第10話 【フレイム・ベア】

 ダンジョンと言うか家に帰った俺は、干し肉を齧りながらつぶやく。


「案外何もなかったな〜〜」


 普通に考えたらあんなヤバそうな爺さんとか、"森の奥に魔物が出た"とか……普通フラグな気がするんだけどなぁ。

 え、いや別にフラグが起きてほしいって言うわけじゃないよ勿論ね!俺は普通に平和に怠惰を貪りたいだけなんだからね!!


 ふと、俺は干し肉を食べるのをやめて剣を見る。どうにも理屈じゃ分からないことが起きているであろうその剣を俺はじっくりと眺めながら内なるネルラ君に尋ねる。


「うーん、この剣ってどこで手にしたものとかわかる?ネルラ君?」


 ……そっか、"お父さんとお母さんから貰った贈り物"かぁ。そりゃ大切にするよね。

 俺は少しだけしんみりしながら剣を丁寧に床に置きまして……。


 ──待てよ?その両親に借金のカタにされてんだよな?ネルラ君は。


 別にしんみりする必要が無いことに俺は気がついた。と言うかすごいねネルラ君。自分を売り飛ばした奴らからの贈り物をこんな大切にしてるなんて!?


 俺は少しだけ憤慨していた。だがネルラ君は驚くことに自分を売り飛ばした父と母を恨んでは居ないのだと。


「……全ては運命って?……はぁネルラ君よぉ?……アンタ優しすぎるわ。と言うか甘すぎるって、普通自分を捨てた奴なんて恨んでも天の神様だって怒りはしないってーの!……むしろ野次飛ばしながら"やっちまえ〜!"とか言ってくるだろ多分」


 ちなみにゲームに登場した女神とかは、だいたいそんな奴らばっかである。なんつーかこの世界の女神ってアレな奴が多いんだよな。

 イメージとしてはビール片手に野球観戦しながらツマミを食ってるおっさん?それか推しのVTuberにスパチャ投げながらゲームで指示してくる奴?


 まあなんと言うかあんまりにも女神からはかけ離れた奴が多すぎるんだよね。


 と、そんな話をすると……ネルラ君は少しだけ笑って……それから"僕は自分が捨てられることも1つの運命として受け入れたんだよ"と答えてくれた。

 ───そっか。本人ネルラがそう思ってるなら、俺には文句を言うことは出来ないな。

 あ、ても殴りたくなったらいつでも身体貸すよ?


 そうネルラ君に伝えると、笑いながら"ありがとう"だってさ。なんつーかネルラ君が人気な理由わかった気がする。


 にしてもネルラ君前迄よりすっごい喋りが流暢になってません?なんか今までよりかなり自我を感じるんですが?

 ──え?前から?あ〜さいですか。


 ◇◇


 次の日の朝は案外早くに目覚めることになった。理由は外から聞こえる轟音のせいである。


「くうううううウルセェェェェェェ!!!!誰だこんな爆音ぶち上げてロッキンな音色を響かせてやがるクソ野郎はょぉぉぉぉ!!」


 ちなみに俺は眠りを妨げられる行為が一番嫌いだ。特に夜中に爆音で駆け抜けていくバイク、アレ普通にブチ切れ案件だぜ?

 ……え?田舎しかいない?まさか〜。


 コホン。……ともかく俺は爆音にて目を覚ますことになってしまった。


 なので俺はブチ切れながら飛び起きて……、それから目の前にあったを見る。

 そして同時に外の景色を観察して爆音の対象が何なのかを判断した。


【フレイム・ベア】という魔物だった。確かゲーム内では初心者狩りの魔物としてよく知られる魔物だ。

 サイズは大型自動車ぐらいで、赤褐色の体毛は燃え盛る炎のように風で揺らいでいた。ベアの名の通り見た目は熊であり、ニュースとかでよく見る熊をより凶悪にしたような見た目だ。


 もし普段の俺ならば───、


「うわぁ、戦いたくねぇ。なんでこんなとこにいんだよこんな初狩り魔物が……はーしっかたねぇ寝るかぁ」


 と言っていたであろうが、しかし今は色んな意味でブチ切れ中であった。

 俺は置いてあった魔剣を片手に掴むと、ダンジョンから飛び出して【フレイム・ベア】の顔面に向けてそれを渾身の一撃と共に叩き込む。


 半分ぐらい理性が吹き飛んでる気がするが、俺はとりあえず【フレイム・ベア】の口の中に魔剣を差し込むことに成功していた。


「「ぎゅぉおおおおおおお????!!!」」


 当然ながら【フレイム・ベア】は予想外の出来事に固まる。まあ当然ではある、なぜなら誰も居ないはずの死角から突然剣を持った男が飛び出してきて、挙句の果てに口の中に剣を差し込んでくるとか……誰だって困惑するってーの。


