第16話 最後の一振

 次の日の朝、魔剣が


 あれだけ山のようにあった魔剣は何ひとつとして消え、残ったのはとても神聖な見た目の剣だけだった。


「……よく分からないけど、一本になったのなら捨てやすくて助かるぜ」


 俺はそれを抱えて森の奥に走っていき、地面の中に埋めた。


「悪く思うなよ〜?」


 それから家に帰る。道中、干し肉をかじりながら食べれそうな木の実を探して森を彷徨って見た。

 ……特に成果は得られませんでした!!


 まあ春だもんなぁ。もし食べれる実があったとしてもそれは間違いなく魔物に食べられているだろう。


「はぁー、こんな生活あと何ヶ月いや何年過ごせばいいんだろうなぁ」


 俺は最初の怠惰に生きると言う事が既に割と苦痛に感じていた。なんというかやるせなさと、暇を潰す度に自分のあり方を問われ続けている気がして仕方ないのだ。


 誰かが"それでいいのか"と尋ねてくる気がするし、それを無視して寝ていても体は既に元気いっぱいなのだから、寝れないのだ。


 流石にネルラ君というか、若人の体力を舐めていた俺が悪いとは思う。


 そんな風に考えで、家に帰る。まあダンジョンですけどねぇ……。


 ◇


「さぁて今日はどんぐらいゴーレムくんを……か……る……の………………は?」


 俺は自分の目がおかしくなったのではないかと思い、何度もごしごしと擦る。少し強く擦りすぎて涙が出てきたが、それを拭いながら俺は……。


「夢……じゃねぇよな?……いてっ!つねったらちゃんと痛い……じゃあコレは本当……?」


 蓬けた顔をしていると思った。だけど仕方ないと俺は思うのだ。

 だって……。


 何故かダンジョンの中に鎮座していたのだから。


 ◇◇◇◇◇


 俺はそれを再び持ち上げ、そのまま近くの湖に目掛けて投げ捨てる。

 水柱がドボォォン!!と音を立てて浮かび上がり、湖の水面を少しだけ揺らした。


「よォーしこれで何も無かったと言い張れるぜ!」


 まああれだろう、どっかから着いてきたとかそういう話だろ多分。

 そんな風に思いながら帰った俺は……さらに驚く事になる。


「…………は?…………なんでここにあるんだ?」


 俺の枕元には、寸分違わずさっきと変わらぬ魔剣がそこにあった。しかも水が滴っている訳でも無く、魔物臭さも無い。

 だがどういう事だろうか、分からないのが最高に気持ち悪い。


 俺はひとまず考えたあと、それを手に持ち……。


「なら魔物の口ん中にぶち込んでやるよォ!」


 そういうと近くを歩いていた大型の肉食魔物の口の中に魔剣をぶち込む。

 そのまま全力逃走を図り、その後しばらくしてダンジョンに帰った。そして見た。


 を。


「……三回目。本当に言っているのか?!」


 俺はただ頭を抱えることしかできなさそうであった。

 だが俺は諦めない。魔剣に向かって指を指し、そして。


「くそっ!誰だか知らんが……こんな手の込んだイタズラに俺は屈指ねぇぞ!転生者舐めんじゃねぇ!!破滅フラグへの挑戦チケットなんざ死んでもいただかねぇからなあ!!」


 そう言って鼻息荒くなる。

 そうだ、俺は転生者だ。この程度簡単に耐えて見せる!!


 ◇◇◇◇◇





 一週間後。……俺は諦めた。というか心が折れた。


 あれから毎日間隔だった魔剣の出現が、毎分毎秒に変わった。

 どんな場所に投げ捨てても、どんな場所に掘り捨てようとも、どんなにキツく鎖で縛ろうとも、魔物の胃の中に収めようとも。

 誰かに託そうとしても。


 全て俺がダンジョンに戻った時にはそこにあった。


 だから俺は試すことにした。それはもちろん、ダンジョンの外にぺっ、と置いてすぐに戻ってみるといういわば誰がやったのかを確認するための行為を行った訳だ。


 ……結果としては、あの魔剣はしているということだけがわかったのだ。いや逆にそれ以外何一つとして分からなかった。


 そうして俺が疑問に思いながらも、街に買い物に行くためにダンジョンを出ようとすると……なんと魔剣が俺の買い物カバンにするりと入ってしまった。


「……お前も一緒に行きたいのか。だが断るッッ!!」


 俺はそれを壁に差し込んでそれからダンジョンを出ることにした。

 やっぱり魔剣を捨てた時が一番気持ちがいいかもしれない……そんなことを考えながら俺は【オルダ】の街に向かったのであった。




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