第15話 一年後(11歳)

 ……そして一年が過ぎた。


 え、急じゃんって?……まあそれはそう。と言うか語る事が多いからこそ、あえてね。


 ◇◇


 俺は一年前と比べてほんのり身長が増えた。まあまだ11歳だからねぇ、それこそ前世なら小学五年生だよ?まあそんなでかくなる事は無いさ。


 そしてそばかすも増えた。まあ多分食生活があんまりよろしく無かったからだろうね。

 ……仕方ないじゃないすか。日々小銭を稼いでは少しの肉を齧って…それで過ごしてきたんすから。


 一年前より俺が成長したのは何処かと言えば、まあ筋肉は少しだけ…いや少しでは無いか、がっつりとついたね。そりゃーもう、バッキバキの肉体よ。


 あとは剣の腕もみるみる上達したと……思いたいかな。結局比較対象が冒険者とかばかりで、そいつらの剣を見ると遅すぎて話にならないんだよなぁ。


 だからたまに魔物にちょっかいを出して、ある程度ボコってから逃げる。を繰り返していたよ。

 ちなみにまだ魔物の血を見るのは怖い。だって思ってるよりかなり豪快に吹き出てくるんだよ?!

 しかも苦しそうな瞳でこっちみてくるし……。


 はいはいその通りです。俺は魔物が怖くて魔物狩りをあんまりしてないんです。

 そりゃーもちろん冒険者ギルドからの評価も下がるわけで……。


「……ネルラ、君はまだ魔物をろくに狩っていないじゃないか。早く魔物を倒して持ってくるべきだと私達は思うのだが」


 みたいなことを言われたりしたよ。ギルドのお姉さんのあの冷たい表情、ほんとに苦しかった。


 それだけじゃなくて、俺が魔物を狩らないとわかってから次々とからかう冒険者が現れたんだよねぇ。

 それこそ


 ◇◇◇◇◇


「おやおやぁ、誰かと思ったらネルラじゃあ無いか?君はこんなところで細々とやっているのかい?」


 俺が冒険者ギルドの酒場で久しぶりに奮発してご飯を食べようとしていると、後ろからそんな風に声をかけられた。

 誰かと思って顔を見ると、まさかのだった。

 アッシュ君はあれだよ、村にいた3人の魔剣貰った内の一人……金髪碧眼のイケメンね。


 彼は俺よりもさらに身長が伸び、そのうえで少しだけ生意気な感じに成長していた。

 ただ俺はコイツがこんなに不遜な男になっていることに一番驚いていた。


 ネルラ君自体の記憶によると、困っている人がいたら自分を省みずに走って助けに行く男。

 との事だし、実際俺のアッシュに対する原作知識もまさに【勇者】っていう感じの男だったはずなのに。


 今アッシュは、俺を見てにやにや笑いながら、ポケットに手を突っ込んで見下ろしてきている。


「聞いたぜ?お前魔物倒してねぇんだってな?……まあ魔剣を貰えないとしても、魔物なんて簡単に倒せるとばかり思っていたんだけどね?……君はどうやら僕が思っていたよりもはるかに小物だったって事かな」


