第4話 追放前夜
折角魔剣を貰わないルートに入ったのに、普通に魔剣を貰ってしまった。
「何でぇ?!」
叫ばずにはいられない。けれど俺は直ぐにそれが魔剣では無い可能性にかけてみることにする。多分俺の気の所為で、これはただの剣だ。うんそうだそうに違いない。
俺は恐る恐るその剣の柄に手をかける。途端目の前に魔剣名が表示されてしまった。
「……なるほど、魔剣なのねコレ。……よぉし」
俺はそれが魔剣である事を確認したと同時に部屋の扉を開けて外に出る。勿論母親や父親はまだ眠っている。昨日はみんな宴で、今日は疲れ果てていたのでそこは助かったと思う。
そして俺は必死に走り、誰にも見つからないようにこっそりと納屋に入る。そこはほとんど誰も使っていない、寂れた納屋だ。まあほぼ倉庫みたいなものと思えばいい。
扉はガタついていて、鍵がかかってるいない為キィ、と音を立てて開けることが出来た。俺はその中にこっそりと忍び込む。
「うへっ、ぺっ……埃っぽすぎる……掃除しろよ……」
長年積み上げられた埃が俺の肺をつつく。白い雪のように積もった納屋の中に武器が積み上げられている場所がある事を、俺はネルラ君の記憶から確認していた。
そこに俺は手に持った剣をこっそりと立てかける。魔剣は見た目は白銀のブロードソードだったのだが、刀身がある場所からは赤黒いオーラが吹きでており、常人が持つべきでは無いものだと言うことをしっかりと示しつけていた。
「……悪く思うなよ?……俺は今回は怠惰に、のんびりと惰性的に人生を過ごしたいんだ。破滅フラグのお世話になるつもりは無いんだよ」
そう少しだけ謝りながら俺は納屋の外に出る。足跡もつかなかったし、埃を散らしておいたので万が一違和感を覚える他の村人がいても……あまりに気にも止めないだろう。
◇
「っ〜〜〜埃っぽすぎた。つーかなぜ魔剣が……誰か愉快犯でも居るんか?この村は……はー水でも飲んで落ち着こうかなぁ。……ってアレは」
俺はとりあえず魔剣が何故あったのかを考えないようにして、水を飲もうとしたのだが。視線の先に二人の人間の影があったので、直ぐさま姿勢を落として近くの木陰に身を潜める。
そこに居たのは赤髪の女の子と、高貴な見た目の男……つまりはジーナとロブタだった。
「…………(何話ししてんだ?……クソ、よく聞こえねぇ……)」
俺はこっそりと近くに言って何を話しているのかを、確かめようとして…………。
やっぱやーめた。なんかフラグに巻き込まれる予感しかしねぇし。何よりだいたい物語で二人で話してるとこに割って入るとろくな事がねぇんだよな。知ってるぜ俺は。
やめて普通に家に帰ることにした。まあどうせ俺には関係ない話をしてるだろうしなぁ……うん。
◇
帰る途中で木の棒を拾ったので、何となくブンブン……と振り回してみた。そしたら案外体が様になって居ることに、俺は薄々ながら気がついた。
「なるほど?これは多分アレか?……ネルラ君は剣を振るのが趣味だった……とかかな?なんというか染み付いて居るって感じだね」
よく漫画とかで……
「剣聖は老人となった今でも、人生をかけて鍛え上げた剣の腕だけは決して衰えなかった。何故ならば体はソレを覚えているのだから」
みたいな話があるじゃん?あれってこんな感じなんだろうね。自然と、無意識的に剣を振る度に体がそれに追いついて来るって感じだね。
……まあ今回の俺は、目立たず怠惰にのんびりと生きるつもりだからノーマルの剣も振るう気は無いんだけどね。すまんねネルラ君。俺は戦いなんてしたくねぇんだ。
いや普通怖いでしょ。剣と剣をぶつけての殺し合い?魔物との命をかけた立ち回り?……やー怖いって。
言っとくけどこちとら生まれてこの方暴力沙汰とは無縁の人間だぞ?そんな奴が剣を振るとか有り得んて。
そんな風に思ったところ、ネルラ君は多分悲しかったのだろう。そんな感情が湧き上がってきた。
う、なんか申し訳ない感じがすごいッ。その上ネルラ君が自分の記憶を引っ張り出して……それを脳内に流してきた訳だ。
俺は僅か一秒にも満たぬ間に、人生で遊びなんてやった事がなくて、ひたすら暇な時間は剣を振り続けたネルラ君の姿を見せられた。
「お前はそれぐらいしか取り柄が無いもんな!」
「そうだぞネルラ!お前は魔剣士にならないと人生終わりだぞ!」
