第9話 邂逅フラグ

 目を開けると、魔剣が置いてあった。ちなみにさっきのとやつがである。


「…………は……は…………────っ!ふざけんじゃねぇぞぉコレェ!」


 俺は再びそいつを強引に持つと、ダンジョンから出て走り出す。くそう、何かどうしてこんな嫌がらせを受けにゃならんのだ!


 俺は必死に走り、先程と同じように湖に投げ込む。


 ちなみに今回の魔剣の名前は【エクスカリバー】だそうだ。んー【エクスカリバー】ってさ?アーサー王の死の間際に湖にベディヴィエール卿の手で投げ捨てられたんだよね。2回。

 つまりこの剣は2捨てなきゃならなかったと?

 ───要らんって、そんな所忠実に再現しなくて良いってホントに。


 俺が全力で湖のど真ん中に投擲すると、水柱がドバーッと立って、それから一瞬湖が光った気がした。


「ふぅー、スッキリ。……ってかなんで同じ魔剣が俺んとこに?……訳分からんよ……嫌がらせにも程があるって……」


 俺は帰り道をひた走ながら、そんな言葉を呟いた。走りすぎてお腹がすいたので、俺は早くダンジョンに戻ろうと思ったよ。


 ◇◇


 ダンジョン内に戻ったあと、俺は寝る前に考えていた事をネルラ君に尋ねることにした。


「ネルラ君ってさぁ?……昔から魔法を使えたりしたのかな?」


 そもそも魔法は魔剣降臨の儀式の前から使える人も別に居る。だからあんまり特別な事って訳でもないんだよねこの世界では。

 もし、ネルラ君が魔法を使えていたのならば、剣を継ぎ直したという理解不可能な芸当も何となく飲み込めるからね。

 というかそれじゃないとあんまりにも意味不明過ぎて俺の頭がおかしくなっちまうぜ!ハハハ!!


 だがネルラ君の回答は────"使えません"であった。


「────くぁwせdrftgyふじこlp」


 俺の頭がおかしくなった。


 ◇◇


 ネルラ君曰く、との事。なぜって何何なのよ?!怖い怖いよ?

 もはや自分の身体もとい、ネルラ君が俺は恐ろしく感じていた。なんと言うか得体の知れない特別な何かを有してる感じがぷんぷんするんだよね。


「うーん、これ以上考えても埒が明かないんでね、この件は一旦保留って事で。……それよりもご飯を買いに行かねば!」


 そう。俺はさっき帰ってきてから気が付いた事だったのだが、もう既に干し肉が殆ど無かった。

 ……昨日の内に確認しとけって?うっさいバーカ、俺が在庫なんて全て管理出来ると思うなよ!


 誰に怒ってるのかよくわからんが、俺は文句だけを言ってみた。理由は特に無い。


「はぁ。まあいいや、行くか…………」


 俺は剣を腰からぶら下げると、ギルドカードと素材を詰め込んだ袋を片手にダンジョンから抜け出す。


 余談であるが、このダンジョンは一人専用であり……さらにこのダンジョンに誰かが挑戦した場合、ダンジョンを形成する核が破壊されるまで他の人が入る事はできない仕様である。


