第30話 聖域

 船の揺れを俺は感じながら目を覚ます。

 やはりというかまあ知ってたけど、俺の周りには兵士さんが山ほど武器を構えて待機していた。


「あの〜別に俺は何もしないっすよ?」


 言葉に即座に兵士の中でもかなりごつい装備の人が答える。


「知っている。そもそもこれは貴方を守るための措置だ。……君は多分だが嵐の中で身を守る術を知らぬだろう?……嵐の中ではと呼ばれる魔物が出るのだ。それは特に眠っている人や弱っている人を襲う習性を持っているからな。……君は寝ていたが故に我々が守っていただけなのだ……すまない、結界さえあればどうにかできたかもしれないのだが」


 なる程そういう事か。

 俺はすぐに立ち上がると、揺れる船の中バランスを取りながら武器を取りに行く。


「ありがとうございます兵士の皆さん。俺はもう大丈夫なのでみなさんも解散してください」


 そう言いながら、俺は武器に光を纏わせる。


「?!……光の属性付与エンチャント……わかりました、我々は直ぐにこの場から元の位置に戻ります。ですが……無理だけはしないでいただきたい。貴方様は我々の国にとって何よりも重要なのだとゲイル様から聞かされていますから」


 そういうと兵士の人達はその場から離れて行く。


 最後までそれを見送ったあと、俺は静かに武器を構えて光を放つ。


 …………「光あれ」


 そういうと、先程歩いていた兵士たちの足音がピタリと止んだ。

 続けてガシャッという鎧が落ちる音がして、それっきり静かになった。


 やはり彼らはゴーストだったのだろう。

 俺に触れることもしなければ、光を見てすぐにその場を離れようとしたし。


 ただ彼らの話的に、彼等は少し前に嵐に飲み込まれたとかいう事なのだろう。

 それ故に自分が死んだ事に気がついていなかったのか……それは分からない。


「ケイオスさん、この場を凌ぐ技とかってありますか?」


 俺は神聖剣にそれを尋ねる。

 すると答えは"あるよ"であった。


「…………神聖魔法発動。其れは如何なる者も犯せぬ絶対の領域。顕現せよ────聖域サンクチュアリ


 剣を地面に刺し、そして光を巨大なドームのように放つ。

 するとあちらこちらでガシャガシャという物が落ちる音がした後、その音は途絶えた。


「!!ネルラ君!生きていたか!……すまない先程ゴーストシップと接触して処理に手間取ってしまってな!……よく生きて……いや待て先程なにか魔法を使ったのか?私たちに刃向かっていたゴーストの群れが消えている?」


「はい、ゲイルさん。聖域という魔法を使いました。多分これがあるので船が攻撃されることは無いと思います」


「?!せ、聖域だとっ!?それは聖女にのみ許された魔法だぞ?!」


「まあじゃあ違うんですかね?」


「いやぁ、うーん違う訳では無いのか?わからんな……ただ間違いなくゴーストを弾く効果のある領域を呼び出してくれた事実は変わらない。ありがとうネルラ君!」


 そう言ってゲイルはすぐ外に飛び出して行った。


 その後しばらく船旅は平和を取り戻すのであった。


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