第14話 何も無かった、良いね?

「……ぞ……」

「ぞ?」

「ゾンビぃいい!!助けて、助けてユイちゃぁぁぁぁんんんん!!」

「お、おちおち……ひ、ひゃぁぁぁぁぁぁぁぁ、来ないでくださいいい!!」


「あ、あの〜?えっと俺記憶が曖昧なんですけど……(本当は全部知ってるけど)確か雷をそこの魔法つか……」


 きらり、魔法使いの瞳に殺意が走る。


「……なんだ、バレちゃったか。じゃあもう殺すしか無いね」


 そんな逆ギレにも近しいそれで、魔法使いはキレた。

「ええ、そうしましょう。こいつを殺せばバレないですから……バレなきゃ犯罪じゃないんですからね!」

 止めるはずの役目をになっていたはずの隣の黒髪の女もまた、同じような瞳の色をしていた。


 そしてあまりの変わりように俺はただ一人置いてきぼりにされたのであった。


 ◇◇◇


 ただ奇妙なことに、俺はどうやら魔法を打ち込まれても大して痛くないし死ぬ事がないというのが今回分かった。

 実際初撃は痛かったけど、二発目三発目は全く痛くなかった。

 なんかネルラ君の肉体やばい気がするんだが、気のせいじゃないよね?


 まあそんな訳で俺は二人の魔法を受け続けた。半狂乱に魔法を打ち込んでくる二人に大して、俺はリアクションをすべきかどうかで悩む程度であった。


 なんというか、必死な顔って本当に死にそうな顔なんだなぁって(小並感)。目は血走り、鼻は興奮からか膨れ上がって。

 杖を握る手には青筋の血管まで浮き出ていた。


 ……可愛らしい顔してるのに、なんで俺にわざわざ魔法をぶち込んでくるんだろうかこの二人。

 ん〜、これはあれだ、自分を正当化しようとする本能の暴走みたいなやつだろう!多分。


 ◇


 やがて魔力が尽きてしまったのか、二人の女はその場にへたり込む。


「はぁ……、はぁ……くそっ、化け物が……はぁ……」

「ぜぇ……早く逃げ……はぁ……くぅ……」


 精根尽き果て、まるでなんか巨大な魔物かなにかと戦ってるような状況だけどただの村人……まあ今は村人じゃないか。

 ……ニート?ん〜違うか、一応魔物は狩ってるし……じゃあ冒険者だな。

 ───新人冒険者に魔法を勝手にぶち込んでただけなんだよなぁ。


「あのー、いきなり何をするのでしょうか?さっきから喋る暇すら与えてくれませんでしたけど」


 俺はとりあえず彼女達に話しかける。……ってか俺まともに女性に話しかけるのとか高校の時ぶりじゃね?

 うわそう思ったら途端に緊張してきんだけどぉ?……えあ〜ジーナが居るって?

 ふむふむ、ネルラ君俺ジーナと全く関わりないから知らない記憶になってるぜ?


 と、とりあえず。俺はなるべくかっこよい笑顔を作ろうと必死になりながら二人に近づく。


「……ひ、ひいっ!い、命だけはっ!」

「そ、そうですよ!食べるなら殺すならこっちの殺りやすそうなメスガキから!」

「……ちょ?!先生っ?!貴女最低ですぅ!」

「黙れぇ!私はこんなところで死ねんのだよぉ!」


 あ、あの〜?


「───アンタそれでも大魔法使いかよぉ!?」

「黙れよぉ!せめてここでぐらい役に立」

「全部アンタのせいだろうがこのポンコツ魔法使いぃぃ!!どこが大魔法使いだよ!?背もちんちくりんだしぃ!」

「な、なな!?背は関係無いだろうが!と言うか私はまだ14歳なんです!ここから伸びますし!」

「はっ、どうだか!……少なくともその慎ましい胸だけは膨れることは無いでしょうね!」

「おっとぉ、ライン越えだぞユイくん。君は後でぶちのめす、覚悟したまえよ?」

「あ?やるんですか?魔力以外何一つ私に勝ててないアンタが?」

「よぉし、よく言ったぞ。ぶちのめすじゃなくてぶち殺す」


 なんかよく分からないけど勝手に殴り合いを始めたんですが?

 さっきまでの震える人はどこに行ったのやら。


「はぁ……」


 俺は呆れの意味を込めてため息を吐き出すと、近くの湖まで歩いていき……その水を桶(普段からここで水浴びするから置いてるやつ)に水を入れると……。


「おらぁ!落ち着けやアンタら!!」


 全力で水をぶっかける。ヒートアップし過ぎた空間には水はよく効くだろう?


