第2話 魔剣を貰う直前の話
「そうじゃん!そうだよ!魔剣が原因で破滅フラグが建つなら、そもそも魔剣を貰わなければ良いんだよ!」
……で、どうやって貰わないようにするつもりですかね。まあ冷静に考えたらそんな事出来るわけが無いんですが。ワンチャン賭けてみるのが最善策なわけないですし、もっと冷静になりましょうね俺。
その後しばらく考えたが、これといって魔剣を受け取らないようにする作戦は思いつかなかったネルラであった。
◇
気がつくと時刻は夜になっていた。
星空が綺麗だ。さすがに田舎って感じだな。なんて言いながら明日が来ないように祈ることぐらいしか俺に出来ることは無さそうだった。
「はーーーー。どうしたら良いんじゃろなぁ。明日が来ないようにするには……」
途中から、魔剣を貰わないようにするじゃなく。
明日が来ないようにするには?という点に論点がズレてしまったのは、多分俺がビビりだから。何より自分が無力な事に薄々気が付いてしまったからかもしれないけどね。
───ネルラ……君はどうすればいいと思う?
「まあ答えは無い、か。そりゃそうだよね……自分の道は自分で決めてくれ。そんな風に思ってるんだろ?君も」
返答は無い。しかし何となくだけど"うん"と言っているような気がした。気がしただけだからあんまり当てにならないけどね〜。
◇◇
そして朝がやってきた。
「おはよう、お母さん」
ネルラとして母親に挨拶を交わし、寝不足気味な目を擦って目を覚まそうと頑張ってみる。
「ネルラ!アンタ楽しみすぎて寝れなかったんでしょ?!くまがすっごくお似合いよ?」
窓の外から誰か知らんガキにそう言われた。なんだあのガキ、年上にはもう少し敬意を持って敬えよ!?
そんな風に思いながら、俺は服を着替えて……ってか昨日はあんまり気にしてなかったけどこの服めっちゃがさがさして痛いな。あー布じゃなくて麻でできてるからか?
「ほら、ちゃきっとしなさい!ネルラ!絶対魔剣を貰ってくるのよ?!貰ってこなかったら……あんたの居場所はこの家には無いからね?」
何だこの母親。普通にクソじゃんかよ。子供……それも10歳のガキにかける言葉じゃねぇよそれ。
母親にドヤされながら、俺は家を出る。
ちなみに父親と思わしい奴は朝っぱらから村の警備の為に駆り出されてるそうな。……ご苦労さまです本当に。
◇◇◇
「ネルラ〜〜おはよぉ!……えへへ、魔剣どんなのが貰えるかな?楽しみだね!」
「ああ、おはよう……えっと───、」
突然知らん女に話しかけられたので、俺は持ち前のコミュ障を発症して黙りこくる。するとその女は俺に近づき、そして──、
「あ、寝てなかったんでしょ?わかるわかる!私も昨日すっっごく緊張して、寝れないよーって思ってたもん!……えへへ……だからほら……よく見るとくまが出来ちゃってるの!……でもお揃いだね!」
「あ、う、うん?……」
近い近いって!?ふんわりとした赤髪の女の子は、俺に顔を近付けて、はにかんで笑ってそう言った。ふわりと鼻を突くラベンダーの香りが心地よかった。
ラベンダーの香りは昔からあんまりに好きじゃなかったけど、ちょっと良いかもな?なんて思ってしまったよ。
……そう言えばこの子、何処かで見たような?
そう思っていると、ネルラ君が多分気を使ってくれたんだろうね。この女の子に関する記憶を引っ張り出してくれたよ。ほんとに優しい子だねネルラ君は。
「ありがとう、ジーナ」
そう俺が口に出すと、ジーナと呼ばれた少女は満面の笑みを零した。そしてちょっと女の子と会話出来たぜ!ヒャッハーとか思っていた俺の手を握ると……ダッシュし始めた。
「早く行こ!ネルラっ!……ほらほら、皆集まり始めてるよ!?」
そう言って駆け出すジーナを、俺は呆れながらも優しく見つめる。
───ジーナ・グロウ。俺は彼女を少しだけ知っている。
確か彼女が出てきたのは学院編の真っ最中、シナリオの中盤に差し掛かった辺りだったかな?
