第33話 その後処理

「……彼は大丈夫なのだろうか……」


「何言ってんすか?ゲイルさん?」


 どうやら私は自分の口もろくに閉じれない人間だったらしい。隣にいたシスターに普通にタメ口で尋ねられてしまった。


「……ああ、私の新たなパートナーなのだが……」


 そう言って私は静かに彼が向かわされた場所の事を思い出す。


【ノーク】それがあの子ネルラ君が向かわされた墓地都市だ。

 最も別に墓地が都市な訳じゃなくて、という理由でそう呼ばれているからだ。


「……パートナー?少なくとも私達に知らされている情報によると、使い捨ての駒だと記載されて」


「誰だいそのクソみたいな情報を書き記したクソ野郎は」

「?!ち、近いですッ!……目、目が……ひっ!」


 おっと私とした事が。どうやら無意識的に殺意を向けてしまっていたようだ。ごめんね唯の何も知らされていないだけの哀れなシスターちゃん。


 私は気絶してしまったシスターに服を着せて風邪をひかないようにしながら、天を仰ぐ。


「……やっぱりあのロクデナシ議会め。私達に黙って判断をしやがってたんだなクソめ」


 普通に反吐が出るよ。私たちが知らされていた情報は、。とかいう指示だったというのに。


 ……上からの命令じゃあ仕方ない、とは言いきれないんだよね。


「せめて私が聖剣を放てる状態であれば、あんな馬鹿どもぐらいちょちょいとボコして……ん?」


 仕方無かったとはいえ、力のない自分を少しだけ恥じていたその時。誰かが帰ってくる足音が聞こえた。


「……おや、早かっ─────待った。君は?」


 そこに居たのは、ネルラ君と共にノークの街に赴いていたはずの聖騎士たちだった。


 ◇◇◇


「ネルラ君はどうした!?」


 私はそのうちの一人、メイスを持った男に詰め寄る。するとそいつは


「え?あんな使えないガキ、囮にしましたよ?」


 とほざいたのだ。なるほどこいつは後で殺す。

 私は内なる自分を何とか律しながら……まあ全く律せていなかったのだろう、体から風がビリビリと吹き荒れて私の目はどうやらバキバキに血走っていたのだろう。


「?!ひ、げ、ゲイル様落ち着いてください!そうですよあんなザコ……」

「お前たち、あれがザコ?使えないだとッ!?……アイツはだぞ!?それも圧倒的な強さの将来性を秘めた────ッッ!!こうしちゃ居られないっ!」


 私は慌てて駆け出す。

 聖剣士たちは唯唖然としていた。


 と言うか待ってくれ、君たちあれがだと気が付かなかったのか!?とブチギレたくなったが、それでも私は自分の足を止めることは出来なかった。


「クソっ、無事でいてくれよ!!」


 駆けながら、自分がついて行くべきだったと後悔をしながらゲイルは薄暗く、月明かりすら無い夜道を駆け抜けるのであった。



 そして、見た。


 伽藍のように静まり返ったノークの街、その中心街で。


 姿


 ただ唖然とする疲れきった私の前に、彼は特に気にするでもなく───、


「?マシュマロいりますか?今なら焼き加減調整出来ますけど」


 そういったのだ。

 ちなみに私はマシュマロは半分ぐらい溶かして残り半分を生の状態で食べるのが好きだ。


 じゃなくて。


 ◇◇◇◇


「た、倒したのッ!?ここのあれだけいたアンデッド!……ぜ、全部ってう、嘘でしょぅう?!」


 なんかめっちゃ驚いてるゲイルさんを見ながら、疲れきって汗だくの騎士ってのも案外乙なものだなぁ。とか呑気なことを考えていたネルラ。


 ルクスが少しだけ、不満そうに鞘の中で揺れたような気がしたけど多分気の所為だろう。


「まあ割と楽勝でしたね」


 嘘である。この少年ここを表現する時に地獄とか抜かしていた癖に、この際だけ少し余裕ぶっこいて見せているだけだ。

 まあ見栄?とでも言うのだろうか。


「なんならあと100倍ぐらいに来ても全然へっちゃらですよ!」


 だから嘘である。正直さっさと帰って寝たい。

 ただこのゲイルと言う女騎士に唯ひたすらにカッコつけてるだけなのだ。

 ──別にカッコつけて俺なんかやっちゃいました?みたいな風に見せたいわけでない。


「…………良かった……君が無事で……」


 ゲイルはそう言うと泣き崩れるようにネルラに抱きついた。

 鎧で抱きつかれたので硬い胸当てが顔面を殴打したが、それでもいい匂いがするなぁ。とか呑気に心の中で思える程度のネルラの中の人なのである。


 ◇◇


「あ、そういえば俺を見捨てたあの人たちどうなるんですか?」


 俺はゲイルと共に帰る道すがらその事を尋ねる。


「ああ、あいつらは左遷かまあ今月来月の給料無しだな。そもそも子供を見捨てて逃げてくるとか、精神的に終わってるからな。後でみっちり搾り取ってこき使ってやろう」


 そう言って拳をボキボキと鳴らすゲイル。

 その表情は誰が見ても、"あ、怒ってるなマジのやつで"と思える程の顔であった。


 ◇◇◇◇



 次の日、どうやらあのノークの都市はこの近くの魔物を討伐するための新たな騎士団の拠点になるらしい。

 ちなみにゲイルさんが俺がやったとちゃんと報告してくれたらしい。


 まあそんな事は今はどうでもいい。

 俺は今────、


「……ひっさしぶりのふかふかベッドォォォォォ!!!ヒャッハァぁぁぁぁ羽毛は最高だぜぇぇぇ!!!」


 ふかふかのベッドと、羽毛ぶとんに抱きついて幸せを享受している真っ最中であった。













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