第11話 【ドラゴンスレイヤー】

「……羊が17689…匹…羊が17690……匹……ヤギが821匹…………あ、ゴーレムリスポーンした……狩らなきゃ」


 俺はふらふらと立ち上がり、目を擦りながら剣を引き抜く。

 そのまま俺は倒れ込むようにゴーレムに飛びかかり、一突きにて沈める。


 最早感嘆の声を漏らす他無いほどに洗練されている一突きだった。最もネルラの中の人はそこまで凄いことだと認識はしていなかったが。


「……羊って空を飛ぶんだなぁ。ああ、あれは羊のドラゴンだったか……、何匹かヤギも混ざってたなぁ……ふぁ……眠っ……おやすみ」


 俺は集中力の限界に到達したので、そのまま死んだようにぐっすりと眠るのであった。


 ◇◇


 翌朝、俺はけたたましい戦闘音に驚いて目を覚ます。そしてを掴むと────、


「なんだかよくわからんが、とりあえず魔剣はグッバイ!!フォーエバー!!」


 俺はダンジョンから出ると同時に普段使っている剣の鞘で、フルスイングを魔剣にかました。

 バギィン!!と火花が散って魔剣が空の彼方に吹き飛んでいくのを俺は「ホームラン!!」と言いながら眺めたあと、そのままゴーレムを狩ることにした。


 狩り終えたあと、ふと先程の戦闘音は何だったのだろうか?と思ったので俺はダンジョンの外をこっそりと見渡してみる。


「んー何もねぇな?でもさっき結構デカイ戦闘音が響いてたし……よっぽどやべぇ魔物でも出たんかな?……そういやなんかギルドの人が前言ってたな?……」


 そうだ、確かにギルドの人も言っていたじゃないか。馬鹿でかい魔物が森の奥に現れたって。


「えぇ〜怖?あ〜でも確かにこの森型ダンジョンなら……あるか……」


 ◇


 俺がいるこのダンジョン【リクソダンジョン】の隣には、【深緑の森】と呼ばれる初心者向けの森があるのだ。

 ……最も初心者向けだったのはの中での話なんですけどね初見さん。

 というか俺がその森で狩りをしない理由がそこなんだよな。……この【深緑の森】は別名【中級者狩りの森】とも呼ばれている。

 理由はただ一つ。と言う点だ。


 ◇


 初心者は慎重だ。自分が初心者である事を自覚していて、尚且つ引き際を弁えているからだ。

 それは勇気がないからだ!とバカにしてくる人が居るかもしれない。

 ……正直その言葉もよく分かる。ただ、を履き違える事よりはマシだ。


 何より、共……つまりは中級者達よりはマシという事だ。


 武器が強くなって、戦闘経験値や使える魔法が増えたことで初心者の頃に気を付けていた、引き際の判断だったり慎重さが抜け落ちた中級者共。


 そんなヤツらを狩るのがこの【深緑の森】だ。

 ……原作者と開発者が意気揚々と語っていたっけな?

『私は中級者が嫌いなんだ。なんたって別にそこまで強くないのに勘違いばかり。装備が強くなった事で戦術を考える頭が抜け落ちた腑抜けども。アイツらを見ていると私は反吐が出るんだよ!……だから私はこの初心者用のふりをした中級者特攻ダンジョン型の森を作ったのさ!』


 ちなみにその発言はゲーム発売1ヶ月後に公開されたのだが、案の定ここで何百回もぶち殺された中級者プレイヤーの罵倒の嵐であったことなど言わんでもわかるだろう。


 ◇


 まああの戦闘音が響いてこないってことは多分倒されたんだろうね!にしても今日は何するかなぁ……正直干し肉ばかりで飽きちゃった感もあるし、そうだな今日は街に買い物に行こう!


