第5話 追放当日

 次の日、俺は追放される事になった。と言うか朝目を覚ましたら外に投げ飛ばされたんだけどね、扱い雑すぎるって流石に。


「ネルラ。お前は使えない男だ、魔剣を手にすることも無くただ役に立たない剣を振ることしか能がない哀れな男め。……お前はこの領土に必要が無い、すぐにこの村を立ち去れ。……戻ってくることは許さないぞ」


 起き上がろうとする俺に村長がそんな言葉を投げつける。起き上がって周りを見ても、村長しか居ないじゃんか。

 そうして唖然としている間に、俺は村を守る長い長い城壁から弾き出された。


 見送りと言うか、罵倒でもいいけどなにかリアクションをしてくれるものだと思っていたのに、誰一人としてそんな行動を起こさないとは……。


 何か追放されたのに悲しいなぁ……ぅぅん。罵倒も応援も無い追放モノってなんというか地味だしつまらないんだね。

 まあいっか。俺は俺の好きに生きると決めたんだからな!


 そう言ってネルラ君は駆け出した。目的地は勿論近くにあるダンジョンだ。


 ◇◇


「行きましたか?あの男は」

「ええ、ロブタ様。やっとですな」

「ああ、やっとだ。やっとだな」


 ロブタと執事は静かに目を合わせると、村から去って行くネルラを一瞥する。


「……これで、ようやく我の時代が幕を開ける!!」


 ロブタはそう言うと握り拳を高々と掲げた。壁には先日神から賜った(ネルラから奪った)魔剣【ディアゴスティード】が途方もないエネルギーを放ちながら鎮座して、ロブタを見下していた。


 ◇◇◇



 我、いや僕の名は【坂口 智久】……今は【アズバルド・ロブタ】かな?

 僕は高校生の時、突然異世界に転生してしまったんだ!

 いやぁそしたら、結構好きなゲームの世界だったんだよ!嬉しかったなぁ。でもさ、自分の姿見て絶望したよ!ほんとに!


 だってロブタだよ?ロブタ!あの序盤に出てくる糞豚と呼ばれるほどにユーザーからバカにされたあのロブタだぞ!?終わったと思うじゃん普通!


 ただそこで僕は考えたわけ!……で無双しちゃえば良くね?と。

 ロブタは貴族の息子だ、金はあるし時間もある。それならちゃっちゃとレベル上げて、実力つけて、この世界の主役を僕に変えちゃえばいいんだ!とね!


 ちょうど良くこの近くの村には……あの【ディアゴスティード】がある事も、執事のセバスが教えてくれたしな!

 ただその中で一番問題だったのが、そう……ネルラと言う男をどうするべきかって話でさ?


 ま、僕は貴族だからね。潤沢にあるお金を使ってひとつの情報を手にしたんだ。それが、魔剣降臨の儀式の最中に剣を奪えるって言う話だったのさ。


 それは北方の村での魔剣降臨の儀式の際に起きたことらしいんだけど、くしゃみをした拍子に隣の子の魔剣を偶然触れてしまった子供がいたんだと。そしたら魔剣の所有者がその子供に変わってしまったというね。


 それを聞いて僕はすぐに魔剣【ディアゴスティード】を奪うことを決めたよ。幸い優秀な執事とメイドのおかげで、僕が素晴らしい人物だと言うことは世間に広く知れ渡っていてね。村人も僕に快く手伝ってくれることになったんだ!

 やっぱり僕は凄い愛されているんだって思ったね!


 それでもやっぱりネルラは怖いじゃん。自分が魔剣を貰えるはずだったのに貰えないとか……と悩んだんだけど、よく考えたらさ?ネルラって別に異世界人とかじゃないじゃん?だからさ、そもそも魔剣を貰えることを知らないわけじゃん?


 じゃーもう快く奪っても誰にも文句言われないよね!という事で僕はネルラからあの魔剣を無事に奪い取ることにしたのです!


 いやぁ、参っちゃうね!僕天才なんだよねえ!


 ……にしてもこの【ディアゴスティード】って言う魔剣、どうやって使うんだろう。正直ゲームはあんまり進められなくて、動画ばっかり見てたからこの剣が強いってことと、持ち主がネルラとか言うバケモン魔剣士って事しか知らないけど……。


 まあいっか。この剣はのんびりと僕が完璧に使いこなしてみせるのだからね!はーっはっはっは!!



 ◇◇◇


 あの村は【リクセン村】と言う場所だ。その近くには、……通称というのが存在している。

 ちなみに秘匿と言うが、それはゲームのシステム上のミスを隠すための秘匿だったりする。

 簡単な話、テクスチャの張り付けをミスったままリリースしてしまっていたのだ。

 そのせいでそこのダンジョンは、外からは絶対に発見出来ないクソダンジョンと呼ばれる羽目になった訳だ。


 ちなみに発見したのはありとあらゆる壁を100回叩くと言う趣味を持った狂人ゲーマーだ。彼曰く、何となく違和感があったから、叩いてたら中に入れた。

 との事。


 で中にはゴーレムが一体、それが無限リスポーンするだけだった。宝箱も無ければレアアイテムドロップも無い攻略する意味の無いクソダンジョンだと。


 ───たしかにな。と俺はそのダンジョンの中に入ったうえでそうぼやく。


 あまりにもダンジョンとしてはお粗末。こんなものをダンジョンと呼ぶなんて、ダンジョン系のゲーム全てに失礼だ。


 だが無限リスポーンと言う点が俺はとても助かるな、そう思ったのだ。

 ここのダンジョンには、その性質上、安全地帯セーフティスペースと敵のリスポーン位置がとても近いのだ。

 なので暇があればゴーレムを倒し、アイテムを回収して街に売りに行く。と言う金策?にしては少し弱い奴が出来るわけだ。


 なおゲームではこんな事するより他の場所でマラソンした方が金が稼げるという事で使われなかったんだが……今の俺にとっては、とてつもなく助かるわけだ。


 俺がダンジョンに入って安全地帯に腰掛けてしばらくすると、ダンジョンと言うか部屋の真ん中にゴーレムがリスポーンした。


「まあのんびりコイツを狩って素材を売る。それで食いつなぐしか無いよなぁ……にしても今日はのんびりと寝れそうだな。うん……」


 俺はそう思いながら、ゆっくりと横になる。今日は外も暖かく、心地よい春風が吹き込んできたからか俺は睡魔には勝てなかった。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る