第29話 会議

 .........私は夢を見ているのだろうか?


 目を擦る。何度も何度でも擦る。

 それで夢が覚めるのならば、何度だって擦ってやろう。


 だが夢は覚めなかった。つまり今目の前で起きたことは正真正銘本当に起きたことということなのだろう。


 だが流石に信じ難い。いや信じた瞬間に、裏切られるのでは?などとも思ってしまう。

 それでも、船の進む道のりにいた障害物は全て完全に取り除かれた。


 何が起きたのか、私はすぐさま後ろを振り向いた。

 船の下、さっきまでクラーケンが居たはずのそこに一人の人間が浮遊していた。


 少年、おそらく今の一撃を放った張本人であろう彼はそのまま落下していくでは無いか。


 おそらく魔力が尽きた、もしくは.........緊張の糸がほぐれたからかもしれない。

 私は直ぐさま風のゆりかごを作り出し、彼を優しく包み込んだ。


「やはり君は凄かったのだな。.........しかしとても良い寝顔だ。うん、君が起きていたのならば直ぐさま襲って食べちゃいたいぐらいの良い寝顔だよ」


 そういうとゲイルは静かに彼を連れてベットルームに運ぶ。

 彼にとって幸運だったことは、船が飛んでいるということであり、そしてそれを制御するためにゲイルは甲板にたっている必要があった事だろう。


 ◇◇◇◇



「ゲイル様!先程のあれは.........一体何事だったのですか?」


 部下の言葉に私は

「さっさと仕事に戻れ!.........今襲われる可能性も十分にあるのだぞ?分かったか!」


 そう言って叱咤激励を述べてから他の聖剣士達と合流するのであった。




「来たかゲイル。それで先程のあれは、一体何だ?」


 ガウェイン卿は血も拭かず倒したワイバーンの鱗が鎧に刺さった状態で真剣な目付きで私を見る。


「ガウェイン卿、君はまずは服やら鎧やらを着替えてきたまえ。……まぁあれはあのネルラという少年がやったことだろうね。しかも魔法で」


 ガウェイン卿はだん!と机を叩き、そして

「あの少年がやった、だとっ?……ふざけているのかお前は!!あれは紛れも無く並の聖剣士の聖剣解放に並ぶ火力だったのだぞ?!それを彼はただの魔法でやった、だと!?」


 そう言って机をぐしり、と軋ませる。

 手をついている場所から煙が立ち上り、少しだけ部屋の中を煙たい空気が包んだ。


「ガウェイン、まあ落ち着きを取り戻せ。確かにあのネルラという少年がやったとは信じ難いだろう。だが待てよ?──あの少年は実際に我々の船の上層部を丸ごと吹き飛ばした男だ。……それぐらいしてくる可能性を私も否定できんぞ」


 シャルル卿がそう言って唸る。


「シャルル!……たしかにな、確かに確かに。……いやしかし、可能なのかそれは?」


「可能か不可能かで言うと、結果が全てだ。全て加味するならば可能だろうて」


「……そうか。お前がそういうのならば、可能だと言えるのだろう。……それであの少年をどうやって?」


「ふん、お前は始末する必要があると?思っているのか」


「当然だ。あんな危険な代物、はっきり言って我々の国に災いを及ぼすぞアレは 」


 ガウェインはそういうと机を潰す。


「ああ、今昼か……私の意見だが、あれを逆に制御できた時のメリットを考えたら余裕でお釣りが来ると思うが?」


 シャルルの言葉に私も同意を示す。


「……少なくとも俺は反対だ。あんな化け物、ウチで管理できるはずが無いだろう」


「大丈夫だ。我が王もいるのだし、マーリン殿や聖女グィネヴィア様の力があれば御せるだろうて」


 シャルルの言い草は少し気に触ったが、それでもゲイルとガウェインは納得を示した。


「ならばさっさとこの船を立て直すぞ。……悪いがまだ船旅は続くからな!!」


 ゲイルはそういうと直ぐさま外にいる部下を呼びつける。


 ◇◇◇


「……これでひとまずこの船は進めるだろう」


 風で浮いているうちに、下に兵士を送り込み修復を済ませたあと私は船を安全に水場に着水させた。


 既に危険な海域は越えたのだ。それ故に少しだけほっとしながらも、ゲイルは静かに空を睨む。


「…………まだ嵐が来るな。それもかなりでかいヤツが」


 湿り気を孕んだ風が吹き荒れる甲板で、一人そうつぶやくゲイルであった。


 その言葉の通り、すぐに嵐の中に船は突入していくこととなるのであった。


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