第27話 聖剣解放

「ね、ネルラ様っ!無事でしたか!!─────、う」


 何とかガレオン船の中に戻ると、瀕死の状態のルクスがいた。

 何かと思って尋ねてみると?


「え、えっと…………私、魔剣じゃないですか……そして私って魔属性なんです……そしてネルラ様が神聖魔法を使うと……自動的に私にもその属性魔力が流れるんですね。そして魔剣の弱点の属性って知っていますか?──神聖属性なんですよ」


 無理した笑い方をしながら、ルクスは云う。


「あと、この体って魔剣の魔力で作ってるんですよ。だからが入ってこんな風にボロボロになっちゃってるんです。あ、でも気にしなくていいのですよ?──私はの魔剣ですから、すぐに肉体は再構成して補強されてますから!あとネルラ様の肉体も同じですよ!」


 そういうと、やはり無理して笑う。


 俺は無言でルクスを抱きしめ、静かに謝る。


「?!ね、ネルラ様落ち着いてください、……私は別に大丈夫なんです。むしろ何度も壊して砕いて頂いた方が余計に強く、貴方様の力になれるのですから!」


 それでも、と静かに俺はルクスを撫でる。

 確かに筋肉もそう。筋肉繊維を壊して、それを修復する時により太くなる訳だし、ルクスの言葉は多分嘘じゃない。

 だけれど、それは果たして彼女を痛めつけているのと何ら変わりないのではないか?


 神聖魔法を使う度に、ルクスが言うには俺は多分強くなる。それに伴ってルクスも同じように強くなるのだろう。

 ──そう考えると俺が神聖魔法を多用して、無双した場合、チート無双に近い事が出来るのかもしれない。

 どんどん強くなれる。それだけでもかなり価値があると言えるだろう。


 けれどそれは痛みで呻くルクスから目を背けた場合の話だ。

 少なくとも、この子はネルラが生まれて直ぐに手にした剣であり……ずっと共に生きてきた半身のようなものだ。

 だから苦しむのを見るのが怖い。

 痛みで呻く姿を見たくない。そうネルラの魂が訴えかけてくるのだ。


 ──全く、他人のことを自分事のように考えるのは良くないぜ?ネルラ君よ。


 俺は静かにネルラの魂に尋ねる。

 ──強くなれば、ルクスのダメージを減らす方法を見つけれるかもしれないだろ?

 それに時間があまりない。


 俺は破滅フラグが常にそびえ立つ今の状況を鑑みて、改めて思う。時間が無いと。


 ルクスは腐っても魔剣だ。そしてネルラは魔剣を手にした瞬間、破滅フラグによる死がカウントダウンとして追いかけてくる。

 ──どこでどのフラグを引くのか、分からない状況。

 そして何より、今は聖剣の国に向かう途中だ。

 原作内に存在しないルートをあゆむ俺にとって、破滅フラグがどこに潜むのか分からない恐怖を克服するためには──破滅フラグをへし折れるぐらい強くなればいいだけなのだ。


 ふと、そんな事を考えていたところ───


 目下のクラーケンが再び触手をぐるりと回してガレオン船を沈めようとしてくる。

 しかし風がそれを堰き止めている。


「?何だ─────」


 そして、俺は甲板に走っていき……目撃した。


 


 ◇◇◇◇◇



 風が吹き乱れる。吹き荒れる。

 彼方には既に嵐が迫りつつある。


 そんな今だからこそ、あの嵐が来る前にこの状況から離脱を決めなければならない。


 既にクラーケンの巻付きにより、大きく頑強だったはずのガレオン船は半壊していた。

 ──あと何度持つのか?


 それは神のみぞ知ると言える。ただ一つ分かるのは、このままだと死ぬということだけだった。


「──────やるしかない、のだな」


 静かに、ゲイルは甲板の先穂先の頂点に座し、その聖剣を鞘から引き抜く。



「真名解放。────詠唱開始」


 その時、風がささやいた。


 "静かにしなさい"と。


「──其処にあるのは風の灯火。烈風渦巻く白の渦。瞳は何処に、その躯にて天を地を潰す。神はその渦に名を与えん。


 ───激風、地を侵食し、逆巻く水面は哀れ散りゆく。紅葉は川となり、瞳に魅入られた民は救済を祈るだろう。


 ──答えは得た。過ぎ去りしその骸は、絶えずして点描の民に救済を与えん。祝福は何処に。我が名、我が命に答えその力を、約束を果たせ。


 ───真名・シャスティフォル───


 汝は全ての風を咎めるもの。故に突風ゲイルの名においてその力を────放て!!!!シャスティフォル!!!!」




 一陣の風が、海に吹き荒れた。


 それは風の聖剣シャスティフォルの魔力解放であり、三ヶ月間溜まり続けた神聖魔力の結晶。


 それが今、真名解放と共にクラーケン目掛けて吹き荒れた。


 クラーケンは風により、粉微塵になり果て……ガレオン船は風の力によりはるか彼方まで飛び上がるのであった。


 ◇◇◇◇


「────は……は……はは……これが……聖剣?」


 俺はただ唖然とその痕を見た。


 人の力、人が振るう力で────割れた海を見た。

 深淵のように深き海底が、わずかながら露出する程の天津風。


 …………聖剣はどうやら、自分が思っているよりも遥かにやばい代物なのかもしれない。

 そう俺は思ったのであった。


 だが、俺はその直後見た。

 割れた深淵から這い出るを。


 その瞬間、ぞわりと俺は鳥肌を抑える。


 まずい、あれは人が何か出来るものでは無い。

 見た目はクラーケンそのもの、しかしあれは───、


 そう思った次の瞬間、ガレオン船の目の前に……ソイツが現れた。


 真っ黒な、巨体を持つ竜。

 深海より来たりし竜が、立ち上ったのだ。


 今、先程の聖剣の力で船は飛び上がっている。けれどあいつにぶつかって落ちてしまったら──あのナニカが食らいついて来るかもしれない。


 ……ならばやることは一つ、あの竜をどかすだけだ。
















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