第一章 聖剣の国【ホルグレイシア】

第32話 新たな始まり

 えぇ、皆様お元気お過ごしでしょうか?

 私は今地獄におります。──などと書けば現状の把握ができるかと思ったけど、そんな事ないな。


 溜息を吐き、そして静かに眼前の死に生きるものアンデッドの群れを睨みつける。


 どうしてこうなったのか?それは聖剣の国に着いた俺に最初に与えられた指示が原因だ。

 それは、死に生きる存在が溢れ出しだ墓地とその近くの街の奪還に赴くこと。


 そんな任務だった。

 別に受けないという手も有るにはあったが、あまりにも期待を込められた目で見られたのだ。断ったら逆に今後どんな扱いを受けるのか分からない。


 なので俺はまるで知らない人達と、まるで知らない街と墓地の魔物、魔物かな?人の死骸にゴーストが宿ったそれらを倒す事になったのだ。



 ……だがはっきり言ってかなり苦しい戦いだった。

 溢れ出したとか言っていたから、俺はてっきりゲームとかで良くある100体ぐらいか...多く見積もっても1000体ぐらいだろう。と


 そんな甘っちょろい目算を立てていた。

 お笑い草だよほんとに。


 俺がその墓地と街を眺められる場所にたどり着き、見たのは────。


 だった。軽く見積っても10000体はいるだろう。

 そしてそいつらは皆。何処からか引っ張りあげてきたのか定かじゃないが、皆総じて鉄製の武具や魔法武器などを持っていた。


 そしてそれに対するこちら側の戦力は...僅か5人。

 ちなみにその5人は俺も含めてだ。


 ...まあそのうちの4人はさっき逃げていった。

 俺を突き落としてな。


 そして現在俺は少しだけ高い街のモニュメントの上から登ってくるアンデッドの群れを必死に消し炭にしている最中という訳だ。


 ...死に生きるものたちの匂いは、はっきり言って不愉快だ。

 簡単に言うなら葬式場の匂いを100倍ぐらいに濃くした感じ?

 まあつまるところ、不愉快より出ることは無いがかなり不愉快だった。

 時折ドブ川のような鼻につく匂いや、硫黄のような吐き気を催す匂いも混ざっていた。


「...いくら浄化しても、消し飛ばしてもきりがねぇ」


 俺はそもそも別に神聖魔法を熟知しているわけじゃない。それにまだ見習いレベルのはず。


 だがそんな事お構い無しにあの聖騎士や聖剣士達はこの任務を押し付けて来たのだ。

 言っとくがこっちはまだ11歳のガキだぞ?


 その時任務を言い渡す時の聖騎士や聖剣士さんの目はかなり辛そうだったから、まあお偉いさんの指示だろうね。

 じゃ無かったら神経を疑うわまじで。

 ──いややっぱり頭のおかしい奴らばっかだったなそう言えば。


 幸い神聖魔法はアンデッドに効果てきめんなので俺が特にピンチに陥ることは無かった。

 とはいえさすがに環境が悪すぎる。


 夜通しこんな奴らとずっと戦っていたら自律神経をやるぞマジでよ。


「──よ。我が名に於いて誓う。道標はここに、屍に救いを。救済は訪れる。


 誓いは何処に、果てなく続く螺旋の灯火。

 遍く神秘は循環し、巡りゆく運命に終止符を


 ───神聖なる星光よここにセイクリッド・スターライト!!」


 俺はすぐに頭の中に浮かび上がった祝詞を唱える。それが何を意味するのか、何を叶えるための力なのか。そんなことは知らない。


 ただソレを唱えるべきだと、言われた気がしたのだ。


 手の中に渦巻いた光が空高くに打ち上がる。

 そしてそこから放たれたのは、夜空に煌めく一巡りの星灯だった。


 星灯に照らされたアンデッド達は次々と消滅して消えていく。


 やがてその魔法が消える時、街にも墓地にもアンデッドの姿は無くなっていた。


「...案外すぐに片付けれたな」


 俺は再び夜空を見た。

 星も輝きを失い、月もその姿を雲の中に隠した静かな夜空を。


 ◇◇◇◇


 ネルラは知らない。

 今使用した魔法がどんな魔法なのか。


 神聖魔法・【神聖なる星光よここにセイクリッド・スターライト


 それは星の力を借りる、人には辿り着けぬ魔法の一つ。

 の属性を持つ存在が神聖魔法と言う名分を利用して放つことが許された魔法の一つ。

 ネルラは神聖魔法の中で、ただ一つの星を操る少年である。


 そしてこの出来事は、様々な歯車を動き出させるきっかけとなるのだが、ネルラはまだ知らない。






  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る