第34話 騎士王
ふかふか、ふかふかは幸せ。幸せとは即ちふかふかがある事。
「んふぁぁぁぁあ!!久方ぶりの布団!布団!!」
ばさばさと羽毛布団にくるまる。
少しだけ太陽の匂いがしたので妙に眠気が襲ってきた。
と言うか久しぶりにちゃんと眠れる空間にたどり着いたのだ、仕方の無い事だろうさ。
今回はわざわざ羊など数える必要も無く、そのまま簡単に夜の闇に落ちていった。
──最も今は朝だが。知った事では無い。
◇◇◇◇
朝から寝るなんて、と誰かに文句を言われた気がする。
──うっさいわ!こちとらなんかよく分からん仕事押し付けられて夜をすごしたんじゃ!
……「ひっ!?」
どうやら声が漏れていたようだ。様子を見ていたシスターさんがびっくりしていた。
「うんうん、やっぱり君も声を出してしまうタイプだったか!」
壁の横からそんな声が聞こえた。誰かは知らないが、多分ゲイルさんだろう。少なくともそんな人は彼女ぐらいだろうし。
……怖いけど別に悪い人じゃないんだよなあの人……人の貞操を狙ってくるとこ以外は。
「まあそこは許してませんけどね!」
ルクスも同じ気持ちのようだ。まあ少なくともこの国の中で一番まともな予感が……いや待てあの人がまとも判定で良いのか?
わからん!怖いよこの国の人!!
◇
その日ゲイルからの報告を受けた議会は大荒れていた。
「───馬鹿な!あの街、長年放置されていたあの霊墓を浄化した、だとッ!……」
議長と呼ばれる男が飛ばした唾を、払い除けるように隣の女が答える。
「どうやらその様ですね。ゲイルが嘘をつくことはありませんから、事実なのでしょう」
「おいおい!……なら聖女サマと互角の新人って訳か?……嘘もたいがいにしたまえよ!」
「黙れ。少なくとも事実としてあの霊墓が浄化されたのだ。……ソレを嘘だと言い切れるほど我らはアホでは無い!」
「だがどうなる!他国の人間だぞ!?それが聖女様と互角の力を有している……あってはならん!!」
議会は大荒れだった。
国を支配する議会、その中の誰もが信じられない報告を唖然と聞き入れていたのだ。
そしてそこに、一人の女性が現れた。
「────ふん、そんな奴が。……なるほど聖剣士達の話を嘘とは私は思わぬ。……こんな安全地帯で引きこもっている貴様らには少なくともその少年をどうにかすると言う権限は無いぞ」
「「「「?!き、騎士王様!!何故ここにッ!!」」」」
そこにいるのは、騎士王。この聖剣の国を支配する最高権力者にして、最高位の聖剣士。
名を───、【アルトリウス】金髪碧眼の女騎士。
数多の伝説を築き上げ、数多の魔族を狩り殺した英雄。
「どうした?私がここに来るのがそんなに怖いか。ふん、貴様らは相も変わらず腐りきっているな」
「ははは……そんなことを言わないでいただきたい。我々はあくまでもこの国をより良い形にしていくだけなのですから」
一人の禿げ上がった男が反論を零す。
「そうか。それでこの国は一体いつ良くなるのだろうな?少なくともこの国は君らが議会で話し合っている間にどんどん破滅の運命を辿っているのだがね」
そう皮肉を込めたアルトリウスの言葉に、議会は再び静かになる。
「──成程、黙るのはお家芸か。ふん、やはりここに来るのは楽しくないな……所で貴様らにはあのネルラと言う少年は御せないだろう。その案件、私が貰ってもよろしいか?」
「?!き、騎士王様!……かの者は……その」
眼鏡をかけた老人がなにか言おうとしたのだが。
「なんだ?私に意見があるのであれば、剣を持って話し合う事を推奨するがね。──最も君たちにその勇気があればの話だが」
そう言って聖剣【エクスカリバー】を引き抜こうとするアルトリウス。同時に発せられた殺気に当てられた何人かが泡をふいて倒れた。
去り際、アルトリウスは静かに「軟弱者どもめ」と呟いてその場を後にするのであった。
◇◇
「ふん、小娘が!!あやつ調子に乗りおって!!」
彼女が去った後、議会で何人かの議員がブチ切れながら愚痴をこぼした。
「……聖剣さえ奪えば、あんな小娘ッ!!」
だが誰もが勝てないことを知っている。故に静かに黙りこくるのであった。
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