第25話 判断保留

「素晴らしい!君は逸材だ!!」


 ……俺はてっきりぶっ殺されるのでは?とびくびくしていたんだけど、その船に乗っていた他の聖剣士さん達からの反応は尽く自分を褒め称えるものだった。


「今回の遠征、やった価値がこの子ひとりでお釣りが来るレベルだぞ?!」


 何やらそう言っている騎士さんもいるし。


「ふむ、ふむ!君はどうやら有り得ないほどの力を持った逸材ということでね……後で私と勝負しようじゃないか!勿論逃がしなどしないぞぉ?」


 とか言ってる血の気の多い騎士さんもいた。……怖いって俺普通の人だよ?

 そんなふうに思いながら、俺を乗せた船は海を轟々と渡る。

 天井に空いた穴に関しては、魔法で直してくれるそうだ。

 ──便利だねー魔法。


 ◇◇◇


「それで彼の魔法に関して何か分かったことはあるのか?」


 ネルラがのんびりとくつろいでいる間に後ろではかなり話し合いが必死に行われていた。


「……落ち着いて聞いてください、ガウェイン卿、シャルル卿、ゲイル卿……彼の属性は【神聖属性】です」


「?神聖?とは何ですか?……我々の属性はメインとサブに別れていますが、私なら──」


 ガウェインはそういうと手の中に焔を生み出し、それを握り潰す。


「私なら炎/聖属性のようにメイン効果は炎系列、そこに追加で聖属性が聖剣から付与されているという形なはずですが。彼……ネルラという少年は違うと?」


 ガウェインの言葉に枢機卿【イシュミール】は静かにその通りと答える。


「彼の魔法属性は【神聖】……神聖魔法の属性が神聖なのです。わけが分かりません、というかこんな事初めてなんですよ」


 枢機卿という、聖剣の騎士団の中でもかなりの立場の彼がそう言うのだ。他の騎士たちや聖剣士も黙る他ない。


「普通は、聖属性の魔法なら聖属性/○○属性となるはずです。──ですが彼は……神聖属性だけなんです。訳が分からない!!なぜ一つしか属性が無い人間が居るんだぁ!?分からない、あぁ分からないッ!」


 枢機卿イシュミールはそういうと、静かに発狂した。


「──ともかく、だ。彼は私達に取ってかなり切り札になり得る存在だ。……その意見に間違いは無いな?」


「えぇ、えぇ!もし彼が我々と同じように戦ってくれるのであれば──あの、すら簡単に打ち破って見せるでしょう!!」


 イシュミールは半狂乱になりながらも、そう力ずよく叫んだ。

 その言葉にシャルル卿は静かに尋ねる。


「それは間違いないのか?我々に彼は協力してくれると言い切れるのか?──少なくとも私はあまり賛同しかねると思うのだが。あれは間違いなく敵になる。─船を簡単に消し飛ばせるであろう存在を野放しにするべきでは無いと思いますが」


「言い切るじゃないですか。流石はシャルル卿。頭の硬さは世界一ですね。まぁ私も概ね同じ考えですよ──確かに彼は強いし、何より不明な力を持っています。謎の再生能力とかね。……そして彼の身体能力、あれは私が見た限りかなり高いと推測できるのですよ。もしあれが敵側に回った時、私達が死ぬ可能性が否定できません」


 ガウェイン卿は冷静にそう言ってシャルル卿の言葉に付け足した。


「なるほど──だが、私は彼を信じているよ。──少なくとも船を壊した直後に謝れるような──君たちみたいにものを壊した後に謝りもしない聖剣士よりは余っ程ね」


 そう言ってゲイルは静かに二人を睨む。


「我々がいつものを壊したのですかね?ガウェイン卿」

「さぁね?分からないなぁ、シャルル卿」


 ゲイルは静かに苦虫を噛み潰したようなり顔をした。

 こいつら、自分の仕事の後始末をしないから……おめぇらの悪評どれだけ祟ってると思ってんだよ!

 ──アンタらの仕事の始末の度、子供や村人から仕事が雑な奴が来たとか、怖いから助けて欲しいとか散々なんだぞマジで!


 ……ゲイルはそう思いながら静かに唇を噛む。血の味が少しだけした。


「──ここは一旦本拠地である【キャメロット】に戻ってから考えるべきだと思いますよ?──我々だけの意見で判断しては怒られてしまいますからね」


 発狂から戻ったイシュミールが静かに三人に告げた。

「─枢機卿の意見だ、我々は意見する必要は無い」

「だな。まぁ彼が危ないヤツだと分かれば即刻殺す」

「──はぁ、アンタら少しは頭で考えてくれよ」


 そうしてネルラへの判断は保留となるのであった。


 ◇◇◇◇◇


「なるほど……一旦保留という事ですか──わかりました。まぁ怒られるのかと思ってたので何も言われなくてほっとしてます!」


 そう言って無邪気に笑うネルラを見ながら、ゲイルはむらむらした思いを抱いた。


「そ、そうか──君がそういうのならまぁ、うん、大丈夫だよ君は怒られることなんて無いからさ」


「そうですか?ありがとうございます」


「あー可愛い食べたいなぁ(そうかやっぱり君は素晴らしい人だ。ぜひ我々の国の為にたたかってほしい)」


「え?」


「?あぁ、すまない。口から漏れてたか──まぁ聴いてしまったのだろう?なら仕方ない、仕方ないんだよね 」


「─────」


 そうして俺は腕をがっしりと掴まれて、再び大人の階段をひた走る羽目になった。

 ──あと何回襲われるのか、それは神のみぞ知るのかもしれない。




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