第17話 ネルラ死す

 街にたどり着いた俺は、ギルドが騒がしい事に気がついた。普段から騒がしいギルドだが、今日は一段とその騒がしさが増している。


「何かあったんですか?」

「───ちっ、坊主かよ。……あー知らねぇよ、あと今日は買取無しな」

「えぇ?!」


 筋肉ムキムキマッスルマンな買取屋さんは少しだけ嫌そうな顔をしていた。……こんな顔する人だったっけ?そう思いつつも、ギルドの内情が気になる俺はぴょんぴょんそこらを飛び回って見る。

 だが人だかりが大きすぎて俺の身長では足りない。

 ……くそう、身長欲しいぜまじで。

 すると筋肉ムキムキマッスルマンなおじさんが、ゆっくりと口を開く。


「坊主。今朝、バジリスクが出たんだとさ……そんでもってそいつの討伐のために今さっき向かった冒険者達が半分石化して帰ってきてな……大騒ぎなんだとよ」

「あ、あれ?教えてくれるんですか」

「まああれだ……店の前でぴょんぴょんされちゃあ邪魔だからな……ほらさっさと帰った帰った!」


 ?何だか普段と違って優しくないなぁ。と俺は呑気に思いながらギルドを出る。


「まあいいや、換金はまた今度で……干し肉をあと数枚買って帰るかぁ……」


 普段と違う街の雰囲気、街の人の感じを俺は肌身に受けつつお肉屋さんに向かうのであった。


 ◇◇


「あ〜あんたか。悪いな今日はあんたに売る肉はねぇ……全部予約が入っちまってるんでな。また来週にでも来いや」


 おばちゃんが不機嫌そうに呟いた。


「え、ちょ、ちょっと?!……俺に飢え死にしろって事ですか?と言うかお肉屋さんの肉が全部予約されるなんてわけが分からな───」

「坊主、さっさとどっか行け。ちゃんと蓄えてるだろ?それが無いなら自分を恨むこったな!」


 そういうとそっぽを向かれてしまった。


 ……あれぇ?なんか嫌な予感がすごいびんびんにするんだけど。


 ◇◇◇


 仕方ないので雑貨商店でアイテムを買おうとすると……。


「げっ、……あ〜悪いねぇ少年。今日はもう店じまいなんだよ」

「は、ぇ?……いやちょっとあの?!」


 あっという間に店を閉められた。と言うか今日はどこの店もやっていないとかいう事?え訳分からんが?


 ……その後俺は町中の店を見てご飯を買おうとした。しかし売っているお店はひとつもなく、なんなら俺が来る前は売ってる雰囲気出てたのに俺が来た瞬間「売り切れ」「残念さっき売れちゃったよ」みたいな反応ばかり。


 ……どうなってるんだよ今日は。


 ◇◇◇◇


 仕方ない、明日にでもまた買いに行こう。


 俺はそう思いながらダンジョンへの道をとぼとぼと帰っていた。


 そしてダンジョンに入るための木の洞に差し掛かった次の瞬間。


「やぁ、待っていたよ……君」


 そんな声を横からかけられると同時に、俺の身体を何かが押し潰した。


「がっ────!」


 俺は何が起きたのか分からず、それでも必死に誰なのかを確認しようと顔を模たげて……。


「…………ろ、ロブタ……き、貴様ぁ……」


 俺を見下ろしているロブタと目が合った。その瞳はゾッとする狂気を帯びていた。


「やぁ、久しぶりだね……ネルラ。いや、君は中身はネルラじゃ無いのかな?……まあ君は転生者何だろう?知ってるよ」

「……な、何を言って……ぐっ?!」

「あはは、嘘つく必要は無いよ。と言うか君は甘いんだねぇ転生者の癖に!!……尾行されているとか、そういったこと考えないんだね馬鹿だねぇ君は!!」

「……尾行……お前……」

「ひゃははははは!!……そもそもなぁ?に住んでたんだろ?……でもなぁ?このダンジョンはしか知らねぇはずなんだよ?あのゲームやってた奴しかなぁ!?」


 ……っ、まさかバレていたのか。と言うかならば。


「そう……かよ、俺が転生者だと気がついて……いたんなら……なんで今俺を……攻撃してる……んだよ……同郷のよし……みって……のは……な……」

「あぁ?腑抜けたこと言ってんじゃねぇぞ?……お前も知ってるよなぁ?ロブタって奴がどんな哀れな結末を迎えるか!……」

「し……知ってる……さ……だけど……おれ、だって……同じよ……うに…………」


 クソ、息が出来ん。おそらくだがロブタの奴闇魔法の重力操作を使ってやがる……。

 俺は必死に体を押しつぶす魔力から逃れようと体をひねる。


「ああ。お前も同じように悲しい末路辿るんだよなぁ。……だからだよ!……この世界では!……お前は主役であってはならない!……分かるか?」

「……俺は、ただのんびり……生きて行ければそれ…………で……」

「無理に決まっているさ!ネルラだぞ?破滅フラグ全開のあのネルラが、俺という主役を食わない可能性が無いとでも?

 ……俺はなぁ、お前が転生者じゃなかったらこんなことしてねぇんだよ。……だがなあ、お前は転生者、そして原作知識もおそらくあるんだろ?

 ……ならそんな奴はさっさと始末しとくに限るよなぁ?……俺様は覇道の邪魔になるお前をここで始末することに決めたんだよ

 ……まあ街の人に手を貸してもらってお前の帰るタイミングの調整までしてもらったしなぁ」


 ……だから肉も何も売ってくれなかったのか?


