第35話 新たな破滅フラグ
「……おやおや、つつがないですねぇ。皆様どうなさいましたか?」
沈黙していた議会の中に、一人の男が現れた。
見た目は30代程、特筆すべきは……。
まるでこの世のものとは思えぬ程の寒気を纏って居ること。
「貴様、何者だ!……何故ここに入って来れる!?」
先程唾を飛ばした男が再び声を荒らげる。しかしその声が響くことは無かった。
「煩い。静かにしたまえよ、愚かなる矮小な小物共め。──私は君たちにこの国の政権を奪う手立てを教えに来たのさ。君たちだって悔しいだろう?あんなぽっと出の小娘にこの国を奪われて」
「!……我々は……別に……」
「悔しいんだろぅ?あぁ分かるとも分かるとも。私も君たちの気持ちはよぉく分かる。……君たちはあの伝説の聖剣【エクスカリバー】を所持する小娘には力で勝てない。──だから私が君達に力を貸してやろうと言う話なのだよ」
その言葉にその場にいた全ての議員が押し黙る。
実際議員達はぽっと出であるアルトリウスをあまり好いてはいなかった。
アルトリウスは元々カリバーンと呼ばれる聖剣の使い手であり、聖剣士のトップとして議会に仕えていた。
だが一年前……あの女が聖剣エクスカリバーを手にしてから全てが狂ったのだ。
あの聖剣を所持するアルトリウスには如何なる魔法も道具も、武器も効かなかったのだ。
有り得ないほどの再生能力、何人たりとも触れることの出来ぬ聖防護結界。
そして魔物であれば触れるだけで消滅させる程の圧倒的な力を持つ聖剣。
カリバーンを使っていた頃から強かったアルトリウスは、最早誰にも止められぬ化け物と化してしまったのだ。
「……本当に奴を倒して、この国の政権を取り戻せるのだな?」
一人の男が苦虫を噛み潰したような顔でその男に尋ねる。
彼は元々この議会の中で財政を任されていた男だ。だがアルトリウスがトップに立ってから裏工作も裏金も何ひとつとして得ることが出来なくなってしまった。
「ああ、嗚呼、簡単さ。なぁに私は約束はたがわないのだよ。───私はねぇ、変えたいんですよ。このたかがひとつの聖剣如きで支配されてしまっている哀れな国を!!」
熱く語るその男。その目はまるで宝石のように輝いていた。
「……お前、名前を名乗れ。……我々に力を貸してくれると言うのなら」
一人の禿げ上がった男がそう静かに尋ねた。
この男は元々騎士団のトップだった男だ。だがその凶暴性をアルトリウスに咎められ、この前副団長に成り下がってしまったのだ。
それでも家の力を使って何とか議員としての立場は確保していたが。
「───私の名前はねぇ。……ヴォーティガン、そう、かつてとある王国の王様であり……その立場を奪われた亡霊さ」
そう言うと、
◇◇◇◇
「……不愉快な風が吹き荒れているな」
議会を出て、歩いていたアルトリウスは吹いてきた匂いに顔を顰めた。
聖剣が震えている。
……何か面倒な事が起きる予感、それが体を貫いた。
「……やはり議会は潰すべきだったか?だが私はあまり政治に詳しくは無いからな。ふん、腐っているとはいえアレらはまだ使い道はあるからな」
そう言って震える聖剣をぐっと握りしめたアルトリウス。
だがその表情はあまり良いとは言えなかった。
「───問題無い。この聖剣がある限り、私は決して負けないし死なないのだから。私は叶えてみせる。理想の、たとえ夢物語だと笑われようとも、この国を魔物に支配されているこの国を導く。……と」
それは紛れもなく、破滅フラグである。
もしこの場にネルラが居たのならば、即刻破滅フラグだと気がついていただろう。
だがアルトリウスはネルラとはまだ面識が無い。
夢物語はなぜ夢物語というのか。
叶わないからだ。そんな特大破滅フラグを、世界は容認しない。
哀れだよ、哀れ。
残念な事にアルトリウスは所詮ただの少し力を持っただけの小娘だ。
その力が聖剣に依存している限り、その結末は変わらない。
哀れだね。んまあ、これこそが物語の結末の中では、正しいのかもしれない。
だが、一つ忘れてはならない。それは、この物語の主人公は、異世界人であり、物語の破滅を作り出せる人間であるということ。
さあ、聖剣の国で始まるのはとある異世界人の作り出す破滅フラグを回避する最大の物語。
人は、その物語を後に聖戦などと言ったのかもしれない。
◇◇◇
「……なんか壮大なナレーションが聞こえた気がした。夢の中だったからかな?まあいっか」
ネルラはそういうと。再び眠りの世界を堪能するのであった。
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