「ぶふぅ?!……な、何するんですか!アンタ!!」

「み、水浸し……傘もってきた意味が……」


 俺は二人の前に立つと「アンタら人に魔法ぶち込んだり殺せば……だの何だの好き勝手しやがって!……あんたらのことギルドに報告させてもらうからな!覚悟の準備はよろしいですか!……」


 と、脅し気味に問いただす。

 と言うかあまりに自分勝手すぎるんだよなこの人ら。


「?!や、やって見やがれ!あたしたちの名前を知らないくせに!」

「そーですそーです!私たちの名前がわからなけ」

「【大魔法使いリアン・ルフ】【炎の巫女カグラ・ユイ】……だろ」


「「?!な、なぜ知ってる!!?」」


 まるでストーカーを見るような目で見られたけど、そもそもあんたらが勝手に自分の名前をペラペラペラペラ喋ってたせいだろが!

 ……まあ二つ名に関しては原作知識によるものだ。


 と言うかこんな序盤に出会えると思わなかったよマジで。


 俺は原作における二人のことを呆れながら思い出していた。


 ◇◇


【大魔法使い リアン・ルフ】

 その名は高き大魔法使い。ただしゲーム内では大魔法使いの名で呼ばれることは無い。

 何故ならば、として出てくるからだ。

 最初から闇堕ち状態で現れるため、彼女が大魔法使いだと気がつく人はあんまりにいなかったはず。


 ちなみに闇堕ち時の名前は【深淵ノ魔法使い リアン・ルフ】

 深淵の魔法使いとかいう厨2ネームなので、攻略サイトとかでは……。


〈あまりにも厨2すぎる女〉〈半分焼け爛れた女(二つ名も含めて)〉〈絶妙にモーションがダサい〉〈床に石があったらずっこけるから狩りやすい〉〈割と終盤に出てくる癖に大して強くないヒト〉


 まあ散々である。ちなみになぜ半分焼け爛れていると言われているのかと言うと、闇堕ち時には体の半分が文字通り融解しており……そこを金属の防具で隠していると言う設定のためだね。

 勿論そこ弱点ね。


 それが……こんな良くも悪くも普通……普通かなぁ?人に向かって魔法ぶっぱなしたり、殺してしまおう発言だったり、弟子と喧嘩を始めるあたり……本当に大魔法使いなのかな?

 疑問が浮かび上がるが、まあそれはさておき。


 もう片方の黒髪の女を見る。


 ◇◇


【炎の巫女カグラ・ユイ】


 彼女もまた原作において登場するキャラクターだ。ちなみにとして登場する。


 彼女は【焼き巫女の扇】と呼ばれるアイテムになっていた(呪いのせいで)はず。確かそれを使って手に入れられる魔剣があったはず。


 ちなみにアイテムを使うと、彼女は燃え尽きて死にます。いや救いはないんか?


 その後終盤に【炎の巫女竜カグラ・ユイ】として登場するんだけど、その見た目が竜になってるせいで討伐対象何だよね。


 だからはっきり言って人型だったことに驚きだよ。


 ◇◇


「………私たちは悪くないです」

「ん!」

「そうかぁ、まあ俺も悪かったと思ってる。……実際俺が早くに弁明しに行けばこんなことにはならなかったと思うしな」

「なら!」

「だがなぁ、せめて人か人じゃないかの確認ぐらいはしろよ!!誰だ名乗れぐらい言ってくれよ!」


 いやほんとそれなのよ。なんでこいつノールックノータイムで魔法を使ってくんだよほんとに!


「はい……すみませんでした」

「そうですよ!師匠は反省してください! 」

「……あんたもだよ、アンタも!……人を殺しちゃえば発言とか……そもそもあんたも止めろよ!」


「はぃ……」


 二人はどうやらわかってくれたようだ。まあここまで散々魔法ぶち込まれたあとなので、何も言えないし何も出来ないってことなんでしょうけどね。


 ◇


 こうして俺は2人の人間をギルドまで送り届けた。道中、「貴方を埋めたことについては……怒っていないのですか?」

 とか「なんで君は死なないんだ!?教えてくれ!」

 とか尋ねられたが、まあ前者については……。


「俺たちは何も無かった。俺があんたらに魔法を打ち込まれたことは無かったし、あんたらも何も見なかった……そういうことで手を打とうじゃないか?」

 と言うことで俺と2人は【誓約】を結び、他言無用にすることにしたわけだ。


 後者の質問は「知らない、興味が無いから」と伝えた。まあ納得は言ってなかったが、にっこりと俺が笑うと冷や汗をかきながら「そうだよね」と言っていた。


 ◇◇◇



 ダンジョンに戻る途中で、雨が上がっていることに気が付き……俺は水浴びをして帰ることにした。


 ……そういえば、魔剣……適当に投げたけど大丈夫だよね?

 それに俺の服……あんだけ魔法ぶち込まれても傷一つついて無いけど……怖ぁ。














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