「じゃあそういう事で……」


 首を掴まれる。そして空中にほり投げられると……そこに目掛けて……ロブタはフルスイングをかました。


 軽々と俺は空を飛び、そして地面に突き刺さる。


「う゛……」


 そしてすぐに俺の元にロブタが現れる。


「……こ、殺す……の……かよ……俺を……」

「当たり前だ、だがなあ……せっかく死ぬんだったら……や」


 そういうと俺の腕に巨大な釘を突き刺し……そして俺を木に固定するロブタ。


「な、何を……する……つもり……」

「あ〜さっきギルド行った時、聞いたろ?……の事。あれさ、かなりの高ランク魔物ってことぐらいお前なら知ってるだろ?ランクAAA+……まあ凄まじい魔物……それを俺が倒すんだよコレから……」


 そういうと、これからの自分の覇道をロブタはどんどんとひけらかしていく。


「……お前……」

「おっとぉ?負け犬君が何言っても無駄だぞぉ?……お前はここでバジリスクに襲われて死ぬ。そこを俺様が通りかかって、助けるために魔剣……お前から奪ったこの【ディアゴスティード】で仕留める。それを俺様はお涙ちょうだいなエピソードにして自分の功績にする……ははは!!完璧だろぉ?」

「……」


 確かに完壁だよ。俺というキャラが死ぬことを除けばな。


「そんじゃあ、俺様の糧に、礎になれ雑魚が」


 そういうと俺にロブタは何かをかける。赤色の液体……それが何なのか俺は知っている。


 ……バジリスクの餌である小動物の体液だろう。

 実際自分の鼻を獣臭い臭いがつんと刺激している。臭い、臭い。


 やがてしばらくすると、ズル……ズル……と言う何かを引きずる音が聞こえてきた。


 それはどんどんと近く、近くなっていく。

 ……クソったれ!

 俺は必死になりながら自分に突き刺さった釘を木から引き抜こうとする。


「─────あ゛あ゛あ゛!!!」


 痛みで涙が滲む。痛い、痛い痛いっ!……血がぼとぼとと溢れ出す。


「「「カロロロロロロ!!!!」」」


 ふと視線を戻すと、そいつの巨体が見えた。


【バジリスク】蛇竜。蛇と龍の合体した魔物。その図体は約12メートル。目から対象を石化させるビームを放ち、息は致死性の猛毒ブレス、牙は並の大楯ぐらい簡単に貫くほどの鋭さを持つ。

 緑色の巨体が、俺にゆっくりと差し迫っているのがわかった。


 そして遠くの方で息を潜めているであろうロブタが見えた。


 …………楽しそうだなお前。


 ……………………ブチン。


 俺の中で何かが切れた音がした。そして次の瞬間、俺は釘を木から全力で引きちぎっていた。

 あまりの早業に血が自分の前を舞って目に入ったが、そんなことどうでもよかった。


 俺は即座にバジリスクの目に向かって飛び上がり、その目に自分の腕にささっていた極太の釘をぶち込む。


「「「グォォォォォォォオ?????!!!」」」


「なっ!……アイツ!!……クソ、せっかくの俺様の覇道の邪魔をすると言うんだな!……やってやるよ、【ディアゴスティード】!!破滅を引き起こせ!!」


 何かロブタが言っている気がしたが、俺は気にする暇すら無かった。

 反対側に刺さっていた釘をナイフのように扱い、バジリスクの鱗に突き刺す。喉元の柔らかい場所を狙った攻撃は当然バジリスクにダメージを与えている。

 流れるように俺はバジリスクに攻撃を当てていく。何故だか分からないが、今の自分はこの魔物に負ける気がしない……そんな予感がひしひしと伝わってくる。

 コレはネルラ君が自分に力を貸してくれている、そんな感覚なのかもしれない。


 俺は恐怖を忘れ、必死に攻撃をしていく。


「……これでとどめだ!」


 俺は気がつくとバジリスクを瀕死の状態まで追いやっていた。石化を使えないバジリスクはただの毒ヘビだ。

 だがブレスは流石に避けきれない、なので俺はブレスの予備動作中に口を釘で完全に固定した。


 幸いなことにバジリスクはあまり大きくなかったからか、簡単に串刺しにできた。


「……これで本当に……とどめ……」


 動きを封じた俺は、やつの頭蓋を狙い目に刺していた釘を引き抜くと突き刺────、


「【ルインゲイザー】!!!!!!」


 その刹那、ロブタの持つ【ディアゴスティード】から破滅のエネルギー光線が放たれた。


 万物を滅ぼす破滅の魔剣。最強にして最悪の魔剣から放たれるエネルギーの一撃は、バジリスクを貫通しながら俺を貫いた。


 その余波により、俺ははるか彼方に飛ばされていく。

 そして俺は完全に意識を失ってしまうのであった。


 ◇◇◇◇◇


「ろ、ロブタ様それは本当ですか?!」

「ああ、何とかバジリスクを倒すことは出来たが……くそっ、近くにいた少年を助けることは出来なかった……すまない……すまないっ!」


 ロブタは静かに土下座をギルドの前で行う。


 だが内心では。


「やった、やってやったぞ……これで完全にネルラは死んだ。あの破滅の魔剣の力を食らって生きているはずか無いからな!……これで俺様が主役の物語が……今から始まるんだ!!ヒャハハァァ!!」


 とガッツポーズをしていた。


 そしてその日の夜、ネルラと言う少年が犠牲になった事をギルドの人達は少しだけ惜しみながら……それでも新たに生まれたロブタと言う名のドラゴンスレイヤーの誕生をギルド総出で祝うのであった。









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