 ……都合が良いなって?まあそこは俺も思ったけど、使えるんで使ってる。ただそれだけですね。


 ◇◇◇


「ふーん、ふんふふふーん、ふふふふふー」


 "線路は続くよどこまでも"を垂れ流しながら俺は森を駆け抜ける。爽快な風が心地よく俺の前の髪の毛を、目に執拗にぶつけてくるのだけは居た堪れないけどね。


 幸いなことに魔物は殆ど居なかったので、俺はサクッと近くの街【オルダ】に到着することが出来た。

 そして到着早々何やら人々が慌てて居る。


「あれ?何かあったんですか?」


 俺は近くにいたスキンヘッドのヤクザ顔の冒険者に尋ねる。すると──、


「お?坊主お使いか?……何?違う?はははそうか、お前さんも冒険者か!……ああこの騒ぎはな?……ってんで大騒ぎになってるわけだ……こえー話だぜ全く」


 そう言ってぷるぷる体を震わせるスキンヘッドのヤクザ顔の冒険者に、俺には少なくともあんたの顔の方が怖いけどな。と言いたくはなったが黙っておくことにした。


「ありがとうございます!それで……どうするんでしょうか冒険者ギルドとしては」

「んー、それがなぁ坊主。……さっき奴を仕留めに行くって出てった冒険者パーティがなあ?……なっかなかんだよ……不安だよなぁ」


 そう言いながらビールをぐいっと飲み始めたスキンヘッドのヤクザ顔の冒険者。随分様になってるとは思ったが、俺は感謝の言葉を述べてギルド内に入っていく。


「おおいらっしゃい、換金かい?……んじゃあまずは見せてもらおうか?」


 前回見せたチョビ髭のムキムキおっさんに俺はゴーレムの核を差し出す。


「ほーん、前回と同じねぇ?……いやしかし綺麗な断面だこりゃ……ちょいと待ってな?……」


 そういうと少し席を外しておっさんは店の奥に入っていってしまった。

 しばらくするとおっさんは、でっかい焼いた肉を携えて戻ってきた。


「坊主、中々いい素材持ってきてくれたからよ?ほれ、こいつをサービスだ!……なぁに、あんちゃんの顔色があんまり良くなかったからよ?……これでも食って元気だしな!」


 そう言って換金した分のお金と、でっかい肉の塊を俺は受け取って帰ることにした。ちなみに前回よりも500円少なかった。まあつまり干し肉は前回より少なくなるって事だね。

 ───貰って外に出たあと、ふと店の裏手にあった肉料理店の肉の値段を見た。


 ……銅貨15枚、つまり1500円だった。


 ───ご馳走様です!!と俺は天の女神様に祈った。


 ◇◇


 帰り際、俺の冒険者ランクが上がっていないか確かめたが……まあ上がることは無かった。そりゃただのゴーレムを数匹狩った程度じゃなぁ……。


 俺は訳でダンジョンへと戻るのであったが。


「やべ、水を汲みにいかねぇと!」


 普通に水を汲み忘れていたことに気がついたので、俺は慌てて森の中に駆け出したのだった。


 ◇◇



「おぉ、お主……もし良かったらで良いのじゃが……干し肉を分けてくれんかのぉ?お腹が空いて動けんのじゃ……」


 水を汲んでいたら突然しなびた笠を被った老人に話しかけられた。いつの間に?!とは思ったけど。


「……こんなちっぽけな干し肉で良ければ……」


 そう言って、俺はさっき買ったばかりの干し肉を手渡した。何となくこのおじいさんにはそうすべき、だと思ったってだけなんだけどね。


 しなびた様相のおじいさんは、ニカッと笑い、干し肉をがぶがぶと食べていく。老人にしてはあまりにも豪快過ぎて少しびっくりしている内に老人は食べ終えてしまった。


「クカカカ!!美味かったぞ!……しかしちと、塩味が恋しい感じではあったがのぉ」

「あ〜分かります、その肉ちょっと塩っけが足りないんですよね」


 俺はそんなことを言いながら、おじいさんの片手に持った杖に目がいった。するとその視線に気がついたのか、笠を被った老人が笠をあげる。


「とても不思議な雰囲気のを持っているのですね」


 俺は何故かそんな言葉を言いたくなった。なので言ってしまった。

 すると老人は……ニヤリと笑い。


「ほぉ、よく気が付いたのぉ?が剣だと…………ふうむ、良い目をしとる。……のぉ、お主。────剣は好きか?」


 そんなことを尋ねてきた。俺はネルラ君に尋ねる。


 君は剣は好きか?と。すると間髪入れずに、ネルラ君は"うん!!"と答えた。

 なので俺はその事を老人に伝える。ちなみに俺は別に好きでも嫌いでもないかな。というかなんだろうなぁ、修学旅行で買った木刀に対する感情って感じ?

 あるから振る。ある程度振るとなんか別にって感じになる感覚?


 すると老人は豪快に笑い飛ばして、そのまま何処かに去っていった。あまりの早業に俺は驚いた。


 去り際に「……ならばいつの日かまた逢おうぞ」とか呟いてたけど、あれ確実にフラグじゃん怖。


 なんか師匠ポジのキャラとの邂逅とか絶対フラグだってこれ。このまま行くと俺は多分フラグで死ぬんだろうなぁ……絶対魔剣だけは手にしちゃダメだな!うん!


 俺はそう誓うとダンジョンまでの道を再び歩き始めた。


 ◇◇◇◇◇◇◇◇



「本当に面白いやつじゃな。……あの目、あの剣……次に会うときは本当に剣を交えることになるかもしれんのぉ」


 そう言って老人、【魂剣の老王ジルザ】は不敵な笑みを浮かべた。















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