人様を連れ去ってしまう。そう私は悲観しながら眺めることしか出来なかった。
でも何故か貰ってこなかった。そしてそれをご主人様は喜んでいた。
──きっと私という魔剣を捨てないで良くなった事に、喜んでいたのだろう!
その後ご主人様は村を追い出され、ダンジョンで小銭を稼ぐ毎日が続いた。そして毎日新たな魔剣が現れるという不可思議な現象に私は驚いた。
魔剣達はどれも魅力的で、自分なんかより圧倒的に凄まじい性能のものばかり。
私なんか結局ただの贋作だと思い知らされた。
けれど何故かご主人様はその魔剣を投げ捨て、帰ってきたのだ。
──きっと私を魔剣だと知っていて、そして自分の魔剣は
私はそう考えた。途端、心の奥底でどくんどくんと何かが揺れる音がした。それはなんだったのだろうか。
次の日も、また次の日もずっと朝になると魔剣が置かれていた。しかしそれをご主人様は見つける度にどこかに持っていき、満足そうに帰ってくる。
その顔を見る度に私は……自分の為にご主人様は捨ててくれているのだ。そう思えて仕方がなかった。
けれど魔剣は、どんどんと数を増やして行く。日に日に自分よりも素晴らしい魔剣を手に取ってしまうのではないか?そんなふうに私は怯え続けた。
けれどご主人様はどんなに素晴らしい魔剣であっても、一切興味を持たず、そのまま捨てて帰るのだ。
ある日、魔剣が二本現れた日に、ご主人様は雷に打たれた。魔法使いとか言う奴らにご主人様が襲われてしまったのだ。私は必死にご主人様を修復した。
そしたらあろう事か埋め始めたのだ。慌てて埋めている土の方に私は紛れ込むことに成功した。
そして私を利用して、ご主人様は土を跳ね飛ばして魔法使いを怒ってくださった。私の代わりにありがとうございます。そんな気持ちでいっぱいだった。
だからこそ、私は自分が剣の姿である事にずっと辛いものを抱えていた。
ご主人様ははっきり言ってとても強い。だけどどこか抜けており、どこか完璧では無いと言えるだろう。
そんなご主人様を私は助けたい。その手を握って導いて差し上げたい。
そんな感情がずっと体の中で渦巻いていた。
それでも私に出来ることは、毎日ゴーレムを狩る度にその魔力を少しづつ蓄積させていくことだけ。
「──早くご主人様を助けれる人型になりたいなぁ」
私はずっとそう思っていた。
◇◇◇
しばらくしたら魔剣がついにご主人様の手で捨てきれないほどに増えてしまった。私はご主人様が諦めて寝るのを見て、ご主人様に何をしてくれるんだ!と言う感覚が芽生えた。
なので片っ端から壊して行く事にした。魔剣を壊せるのは魔剣だけ。
でも私は壊れる度に修復される。だから何度でも何度でも蘇る。
私はぐっすりと眠るご主人様を起こさないように、ひとつひとつ丁寧に壊した。
そんな作業をしばらくしていると、ついに魔剣は全て来なくなった。
……代わりに、神聖剣という次元の違う剣が来た。
そしてそれを見て、私は初めて勝てない。壊せない、と思ってしまった。
私はもう用済みなのだろうか。私はそう思って仕方が無かった。
けれどご主人様はその神聖剣にすら興味を示さなかったでは無いか。
──ああ、それ程までに貴方様は私のことを愛してくださっているのですね。
私は体の奥で、何かが震えているのに気がついた。それはなんとも言えない、感情の渦であった。
……そしてご主人様がピンチになったあの日に続きます。
◇◇
ここまでの話を聞かされた、ネルラはただ一つ呟いた。
「待って、そんなことになってたの?!」
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