「ネルラ、お前は剣を極めろ。そしたらお前にも価値をつけてやるから」
「やめとけやめとけ。お前みたいな貧弱な奴が剣を握ってもなんも殺せねぇよ!」
うーん散々。だが村人にいくら罵倒されようとも、親に見放されようとも。ネルラ君は剣を振り続けたのだと。
……「僕には、剣だけしか無いんだ。知っている……知ってるよ。ああ、神様。……僕を見放さないでいてくださるなら……僕にどうか、どうか魔剣を授けて頂けませんか。……僕はそれしか道が無いのです」
そんな風なネルラ君の独白を俺は聞かされた。
……んー。いや確かに悲しいし、めっちゃ多分ネルラ君的には自分の待遇や未来を嘆いての行動だったんだろうよ?ただ
村で燻りながら何も出来ずに死ぬ未来か、魔剣を手にして破滅フラグによる悲惨な死を遂げる未来か。
俺はぶっちゃけた話、何も出来なくて死ぬ未来でいいと思う。人生何てそんなもんだ。本当に波乱万丈な人生何て……楽しくないのだから。
……結局、その日生きれる事を考えて……未来なんてどうなるか分からねぇからなぁ!何て文句をうたいながら酒を飲む。そんな風にネルラ君も生きていいと思うんだ。
まあそれは極端な話。実際この世界のほぼ全てのモブキャラはそうやって人生を終えていくはずなんだから、それでいいはずだ。
…………それでいいはず。だって痛いのは怖いし、戦うなんて以てのほか。人を殺す?嫌だよ殺人なんて怖くて気持ち悪くて。
どれだけ馬鹿にされても俺はのんびり生きれる人生ならそれでいい。そう思っているんだ。
そう心の中のネルラ君に伝えて、俺は誰に見せるでもなく笑顔を作る。
────ただ、その笑顔は多分苦しそうだったんだろうな。見なくてもわかるよ。
……それでもネルラ君には破滅フラグしか無い。何より、ネルラ君の破滅フラグは軽くて街一つが消滅。重ければ世界の崩壊を引き起こすレベルのものしか無い。つまり俺が迂闊な行動をすれば、人が死ぬ。無関係の人間を巻き込んでしまうぐらいならば、俺は自分の人生をバカにされてでも怠惰に……何もしないように生きて行くしか無い。
──だろう?
◇◇
「あ?役たたずのネルラ!どこほっつき歩いてやがった。お前のご飯は無いぞ、はん!当然だろ?お前は俺たちの期待を裏切ったんだからな!」
「そうよ!私達の出世を台無しにしたアンタが私は憎いわ!!」
家に帰るとそんな言葉を投げかけられた。俺はただ、「すみません」そう言って部屋に閉じこもる。
すると部屋の外から父親と母親がさらに心無い言葉を投げかけてくる。
「お前には失望した。明日にでも家の外に出ていけ。この家にお前のいる場所は無い」
「そうよ、アンタ何かに渡す食料なんて無いわ。分かったらさっさと部屋を綺麗にして準備しなさい。使えないクソガキが」
……なんとも酷い親だ。とも言えないのがな、いやよくわかる話だよ。
実際この家の状況的にあんまり裕福とは言えない状況で、子供を三人も育てているのだから……。それは確かに一番役に立たないであろう存在の切り捨てをするのはよく分かる。
だがネルラ君はそんな状況が理解できなかったのだろうね。目から涙が自然とこぼれて、床に水跡を残した。
……かくいう俺も、いきなり捨てられるとは想定していなかったので……必死にこの周囲のマップを思い出していた。
いや別に確かに一人で生きて行くのは不可能では無いのだ。そもそも世の中と言うかゲームの時には、10歳で旅をしながら各地を巡っていたやつも居たぐらいだしな。
……クソ、やっぱり魔剣……納屋に持って行った魔剣を持ってきて破滅フラグと引き換えにしばらく居座るか?
いやダメだ。破滅フラグで余計に人が死ぬぐらいならば、魔剣は要らない。
……そうだ、確かこの近くにダンジョンがあったはず。そこにしばらく泊まってそれから街を巡って金を稼ぐしかないか?
……でもそれは魔物と戦わなくてはならない道だし、場合によっては人と戦う羽目になる……クソ、割り切るしかないのかっ!
俺は一人、悩み続けた。一応俺が追い出される話は村の人たちに伝わっているようで……何人かが煽りにきたりした。一応ご飯をくれた親切な人はいたので、腹が減って何も出来なくなる事はなかった。
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