「あ〜うっせぇ!熊公が!!人が心地よく寝ようとしてる時に爆音轟かせやがって!クソッタレ挙句の果てに又しても魔剣が嫌がらせのように置いてあるし!!!あああもう!ゆっくり寝させろよぉ!!」


 ネルラはそう言うと、普段使っている剣をぶぉん!と振りかぶる。

 当然ながら【フレイム・ベア】は威嚇をしようとするが、先程口に突っ込まれた魔剣のせいで上手く威嚇が出来ない。そんな一瞬の状態をネルラは逃さなかった。


「森の奥にお帰りなさいませ!!」


 俺は鞘ごと鼻っ柱目掛けて振りかぶる。フルスイング、100点!と謎のナレーションが入った気がするが知った事では無い。


 その一撃により、【フレイム・ベア】は完全に戦意を喪失して立ち去って行った。


 ◇◇


「ふー、ふー、ふぅー。……やり過ぎたな」


 俺はどうやら知らず知らずの内に鬱憤と言うか、多分体を動かしていない時間が多すぎたせいで溜まりに溜まったエネルギーがあったのだろう。それを一気に発散した事で途方もなくスッキリとしていた。


 そしてダンジョンの中に入って横になると同時に……。


「やり過ぎだよバカ!俺のバカっ!……アレ絶対何か問題を起こしてるって!……魔剣を飲み込ませちゃったんだよ?魔物に!?……うわー絶対厄ネタ作るぞあれはっ!」


 自分のあまりにも短絡的な行動に、思わずうずくまってしまう。

 俺はバカか?……あんなもの確実に破滅フラグに変化して帰ってくるぞ!そしたら俺はどうなる……?死?…………。


 そんなことを考えた瞬間、遠くの方で何やら甲高い爆発音が聞こえた気がした。

 ただその時の俺は、破滅フラグルートに駒を進めてしまったのでは無いか?と言う恐怖の為にそれに気がつくことは無かった。


 ◇


「────と言うかよく俺は怖がらずにあんな魔物に飛びかかったな?」


 しばらく水を飲んで、リラックスした結果普段の俺を取り戻したので改めて先程の状況を確認する。


 あの時、無我夢中で最適な行動をとった気がするのだが……はっきり言うが自分の行動とは思えないんだよね。

 やっぱりネルラ君が代わりに戦ってくれたって感じかな?

 そう尋ねると、当然とネルラ君から返答があった。それを聞いてますますネルラ君が化け物な気がして俺は急に怖くなり始めたのであった。


「はぁ、とりあえず今日はもう寝よう。お金を稼ぐとかどうこうじゃない、疲れすぎたよ」


 俺はそういうと、まだ朝だと言うのに二度寝を決め込む事にしたのである。尚案の定寝る事は出来なかった。そりゃ当然、アドレナリンMAXで動いた後にすぐに寝れる訳が無いのだ。


 ◇◇


 その日【オルダ】の街のギルドに奇妙な報告が入った。


 内部から爆散して死んでいる【フレイム・ベア】を見つけた、と。


「おそらく魔法によるものでは無いか?」

「だがよく見ると鼻が完全に……鈍器で殴られた跡があるぞ」

「ふうむ、魔物による可能性はどうだ?」


 冒険者ギルドのトップ達が確認をしていると、大魔法使いと呼ばれる女がギルドに入ってきて……、


「ゼロ。これは人間の犯行。おそらく魔剣によるダメージだよこれは」


 そう告げる。


「なんと、魔剣士様がやってくれたのか!……確かにこの魔物は魔剣士様ならば余裕であろうな!」

「そうだね。ただ問題がひとつ……これを倒したの目撃情報が無いんだ。この【フレイム・ベア】は危険度【A】ランクの魔物。それをこんなふうに簡単に倒せる魔剣士の姿が無いのが妙で仕方がないんだよね」


 そう言いながら、大魔法使い【リアン・ルフ】は告げる。


「だからその魔剣士を探し出して見るべき、違うかな?」


 その言葉に皆はたしかにな。と頷く。


「そうだな、これだけの魔物を倒せるヤツを知っておきたいしな!」

「よし!なら森に何パーティか送ろうか?」

「おう助かる!まあ3パーティーぐらいで足りるだろ?まあ日々のクエストしながら探してくれや!」


 そうしてギルド内で、【フレイム・ベア】を倒した魔剣士を探す動きが始まっていた。


 ◇◇◇


 一方その頃、倒した事すら知らない張本人は……。


「ぬぅぅ……羊が……936匹……羊が……937匹……くそう!寝れねぇ!」


 一人昼間っから羊を数えていた。











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