第41話 波乱波乱
その日、聖剣の国は大騒ぎとなった。
理由はただ一つ、聖女が爆破されたからだ。
いつも通り聖女グィネヴィアが紅茶をほかの修道女に振舞っていた時のこと、突然背後に爆発寸前のアダマントウィッチが出現。それから修道女達を庇うために身を呈した結果、かなり重症を負ってしまったのだ。
とはいえ、ここは聖剣の国。そして回復に特化した人間が最も多い国だからあまり問題は無かった……訳では無かった。
聖女が倒れた、つまり意識を完全に失った事で彼女が常時展開していた聖域が各地で消失してしまった事の方が問題だったのだ。
聖域とは簡易的に強大な魔物をも封じれる貴重な魔法であり、さらに人々の安全地帯となる場所を作り出す事にも利用されてきていた。
それらが今回の爆発により、突如として失われたのだ。
聖女グィネヴィアが意識を取り戻した時には既に、各地で封印されていたはずの魔物たちの暴動が乱発。挙句の果てにたくさんの国民からヘルプが飛び交っていたという、まぁ言ってしまえば……地獄絵図だ。
聖女はその事に唖然としながらも、必死に結界を貼り直し、聖域を展開し続けた。しかし既に魔物は次々と溢れ出し、そしてその一つが聖女が住む神聖殿にまで押し寄せていた。
当然ではあるが、聖女を守る為に聖剣士達はこぞって各地で聖剣を抜刀した。
僅か3本を除いて、全ての聖剣が抜刀されてしまったのだ。
───それが果たして何を意味するのか。
…………聖剣は魔物を倒す切り札である。そしてそれが僅かしか無いと言うのは、つまるところ。
絶体絶命という訳だ。国の危機と言うべきかもしれないがね。
◇◇◇◇
そしてこの状況を受けて、アルトリウスは対応におわれてしまっていた。
そんな状況下で議会の連中が怪しげな行動をしていたとしても、気がつくことはなかったというわけだ。
そうして、全ての歯車が最悪な形で回りきった。最も空回りかもしれないし、それが回るべきか分からない歯車だったりしたのだが。
事件は突然起こった。
後にアルトリウスの謀反と呼ばれる大事件である。
それは現状をどうするのかと話し合うはずの議会で、アルトリウスが剣を抜刀しそこにいた議員を斬り伏せたと言うことだった。
そしてその時、斬りふせられたのがなんと聖女グィネヴィアだったと。
波紋はすぐに街を、国の中をひたすらに駆け巡った。そしてそれにより聖剣の国の王であるアルトリウスを弾劾する動きが各地で盛んになってしまったのだ。
グィネヴィアは訴えた。
「──私をあの人は、後ろから斬り捨てたのです。あってはならない事です、私というこの国の守り神を殺そうとするなんて!!」
普段から物言わぬ聖女が、そんな風に声を荒らげたのだ。当然ながらファンクラブがあるほどの人気を持つ聖女の言葉を素直に信じてしまった国民であった。
あっという間に、国の中でアルトリウスを殺せ!王位を剥奪しろ!と声が溢れ出した。
そんな中、議会の一人の男が声を上げたのだ。
「国民のために、叛逆者であるアルトリウスをこのヴォーティガンが討ち取った!と」
その男が一体いつから議会の人間として存在していたのか、国民は疑問に思うこともあった。しかし国民は何故かその言葉を信じてしまったのだ。
叛逆者アルトリウスはこうして王の座から引き摺り落とされた。そして聖剣エクスカリバーはヴォーティガンの物となったのである。
「私が新たな王、ヴォーティガンとしてこの国をより良くしていく。その為に国民達よ力を貸してくれないだろうか!!」
そんな軽くて、はっきり言ってあまりにも胡散臭い言葉を、国民は何故だか感嘆の言葉と共に受け止めたのだった。
そして国の中から腐り始めた聖剣の国。
聖騎士、聖剣士が軒並み腐り始めるのも時間の問題であった。
◇◇◇◇
「というわけなんだ。ははっ……笑えよ」
「えぇ……いやすっごい事になってますね……」
そう言ってネルラは目の前でお茶を飲んでいる傷だらけ……(まぁさっき治したのでましになった感じではある)の女性の言葉を呆れながら受け止めた。
「……なあ、私はどうするのが正解だったのだ?教えてくれ、外から来たという聖剣使い殿よ」
「……わからないです。アルトリウス様」
何故か国王だった女性と、お茶を飲むことになってしまったネルラであった。
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