第3話 魔剣降臨の儀
しばらくした後、俺達は協会の中で魔剣降臨の儀に参加することになった。
「皆さん、ここに集まったのは【今年10歳】になった子供達。そうですね?」
神父の言葉に子供たちがきらきらとした目で頷く。
「では、皆様は神様に愛された子供達なのです!えぇこの歳まで生きれた事に感謝し、偉大なる女神【イングリシア】様より賜るのです!世界の理を犯せし魔剣を!!そして子供達よ、この世界を支配しようとする邪神【ラストオーダー】の魔の手から人々を救たまえっ!!」
そう言いながら神父は天に祈りを捧げる。直後集められた子供たちの手が祝福される。
勿論俺の手もぴかぴかと輝いていた。……案外綺麗だな?ゲームん時はもっと禍々しい感じだったのに……あれか?バイアスでもかかってるのか。
「それでは……皆さん、神父たる私【デモルナ】が皆様を祝福致します。子供達は目をつぶって……そして共に祈ってください。あなたの祈りが天の女神様に見染められますように」
俺は床に座りながら、正座で祈って……そのうえで周りの子供たちをちらちらと眺める。勿論片目はつぶっているのであんまり詳しくは見えないけどね。
…………『そなたらに力を授けようぞ』
突然頭の中にそんな声が響いた。その声に合わせて周りの子供たちがぐらっ……と揺れる。そして何人かの手が光り輝いたように見えた。
多分あれは魔法を使えるように祝福された子供達だろう。
そしてそれが終わったあと、またしても声が聞こえた。
…………『そして特別な力、女神の半身の力を……授ける時間である。覚悟は良いか?』
目の前が真っ白になった。あまりにも唐突なまでの白。そして直後に黒が押し寄せる。
あまりにも急な視界の移り変わりに、目が痛くなってしまった。
─────そして、近くにいたジーナの前に緋色のブロードソードが現れる。それをジーナがぐっと掴むと……次の瞬間ぶれていた輪郭がピッタリと合わさって剣がその姿を現す。俺には体から少しだけ炎が噴き出しているように見えた。
『其方には【フレイムテイル】を授けよう』
多分だけれどそんなふうに言われたのだろう。まあそこは想像だからあんまり合っているかは分からないけどね。
そして次はどうやらアッシュにその手を向けたようだ。アッシュがびくっと震え、そして目の前に魔剣が現れた。
ロングソードのような見た目の少しだけ派手なそれをアッシュが掴むと……剣の輪郭がしっかりとした。
『貴様には【ブレイブハート】を授けよう』
多分そんな風だったのかな?そして身体に光が流れ込んでいるのが見えた。
そして俺の番。とはいえ正直貰いたくない。だからあえて正直に言ってみようと思う。女神様にブチ切れられる可能性は無いとは言えないけどね。
俺の前に魔剣が姿を現す。真っ黒な刀身に、赤金の装飾を施した魔剣。破滅と破壊の術式を内包した恐るべき魔剣。
『貴様には【ディアゴスティード】を授けよう……どうした?』
どうやら女神様だろうか?俺はすぐに前に剣が現れた瞬間に、お願いをした。
「(あの……魔剣を貰わないようにする事は可能でしょうか?)」
『……なぜだ?魔剣はそなたらを助ける剣であり、それを貰うことは名誉な事であるぞ?』
「──(名誉……は要らないんです。俺はただ、のんびりと生きたい……そう思っているだけなんです ……もし良かったら他の人にあげたりとかって出来ないのですか?)」
女神様は案外ちゃんと聞いてくれているようだ。しばらく沈黙が流れたあと、少しだけ笑い声がした気がする。
『面白い、面白い、面白い!!我が力を拒み、あまつさえ他者に魔剣を譲り渡す。と?……は、ははは……ははははは!!!【面白い】【愚かなり】【図に乗るなよ人間風情が】』
途端、体がミシミシと軋む音がした。それが女神が怒っているからであることぐらいすぐに理解出来る。……やっぱり怒られるよなぁ……無理かぁ。
そう思って俺は諦めながら劫罰が下るかもしれないと、身構えていた。
だがそれもすぐに軽くなった。
何が起きたのだろうか?そう俺は思って薄目を開けると──────え?
