第31話 旅は一旦おしまい

 聖域、それが何を意味するのかを聖剣士は知っている。

 聖女グィネヴィアだけが作れるはずの絶対防壁空間。

 ありとあらゆる邪なるものを弾く完璧なる防護の力。


 そしてそれをこのネルラという少年が使ったということに聖騎士及び聖剣士は静かに唸る。


「まさかはったりではなく、ここまでの効力を有するとはな」


 ガウェインはそういうと自分たちの今いる空間を守っている光の領域を眺める。

 嵐の中だと言うのに、まるで船は傷つく事がなく……それどころか中に居るだけで魔力と、体の傷すらも治癒されていく。


「……こんな魔法を使える奴を殺す会議をしていたのか。我々は。はん、馬鹿らしい話だ。……こんな化け物を殺せるわけが無いだろう?それよりもより上手く使う方が利益になる」


 シャルルの言葉にガウェインも頷く。


「まあそういうことなら話は早いか。……というかこの魔法どれだけ続くのさ」


 ゲイルはふとそう思った。

 そもそもこの魔法を展開してから既に一日が経っている。

 その間ずっとこの魔法は展開されっぱなしであり、どんだけ魔力があるのかと若干みんな呆れているほどだった。


 船は静かに嵐の中をひた進む。

 その道中で本来起こりうるはずだった全てのトラブルは……ネルラの展開した聖域の効果により全て取り除かれたのであった。


「今回は彼に感謝せねばな」


 それが聖剣士たちの総意である。


 ◇◇◇◇


 ちなみになぜネルラが聖域を止めなかったのか?その答えはかなりシンプルなものである。


 ────止め方が分からなかった。というか止めようとしたけど、ケイオスが自動的に継続して展開してしまっていた。故にどうしようも無かったと言う話だ。


 いやほんと参ったよ。止めらんねぇから怒られるかと思って冷や冷やしてたのに、なんにも言われ無かったもんね。


 むしろ褒められたし感謝されちゃったぜ?

 まあ自分の不手際でやね吹き飛ばしてしまったし、その代わりになってたら良いなーという感じなんですけどね。


 ───その後船は無事に聖剣の国へとたどり着くのであった。


 まあ入る前に、少しトラブルが起きてしまったんだけどね〜。


 ◇◇◇◇


「な、何だありゃ!?」

「ふ、船が光ってるぞ!?」

「だ、誰か聖騎士様を呼んできてくれ!」


 まあ聖域が展開された船とか、普通は有り得ないからね。

 その為結構な時間をかけて説明をした後……何とか上陸する事ができたのだ。


 ◇


 船から降りると、心地よい風がネルラの髪の毛をサラリと撫でる。

 隣にいた禿げ上がったおっさんも同じように頭を撫でる。

「かつら……作らなきゃ……」


 そんな声が聞こえた気がした。


 船から降りた俺が感じたのは、昔旅行に行った時に感じた異国の風そのものだった。

 匂いの質が違う感覚?

 多分使っている香料も食べ物も、生活文化がまるで異なるからこその匂いなのだろう。


 実際街中にはイングリシアの時の人とはまるで異なる服装の人々で溢れかえっていた。

 ケルトチックな服に、陽気な音楽が街の中を流れており、異国情緒溢れるその景色は本当に自分が別の国に来たのだと言うことを理解させてくれた。


「ネルラくん、君にはこの服を着てもらうぞ 」


 突然後ろからそういうなり、俺の服をばさぁと脱がせてくるゲイルさん。

 そしてびっくりして固まっている俺になにかの服を着せていく。


 ……なるほど、これは……。


 俺が最終的に着せられたのは、のような感じの服だった。

 所々に鎧もあるので、聖騎士見習いのような格好と言ってもいいかもしれない。


「あと、この国での君の記録をつけるための道具だよ……まあイングリシアでは確かギルドカードと呼ばれていたが、こっちでは聖刻印と言うから、まあ無くさないでね!」


 そう言って手渡されたのは、ペンダント型の道具だった。

 ……どうにも不思議な形のペンダントだと思いながらも俺はそれを首からかける。


 こうして俺は聖剣の国での物語を始めるのであった。

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