 口調は丁寧だが、言葉の端々に棘を感じた。俺は愛想笑いをしながら、再び体を縮こませる。

 なんというか、前世の頃自分にちょっかいをかけてきたヤンキーみたいな感じになっちゃったアッシュを見て、俺はなるべく関わりたくないと言う気持ちでいっぱいだった。


「あ!アッシュ〜どこいって……あら?この人……」

「遅せぇよ、ジーナ!……ああこいつは」

「まさかネルラ?……あんたそんなに縮こまっちゃってどうしたの?」


 現れたのはジーナ。しかし言われなければジーナだと気がつけない程に様変わりしていた。

 まず、とても化粧をしている。アイシャドウから口紅、まつ毛まで揃えてある。

 オシャレな服……それもアッシュとお揃いの服を着ていたので、さながらアッシュとデートの最中のような感じにすら思えた。


「ジーナ、聞いたか?コイツの噂と言うか話!……くっそ面白いぞ?」


 そう言ってアッシュが俺を指さしながら笑う。


「ちょっと!笑わないであげなさい!……それでどんな内容なのよ?」

「コイツまだ魔物一体も狩って居ないんだってよ?ぷふふふ……マジで面白いじゃん?」


 いや正確にはゴーレムを狩ってるんですよ。ただゴーレムは魔物の中でも道具に近しいから魔物カウントされないってだけで。


 そのアッシュの言葉にジーナは。


「嘘でしょ?!ぷぷ……それは流石に驚いたわよ?」


 同じような顔をしながら、腹を抱えて笑いだした。


 俺は顔が真っ赤になっているのだろう、そんなふうに思いながらさらに縮こまる。

 ……こう言う空間は嫌いだ。誰かを馬鹿にしても構わないっていう、あまりにも悪意に満ちた空間は。


 それでも、二人はまだマシだったという事に俺は気が付かなかった。


「おやぁ、ネルラじゃないか。どうした?約立たずでのろまな魔物怖くて戦えない哀れなネルラ君?」

「……ロブタ……様」


 そこに現れたのは、ロブタ。だがその見た目は最早イケメン過ぎて誰だか分からない。

 そしてロブタが現れると、ギルドが大盛り上がりを見せた。


「「「ぉぉぉお!!」」」


「ロブタ様っ!こっち見て!」

「ロブタ様、今回はこんな美味いクエストありやすぜ?」

「ロブタの旦那!……こりゃ良かった、ささ立派な服と椅子をご準備致しますぞ?」


 次から次にロブタに声をかけたり、アイテムを貢いで行くギルドの冒険者達。


「ははは!君達の声援、応援が私の糧になるんだ!……感謝する!!」


 ロブタは俺とは対照的にとても魅力的な男になってしまったようだ。

 話しかけてくる女も男も、皆嬉しそうにしている。そして俺に近寄ると。


「そう言えば、ネルラ。君はまだ魔物を狩って居ないというのは本当か?……魔物なんて軽く剣を振るだけで……おっと、そうだった。んだったね」


 ……そんな風に爽やかな笑顔から、最高に嫌味をぶち込まれた。

 ……てめぇが魔剣を奪ったんだろうが。とは言い出せる雰囲気じゃない。


 それにわざと今みんなに聞こえるようにでかい声で言ったな。

 コイツ……中身転生者だと分かっていると、なおの事腹立つな。


「……もういいだろ、俺はご飯を食べて……」

「おっとぉ、手が滑った!……いやぁ危なかった、転けてしまったよははは!!」


 ……最悪だコイツ。俺は地面に落ちたご飯を拾って食べようとするが、その手をがっしりとロブタに握られる。


「……何だよ」

「いやぁ、まさかこれが用のご飯だとは思わなくてさ?ペット用のご飯だと思っていたよ!すまないねぇ、まさかそんなところに置いてあるとは……思わなくてさ」


 …………くそっ。ダメだコイツらと一緒にいると自分が惨めに感じてくる。

 俺はもうここにいる意味を感じられなくなったので、細々と外に出ようとする。


 その様子を、哀れだなぁ。と笑いながら彼らが見ているのを感じた。……胸糞が悪い。



 ◇◇


「…………で?、なんであんたみたいな雑魚がロブタ様に話しかけてんだ?」

「おいおいやめてやれよ?ロブタ様からこんな奴にわざわざ構うなって言われているだろ?」

「でもさ?ロブタ様の好意を無視してやがったんだよ?コイツ!」


 そう言いながら、男女が俺を足蹴にしている。


 あの後ギルドを出て家に帰ろうと森の中を歩こうとしていたら、後ろから突然羽交い締めにされて……蹴られた。


 金的にヒール蹴りをくらい、悶絶した俺を男女が蹴り飛ばしてきた。

 ……っ…。


 血の味が口の中に溢れる。おそらくだが冒険者、それもロブタの息がかかった奴だろう。

 鉄をつけたブーツでの蹴りは、普通に痛かった。


 それでも俺は頑丈だ。この程度の攻撃では死にはしない。


「クハハ!!もっと悲鳴を出してくれよ!」

「おーおー怖ぁ。まあナイフでチクチクしちゃうぐらいなら、ロブタ様も怒りはしないよなあ?」


 そう言いながら男の方は、俺の腕にナイフを差し込む。当然骨にあたってどばどばと血が溢れ出す。


「…………っっ!」


 流石に痛かったので、俺は悶えた。……今日は珍しく普段使っている剣を持ってきていない。

 ただご飯を食べてさっさと家に帰って寝ようと思って軽装で来ていたから。


 俺は這いずるようにその場から逃げようとする、しかし二人は俺をさらに蹴り飛ばす。殴り飛ばす。


 散々痛めつけたあと、唾を吐きながら……。


「ふん、こんくらいで許してやる!……勿論私達のことをもし他の冒険者やらに報告しても無駄だぞ?……なんせここら一帯の冒険者の殆どは軒並みロブタ様の息がかかってるからなぁ!」

「そうだぞ坊主。お前に出来ることは精々ロブタ様の靴を舐める……まあ土下座でもしたら少しはロブタ様に気に入って貰えるんじゃねぇかな?……じゃあな」


 そう言って去っていった。


 ◇◇◇◇



 俺は何とか這いずり、泥だらけになりながらダンジョンに帰る。足が痛い、腕が痛い、口が痛い、身体のあちこちが痛い。


 それでも俺はまだ死んでいない。


 ふらふらと家に帰って俺は横になる。


 …………ご飯を食べる気にもなれず、俺はただぼーっとダンジョンの天井を眺める。


「…………魔剣を貰わない道を……選んだら正解……じゃ無かったのかよ……」


 俺は既に後悔していた。あの時無理やりにでも魔剣を貰っておけば、少なくとも今こんなに惨めに暮らすことにはならなかった。と。


 いや、魔剣自体はずっと俺の元に来ている。


 そう言って俺はチラリ、と枕元を眺める。


 そこには……と言うか、ダンジョンの内容量の過半数を占めているソレらを俺は見る。


「……365本の魔剣……。やっぱりこれおかしいよな流石に」


 ◇◇◇


 毎日一本魔剣が朝に枕元に置かれるようになったあの日から、毎日魔剣が増えていった。

 いや、捨ててるよ?邪魔やし。


 そしたらある月から魔剣が一日一本から増えて二本、三本……百本……と増えていった。


 朝になるとそれがあって……夜になるとそれが消えて。また朝になると魔剣が増える。

 最早気味が悪くて仕方ない状況だった。


 そうして気がつくと今朝……365本になっていた。


 俺はただため息をついて、そして再び天井に視線を戻す。


「…………誰だほんとに、こんなふざけたことをしやがった奴は」
























  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る