◇◇◇
俺は見てしまった。見えてしまった。俺の目の前に姿を表した魔剣【ディアゴスティード】を……別の人が握っていたのを。
その男、ロブタは誇らしそうに【ディアゴスティード】を掲げていたのだ。
『ふむ、面白い事もあるのだな。受け渡しの最中に横入りで人の魔剣を奪う……と?くははっ!つくづく人間は愚かであるなぁ!……ははは面白いでは無いか!!』
だがそんな言葉をあんまり頭に入ってこなかった。ロブタが魔剣を奪った?そんな事があるのか?人に手渡しされるはずの魔剣を、手渡しさせる前に奪い取ることで所有者を変更するとはね。
あっぱれだよ。ロブタ君……そして俺は聞いてしまったんだよね。今さっき……ディアゴスティードを手にした瞬間に……チート武器ゲットなんてボソッと呟いたのをね。
……お前転生者かよ。そりゃゲーム内とは印象が変わるわけだわ。中身が違ぇんだもんな。
まあ何となくだけど俺が予想する流れはこうだ。ロブタに転生したやつはおそらく自分が魔剣も貰えない、ただ主人公に倒されるだけの哀れな貴族である事を変えようと思ったんだろうね。
そしてその為にけっこー努力して体型から中身、評判とかも全てまっさらにしたんじゃないかな?
その後、魔剣を手に入れで学院に行くため……かは知らないけど……この区域どころかこの世界で最強チート武器の【ディアゴスティード】を本来の所有者のネルラから奪って、それを自分の魔剣にしてしまおうとしたわけかぁ。
……アホかなこの転生者。え?なぜそんなふうに思ったかって?そりゃ決まってるでしょ──、
魔剣ディアゴスティードは破滅をもたらす魔剣だぞ?そんなものを最も適合率が高かったネルラが持っていた時でさえ甚大な被害を何度も起こした暴れ魔剣だぜ?
それをただの転生者が操れるとは思えねぇってだけだよ。
まーひょっとしたら中の人がめちゃくちゃ知識チート野郎で、ディアゴスティードを暴走させないように操る方法とかを知ってる可能性を……ま、2%ぐらいは期待しといてあげよう。
まあなんにせよ、俺はこうして魔剣を手に入れること無く魔剣降臨の儀を無事に終えることができたのであった。
◇◇◇
「「「「「おおおぉ!!!あれが魔剣!!しかも今回は……三人も?!すごいぞこれは宴だ!」」」」」
教会を出ると、魔法を授かったもの、魔剣を授かったもの達の前に人だかりが自然とできる。中でも当然ながらロブタは持ち上げられて称えられていたよ。
「ああ、爺や!ロブタ様が魔剣に見染められるという素晴らしい状況に、感激しておりますっ!!」
「流石はロブタ様!一生着いていきます!!」
「ロブタ様万歳!!」
どんどん人が集まっては褒め称えられるロブタ。さらに隣にはジーナがちょこんと座っており、アッシュも自分達を取り巻く人々に唖然としながら……それでもイケメンスマイルだけは絶やさないようにしていた。なんすかあの技術。ポーカーフェイスの強化系?
にしても村人の顔、別にあんたらが魔剣手にしたわけじゃないのになんでそんなに誇らしくしてんだよ怖っ。
「皆様!今宵は存分に飲み明かしましょうぞ!!」
とかのたまって大量の酒とご馳走を村の集会所に運び始めていたし。それにロブタも、参戦の意思を示したせいかもはや村総出で魔剣士の誕生を祝っていた。
村人たちは次々と準備を始め、そして気がつくと深夜になっていた。
村の皆に囲まれた魔剣士達が次々と祝福されて、幸せそうに楽しそうに笑っている。
そして俺はと言うと。
◇◇◇
「あんたは寝なさい。ふん、まさか魔剣も……せめて魔法でも貰ってくれば良かったのに、そのどちらも貰えないゴミだとはね!」
「はぁ。お前は早くロブタ様を見習って沢山の人々にしたわれるようにした方がいいぞ?」
と言われながら、一人寝床に蹴飛ばされて入れられたのであった。
◇◇◇
そして人が居なくなったのを確認して、俺は────、
「やっっっったぁぁぁぁぁあ!!!破滅フラグ……無事回避成功っ!!!!」
全力で喜びの舞を踊っていた。ネルラ君の破滅フラグの殆どは魔剣によるもの……そしてその魔剣は今は別の人のものになっている。
つまりここからの人生はゲームには存在しないルートというわけであり、あまりにもサイコーすぎる結果に俺は興奮が収まらなかった。
「はー最高っ!まじナイス判断だぜ!ロブタの中の転生者!これで俺は晴れて怠惰に生きる事がしばらくは出来る。…………はぁ、それにしても今日は一気に疲れたな。休むか……」
俺は興奮しながら、布団に入り……そして一瞬で意識をブラックアウトさせるのであった。
◇◇◇
次の日の朝、俺は目を覚ました。
気持ちのいい朝。最大の破滅フラグを回避できた事で俺は気が抜けていたのか、ぼけーっと目を擦りながら身体を起こして…………。
そして見てしまった。気が付いてしまった。触ってしまった。
枕元に置いてあった魔剣を。
─────ひ……ゃへ?
人生で一番情けない声を出した。ついでに漏らしかけた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます