第26話 海の怪物クラーケン
海だねぇ、海。なんで生命の源足り得る海ってのはこうも清々しく人の心を掴んで離さないんだろうねぇ。
「ネルラ様、あの───」
いやぁ謎だよ謎。世界の謎っていっぱいあるよね。うん。
海風がなぜ目にしみるのか、青白い水面の下にいる生き物は何に突き動かされて生きているのかとか。
「ネルラ様?なぜ泣いているんですか!?」
え?泣いてる?はははまさか。泣いてないよこれは多分海風で目がやられただけだよ。そうだよそうなんだよ。
「……ネルラ様、無理しなくていいんですよ?」
うんうん、無理しなくていいか────、
「なんで俺ずっと襲われてるのぉ?!というか酷い話をしていい?なんか聖騎士さん達頭おかしいの?!会う度に喧嘩しないかと騒ぎ立てる人もいれば、とりあえず肉体を破壊してこようとする人もいるし、あげくの果てに
──人の貞操をがんがんに奪ってくるやつまでいるよ?!俺怖いよ?この船にまだ乗っていなきゃ行けないことが!?間違えたよ乗る船絶対間違えたって!?ここが聖騎士の船な訳ない、性騎士とか蛮族とかの間違いだって絶対いいいい!!!!」
俺は吐き出した。心の奥底にしまいたくなった嫌な思いも、溜め込むべきじゃない事も全て。
そしてその上で、俺は思った。
なぜ俺だけがこんなに辛い思いをしなくてはならないのか、と。
これが破滅フラグから逃れたネルラにおそいかかる試練だとは、あんまり思いたくはなかった。
遠くの方で、遠雷が鳴り響き。風が少しだけ寒くなった事にネルラはふと嫌な予感を覚えた。
◇◇◇
気がついたら俺は水中にいた。
「────」
そして俺を水中に落とし込んだ魔物が、俺をじっくりと狙っているのが見えた。
「───ごぼぼぼぼぼぼぼ(ふざけんなよいきなり!)」
ついさっきまで俺は若干不貞腐れていた。そしてそのまま戻ろうとした瞬間、身体に蛸の脚が巻きついたのだ。
ネルラは確かに身体能力は高い方だ。だがさすがに自分の体よりも大きな蛸に絡みつかれては、どうしようもない。
というか、辺りを見回すと何百匹もの蛸が大群で船の周りにひしめいていた。
中には船よりも大きな奴まで見えた。
「?!────(タコだらけッ!?)」
そのうちの一体が放った触手が俺を叩き落としたことぐらい、すぐに分かる。
だがどうするべきか。
俺はすぐに船に戻ろうとする。しかしあまりの数に戻るまでに殺される可能性も否めないということにすぐに気がついた。
「───ぼぼぼ……(なら!)」
俺はすぐに魔法を使うことを決める。
剣は近くにないけれど、それでも───、
◇◇◇◇◇
「ガウェイン卿!!なんですかこの蛸の群れは!!」
「イカです。クラーケンの大群です!そこの区別つけといて!!」
「どっちでも変わらないわ!というかさっさと迎撃しなさい!」
「無茶言うな!私の魔法が水の下の魔物に当たると思っているのか!?」
「私の風も同じだバカ!」
「残念ながら私の魔法も水の下の敵には効果無しです」
ガウェイン卿とゲイルと、さらにシャルルも合わさり現状の打破について話し合っているところであった。
ゲイルは一人どうするべきかを考える。この場には三人の聖剣使いが居る。
しかしその三人とも水の中から襲い来る魔物に対する力は有していない。
まだかろうじて自分の神聖風魔法が効くか?といったレベルの話なのだこれは。
「そもそもなぜ魔物が襲いかかってくるのだ!?この船は神聖防護結界で覆われていて、基本魔物は近寄れないはずでは無いのか!?」
ガウェイン卿の言葉に、ゲイルは。
「その防護結界はネルラ君の魔法で消し飛んだよ」
そう伝える。──なんて事だよほんとに。
ゲイルは一応魔物が襲いかかって来る可能性は否定していなかったし、何より自分の早とちりてネルラ君に魔法を使わせた結果船の結界を破壊してしまった事にある程度負い目を感じてはいた。
だからこそ、枢機卿に頼んで魔法防護結界の術式を編み出して貰っているさなかの事だったのだ。
ちなみ枢機卿は二徹の末、そこら辺で伸びている。
さっきからシャルルが何回か水をかけてみているが、あまり効果は無さそうだ。
「───仕方ない、ガウェイン卿!あんたなら炎でこの船にまとわりついてるクラーケンの腕たたっ斬れるだろ!?それで強引に船を進めるしかない!この海域に長く留まり続けるのは危険すぎる!」
そう、ここはバミューダオクタグラム。八芒星の形に連なる大海の中の亡霊地帯。
あまたの船を沈める怪物が潜む海域なのだ。
だからこその、防護結界だったというのに──彼の魔法でそれが無くなり……あげくそれの修理をする前に襲われてしまうとはッ!
「?!ッ!……何だこの揺れは!」
突如船がぐらりと揺れる。
「ほ、報告します!クラーケンが……この船の下から突き上げるように移動しています!」
「?!このままでは転覆……してしまう!……クソ、こうなれば…………」
ゲイルはすぐさま覚悟を決める。
「騎士たち、及び乗組員各位に通達する!──今から私は聖剣を解放する!!!」
そう、この事態をどうにかするには……聖剣を使用する他ない。
「本気か?ゲイル!……こんなところでお前が使ったら戦力が……」
「だからあの少年が居るだろう!──彼ならば私と同じかそれ以上に役に立つ!……それよりも今すぐここから逃げないと話にならん!」
ゲイルの言葉にガウェイン卿は静かに「承知した」と告げると、すぐさま騎士たちに退避命令を出す。
「───次に使えるのは三ヶ月後──だが、生きる為だ!!」
静かに、そういうとゲイルは甲板に走っていく。
目下にはあまたの触手渦巻くバミューダの怪物。わさわさとひしめくそれをゲイルは睨みつけながら鞘から剣を引き抜くのであった。
◇◇
──「あふぅ、……逃げきれた」
ちょうどその頃、ネルラは無事蛸足から逃げ切ったのであった。
「……手に光を纏わせて、殴る。──案外効果あって良かったーーー」
そしてその技術が、
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