 と言うか塩を探したい。と言うのが本音であるが。


 ◇


「おい、しっかりしろっ!リディ!!起きろ死ぬんじゃねぇ!!」


 私を呼ぶ声がした。私は


「…………うる……さいなぁ……ロック……耳元で叫ぶ……なよ……」


 平気だと。ピンピンしているんだよ?と伝えようと、言葉を捻り出そうとするが、妙にたどたどしくなってしまう。

 何事かと思って自分の体を撫でて見ると───、


「ああ……血が……こんなに…………」


 撫でた手には血の感触がした。ぬるりとしたそれを私は、まるで現実の事じゃ無いかのようにぼんやりと眺める。


「くそっ、くそっ!なんでこんな初心者用の森に……こんなが居るんだよっ!!」


 ロック……が何か必死に戦っている音がする。私も慌てて戦いに行こうと剣を手に取り……手?……あれ?私の


 私はぼんやりと反対の腕を見た。そしてあるべきだったそれが無いことに気がついてしまった。

 ああそうか。私の腕はさっき食べられたんだったな。


 私は酷く冷静に、記憶を思い出していた。


 ◇◇◇


「なんだと?【下級飛竜ワイバーン】の群れが街の近くに?だと?」

「はい!……一応街には迎撃用の装備はありますが、あまりにも数が多すぎまして……なのでロックさん達……」

「はっ!つまり【B】ランクパーティ【銀鈴シルヴァベル】に依頼したってわけだな?まあ任せろよ!」


 そう言うと、ロックと呼ばれた銀髪の青年は豪快に胸を叩いた。

 その表情は自分たちの実力に自信があると言う証拠だった。

 ◇


「ちょっとーロック?急に依頼受けてこないでよねぇ〜」


 そう言って文句を垂れるのは【銀鈴シルヴァベル】の魔法使い、【リンカ】。

 薄紫の髪の毛は中程でクルクルとうずまいて、穏和な……それでいて少しだけ吊り上がった目は彼女の優しい青の瞳をより際立たせる。


 彼女の年齢は14歳。だが年齢よりも少しだけ大人びており、そのお陰で最近年上の冒険者から色んな誘いを受けて迷惑だとぼやいていた。


「ははは……なぁに、すぐに終わるって。なんたって相手はDランクの魔物【ワイバーン】だぜ?……」


 対するロックと言う男は18歳。地方から来た夢見る青年。短髪の銀色の髪の毛が松明の炎で橙に煌めいていた。

 彼は腰に吊るした剣をカチャカチャと鳴らしながら嬉々として二人に話しかけている。


 私は「はぁ。あなたはすぐそうやって面倒な依頼を受けてくるのだけがめんどくさいんですよね 」


 そう言って肩をすくめる。


「俺めんどくさいかなぁ?!」

「かなり」

「結構」


 しょぼんと落ち込むロックを私……【リディ】は呆れながら見つめた。

 ───私達は【銀鈴シルヴァベル】と言うBランクパーティ……いわゆる中級者パーティだ。


 そして私達は自分たちのランク、Bランクと言う立場に少しだけ誇りを持っていた。



「それで?ワイバーン何体倒せば良いの?」

「あ〜聞いてなかったな。まあ10ぐらいじゃね?」

「───そんなに?」

「何俺たちなら余裕だって!!」


 そう言って、ロックはニカッと笑った。……その笑顔が最後になるとは思わなかったけどね。


 ◇◇◇



 私はぼやける視線の先でロックが吹き飛ばされるのを見た。ああそういえば、リンカも同じように吹き飛ばされていたっけな。


 ……大丈夫かな?リンカは。……魔法使いだし、防御に自信なんて無かったと思うけどな。


 ズシン。近くに落ちてきたロックは、ピクリとも動かない。

 慌てて助けに行こうとしても、目の前にいる……化け物がそれを許さなかった。


「───なんで、こんな……ところに…………【ドラゴン】が……いる……の」


 私の目の前にいた、【ドラゴン】はギラリとその瞳を此方に向けた。


 先程、私達がワイバーンを狩っていた時、突然ドラゴンが空から舞い降りてきたのだ。

 当然それに対応出来るはずもなく、私達は半壊させられた。

 ドラゴンは【AAA】ランクの魔物である。


 ……私の腕は簡単に食べられて無くなった。リンカは軽くブレスを受けて粉微塵になった。ロックは翼で叩かれただけで動かなくなった。おそらく次は私の番だ。


 ───ああ、このまま私は死ぬのだろうか。


 私はゆっくりと、後退りをしようとする。私の腕から垂れた血が地面にしょうもない線を描く。


 ズシン、ズシン。馬小屋よりも大きなドラゴンが、私を食い殺そうと近寄ってくる。金色の瞳孔が私の心臓をきゅっ、と締める。鼻息で私の髪の毛が吹き飛ばされそう。

 鎧を着込んだロックを簡単に吹き飛ばしたあの腕で殺されるのだろうか?

 それともリンカを吹き飛ばした吐息ブレス

 もしかしたら口で食べられてしまうのかもしれない。……あの牙、口で食べられたら私の骨なんて簡単に砕けてしまう。


 ───ああ、誰か助けて。


 私は涙を流しながら、必死に祈った。こんな時に魔剣士ならば簡単に倒せるのだろう。

 そんな妄想が自分を逃避させようとした……その時──────、


 突然ドラゴンの頭に《〈魔剣〉》が刺さった。そしてそのままドラゴンの肉体をボロボロと破壊していく。


 突然起きた出来事に私はただ、唖然とする他無かった。


 ◇◇◇


「そういえば、あの魔剣の名前……【ドラゴンスレイヤー】とか付いてたな……ドラゴンかぁ……戦いたくねぇなあ……化け物だし」


 ネルラは、そう言うと街に向かって駆け出したのであった。






















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