彼女は魔剣【フレイムテイル】を所持する魔剣士で、プレイヤーと敵対するはずの人物だ。
ちなみに敵対の理由は確か……近くにいたネルラ君をバカにしたから、みたいな感じだったはず。
確かこの子は、ネルラ君が好き過ぎてネルラ教を作ろうとかまで言い出して……最終的にプレイヤーの手で始末されると言う運命を辿ったはず。ちなみに俺はあんまり好きなタイプのキャラじゃなかったので全然悲しくなかったよ。
だから俺は最初この子を見た時に、誰?って思った訳か。
そうやって俺はジーナに引っ張られながら教会までの道を共に走る。
風が気持ちよくて、少しだけのどか乾いた気もするけどね。
そうして教会にたどり着く、直前のこと───。
「おや、ジーナちゃんにネルラ君じゃないか!……」
まさに勇者!みたいなやつに話しかけられた。あーこいつは誰だかすぐにわかったぜ?俺は記憶力には自信があるからね。
「久しぶりだな。アッシュ。……お前はなんとなくだけど魔剣を手に出来る気がするよ」
「はは……そこは運、だからね。……でも僕はここまでその運を高めてきたから……今回魔剣を手にするのは僕だ。そう言い切れると思うよ」
なんという自信だ。あまりにも盛大なフラグのような気もしなくもないけど、まあ実際ゲームでもこの少年もとい青年は魔剣士だからなぁ。
アッシュ・シュテラ。金髪碧眼の美少年というかイケメン?キャラクター人気投票第五位のキャラクターだね。
渾名は【辺境の勇者伯】だったかな?まあ、本物の勇者では無いけど、それに匹敵する実力を持っている男だね。
ちなみに手にするはずの魔剣は英雄剣【ブレイブハート】。光属性の貴重な魔剣だ。
……まー俺は野郎にはあんまり興味無かったから、尽くイベントスキップしてたからあんまり情報が無いんだよね。うんなるべく関わらないようにしよっと。
「────ネルラ。そしてジーナ、アッシュ。……なるほど君達がどうやら最後のようだね」
突然そんな声がした。声の主は誰なのかを確かめようとすると、その声の主はすぐに現れた。
「アズバルド・ロブタ様?!な、なぜ公爵の息子様がこんな僻地にわざわざお越しになられたのでしょうか?!」
そこには赤と金の豪華な服に身を包んだ金髪の男がいた。周りにはおそらく執事とメイド?それから護衛を沢山引き連れていた。
「爺や、メイドの皆、着いてきてくれてありがとう。……下がっていてくれ。ああ、ちょっと待った!村の皆……顔ををあげてくれ。私は別に君たちを驚かせようと思って来たのでは無いんだ!……私は今朝ね、ここの教会で魔剣を授かるべきだとお告げがあったからに他ならないのだよ。……それに我が領民たちの姿を見ておきたかったからね」
そう言って、にっこりと微笑むロブタ。そしてその姿を見て俺は…………唖然としてしまった。
…………なぜ俺が唖然としたのかと言うと、それには原作が関係している。
原作【剣と魔法のイングリシア】において、アズバルド・ロブタは確かに登場する。
だがそれは主人公達を邪魔するという所謂悪役としてだ。ちなみに魔剣は持って居ないはず。
その時の見た目は、まるで丸々と太った豚のような見た目で……隣には嫌がる女をはベらせて下駄な笑みを浮かべる男で……パーティーメンバーの女子を見て。
「お前、それ、よこせ。俺様のもの。げへへへ」
とか言って攻撃してくる奴だったのだ。それが……えぇ……?
前にいるのは爽やかスマイルのイケメンで、メイドにも当たり散らすことなくそれどころか感謝までして?
「ジーナ、しかし君はいつ見ても美しいな。アッシュ、君は前よりも逞しくなったんじゃないのか?……ネルラ……は、以前より目付きが優しくなったな……」
……そしてこんな言葉を喋った……へ?
訳の分からない事が起きすぎて、俺はただ唖然とみんなに挨拶をしてキャーキャー言われるロブタを見つめることしか出来なかった。
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