第22話 騎士との邂逅
「うーん、ここにも居ないかぁ。はぁ……」
一人の騎士風の男がぼやく。彼は白銀の鎧に金の装飾をあしらった剣を腰に吊るして街を彷徨いていた。兜は暑かったのですぐに脱ぎ捨てて片手にぶら下げてある。
「ガウェイン卿、ここにいらっしゃったのですね。……しかしやはり無理なのでは」
近寄り難い雰囲気を醸し出すガウェインと言う男の横に、暑苦しい格好の女騎士が並ぶ。
ここは港町だ。そして本日の天気は晴天。白銀に緑色の線が入った鎧を着た金髪の女性は、汗を拭いながら尋ねる。
「シャルル卿、何を今更、元々他の国で聖剣使いを探すなどという無茶ぶり……全く聖杯探索の方がよっぽどやりがいがあったと言うのに……待っ……なぜ私の顔をつつくのですか?」
シャルルと呼ばれた女騎士は、ガウェインの顔を呆れながらつつく。
「君は働きすぎだから、少しは休めって言うお偉いさん達の計らいなんだがねぇ。……君は気が付かないのかい?」
「?私はまだ今月130時間しか働いて居ませんが?」
素っ頓狂な事をガウェインは大したこと無さそうにつぶやく。それに対しシャルルは「働き過ぎだ馬鹿野郎が!死にたいんか貴様ッ!」とぶっ叩く。
ガウェイン卿は叩かれた事に少し驚きつつも
「お返しです、くらいなさい。ぜりやぁ!!」
返礼として本気で拳を振り下ろそうとした。そしてその直前に、見つけた。
「────シャルル殿、あれって……」
いまさっき叩かれそうになって、若干ビクビクしていたシャルルはすぐにそちらの方を見る。
「───?!あれは……まさか聖剣使いだとッ!……すぐに行くぞ、ガウェイン殿!」
そうして、騎士たちは一人の男に向かって走っていくのであった。
◇◇◇◇
───数刻ほど前の事。
ネルラは近くの港町、ダーリ港に赴いていた。目的はただひとつ、ご飯を食べることであった。
「ネルラ様と一緒にご飯を食べに行けるなんて、夢見たいです!!私幸せです!!」
元気なルクスを連れて、俺は洞窟を出て真っ直ぐ港まで向かったのだ。
ちなみにケイオスは剣モードになっている。理由は確か───、
「あら、私は今は抜けないのよ。だから聖剣風のカモフラージュだけして寝ているわね。……ふふ、困った時は助けてあげるわよ?もちろん。……それじゃあお休み〜〜」
との事。まあのんびりしている内は破滅フラグとか発生しないだろうしまあいっか。俺はそうやって安直に考えていた。
そして俺は洞窟の外に出たのだが───、
「海だねぇ……」
「あ、あれが海なのですね!!?でっかい湖みたいな感じですか?」
「──まあ違うかな。もしあれが俺の知っている海ならば……ね」
そう、この世界に海がある事はゲーム内でも明かされてはいた。
実際海の食材とか海にまつわる剣とかあったからね。
そしてそれらのテキストやらから読み解くに、あれは俺が元々いた日本の海に近いものだという事がわかる。
──ただし、海の生き物の代わりに海獣と呼ばれる大型の魔物が居ることを除けば。の話だが。
【水難魔剣】バミューダと呼ばれる武器がある。これは水難事故が多発するとされる海の難所、バミューダ・オクタグラムと呼ばれる海域で見つかった魔剣らしい。
ちなみにこれは人1人で扱える物ではなく、故に誰も使えない魔剣として展示されているという設定だ。
そしてそのバミューダ・オクタグラムと言う場所には、海獣と呼ばれる大型の魚型の魔物たちが闊歩しているとゲーム内のテキストで語られていた。
ちなみに今いるダーリ港はゲームでは行くことが出来ない場所である。
ゲームの都合上、海を作るのが面倒くさくなったのか、はたまた外にある国に行って欲しくなかったからかは分からないが、何故かダーリ港の近くにある境界線からプレイヤーは進めないようになっていたのだ。
故に俺はここを完全に未知の場所として楽しんでいるということだ。
「ネルラ様、そういえばお金って持ってきていますか?」
唐突にルクスが尋ねてくる。俺は勿論!!と言おうとして、ふと気がついた。
「……財布と言うか、金貨を入れた袋が無いね」
どうやら俺が流される間に金貨袋、そしてギルドカードを紛失してしまったようだ。
ギルドカードはそうそうなことでも無ければ壊れることは無いし、すぐに手元に戻って来るはずだ。
それが戻って来ないということは、つまり──、
「ネルラ様と私は今、一文無しって事ですね」
そういうことになる。ちなみに多分だがギルドカードは流される途中で岩にぶつかった拍子にでもぶっ壊れたのだろう。まあどうせ安物のギルドカードだ、壊れても気にしないさ。
「さて、どうするか」
俺はひとまず日が暮れる前にダーリ港に着いてから、色々と考えることにする。結局野営とかが一番面倒臭いしな。
◇◇◇
「ここが……ダーリ港……広いな思ってたよりもはるかに」
俺の目の前に広がっていたのは、巨大な港町だった。あたり一面から魚の生臭い匂いと、威勢のいい掛け声が聞こえてくる。
ふと、前世で立ち寄った築地市場を思い出した。
多分あの街のどこかで今日も競りとかが行われているんだろうな。そう思いながら俺たちはダーリの街に足を踏み入れるの───、
そこで俺は突然二人の騎士に囲まれるのであった。
◇◇◇
「ちょっと良いかな?君」
「ああ、抵抗しないでくれ。別に君を殺したりするわけじゃない。──多分な」
いきなり職質?!と俺は思いながら、二人の騎士を見る。
武装は剣一本のみ。だがその一本の剣からは何やらやばそうな匂いが溢れ出ているじゃんか。
やべぇってあれ、どう考えても魔剣とかそれに似た類だろ!
俺はなるべく近くにいるようにと、ルクスを手繰り寄せる。
「ひゃぁ!?……ね、ネルラ様っ!……は、恥ずかしいですぅ!」
なんか悶えていたが、俺は目を離したらぶち殺されそうな予感がしたのでそっちを無視する。
すると暫く黙っていた騎士の一人、多分女だろうか?
そいつが俺の手をがっちりと握った。
そしてそのまま"ふん!"と俺の手を握りつぶした。
「な、何ですか?!……あ、あの?その……ちょっと痛……痛ッッッッッだぁぁぁぁあ!?!」
俺は咄嗟の痛みに倒れかけるが、すぐに体が再生していることに気がついた。そしたらそれを見た瞬間、女騎士が今度は俺の左足をへし折った。
「─────ッッッッッ!!!」
悶絶する俺。その様子を見た隣の騎士が、少し何かを考えたあと───兜を脱いだ。
「君、名前はなんというのかな?ちなみ僕はガウェイン。他の騎士からはガウェイン卿と呼ばれているよ?」
──どう考えても、今聞くなよ。そんな風に隣の女騎士が言った気がした。だがガウェイン卿はガン無視して尋ねてくる。
「君の名前は?ちなみになぜ今?と思った君にアドバイスだ。──私は次に君の喉を潰す予定だからな。早くしたまえ」
その瞳は狂気を帯びており、それ故に俺はすぐに自分の名前を答えた。
「クウネル・ネルラと言います……元々出身は──」
「私は別に君の出自を聞いていたい訳じゃない。さて、端的に言おうか。───君を今から聖剣使いとしてホルグレイシアに連行する。もちろん拒否権はある、だから君の拒否権を潰すために足と腕を壊した」
そう淡々と言い切るのであった。
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